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8月1日、BMWスタジアム平塚。J1リーグ第8節、スペイン人監督ミゲル・アンヘル・ロティーナが率いる4位のセレッソ大阪は、16位の湘南ベルマーレの本拠地に乗り込み、0-1と際どい勝利を収めている。色気を見せない堅実な守りから、しぶとく奪い取った1本のPKを清武弘嗣が決めた。
「スペイン人監督なのに、あんなに堅いサッカーをするんですか?」
今でも、対戦する選手たちからはそう驚かれる。
湘南ベルマーレ戦で戦況を見つめるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督(セレッソ大阪)
しかし、そもそもスペインサッカー=攻撃重視という図式は成り立たない。攻撃的キャラクターの選手が多い国ではあるが、多くの監督は現実的だ。フレン・ロペテギ(セビージャ)、ホセ・ボルダラス(ヘタフェ)、ホセ・ルイス・メンディリバル(エイバル)などは、いずれも強度の高い守備を基本としている。マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラのような監督は、むしろ少数派だ。
ロティーナは、スペイン時代から筋金入りの”守備戦術のスペシャリスト”である。性分なのだろう。組織を要塞化することで、一息つくのだ。
ヌマンシア、オサスナを1部に昇格させ、セルタをチャンピオンズリーグでベスト16に、エスパニョールをスペイン国王杯優勝に導いた。一方、レアル・ソシエダ、デポルティーボ・ラ・コルーニャ、ビジャレアルを3連続で2部に降格させたこともある。いい時代も悪い時代も、姿勢は一貫している。
「守備の安定のみが、いい攻撃を生む」
その定理はセレッソでも変わっていない。
湘南戦のセレッソも、実に堅牢だった。
4-4-2のブロックはほとんど崩れていない。ラインが密接に結びつき、相手を間に入らせず、入ってきたら押しつぶす。相手のスペースやコースを狭め、絞り、とことん自由を奪う。それぞれが持ち場を守りながら、チーム全体で守備のリズムを作って、相手の焦りを募らせ、ミスを誘発させる戦法だ。
湘南は盛んにサイドチェンジを多用。そこからのクロスで城壁に穴をあけようとしていた。
しかし、大外からのアバウトなクロスでは、マテイ・ヨニッチ、瀬古歩夢という高さに自信のあるセンターバックに跳ね返される。コンビネーションで崩すには後ろが重たく、打つ手は乏しかった。唯一の活路は、強いプレッシャーからショートカウンターを狙う形だったが、決め切れなかった。
セレッソは、前半20分過ぎから10分間ほど、守備に乱れが出ていた。たて続けに自陣でパスミスを犯し、失点を食らってもおかしくなかった。
しかし、高い練度を誇る守備は、やがて落ち着きを取り戻す。そしてロティーナは、守るだけでなくゴールの手段をいくつか用意していた。そのひとつが、右サイドで躍動した坂元達裕だった。
後半27分、右サイドでボールを受けた坂元は、エリア内でディフェンスを背負った選手に右足で縦パスを入れると、マーカーを引きはがすように猛然と駆け寄って、エリア内で再びボールを受ける。そこで後ろからディフェンスに倒され、PKを得た。
一瞬のプレー強度で、相手を勝ったのだ。
ロティーナはスペインの中でもバスク人だ。バスクのチームは”同足”(サイドと同じ利き足)のサイドアタッカーを使う場合が多い。単純に縦を突っ切る馬力、もしくは絶対的クロッサーを配置。たとえばバスクの名門アスレティック・ビルバオの右サイドは、圧倒的なパワーとスピードを誇る右利きイニャキ・ウィリアムス。レアル・ソシエダも、プレーインテンシティが高く、一気にエリアに突っ込める右利きポルトゥだ。
世界的には逆足が全盛だ。例えば左利きのリオネル・メッシ(バルセロナ)、モハメド・サラー(リバプール)、リヤド・マフレズ(マンチェスター・シティ)、久保建英(マジョルカ)は右サイドを担当し、中に切り込む。
ロティーナは、今シーズンは右サイドに馬力のある坂元を起用しているが、昨シーズンはJリーグ最高のクロッサーと言える水沼宏太(横浜F・マリノス)を好んで使っていた。”同足”はタッチライン際でボールを持って、仮にボールを失っても、(中央の危険地帯への守備を)立て直せる猶予が長く与えられる。その点も、慎重な指揮官らしい。
ちなみに、左は右利きの清武弘嗣を使うが、彼はインサイドでプレーメイクし、左サイドバックの丸橋祐介が高い位置を取る機会が多くなっている。
ロティーナは単なる”守備の人”ではない。それは哲学や理念、キャラクターに近いだろう。究極的なリアリストなのだ。
「今日は難しい試合だった。相手はよく守っていた。2、3のカウンターも食らい、危なかった」
湘南戦後、ロティーナはそう語っている。自軍の勝利に浸るよりも、敵の守備を賛美し、現実に目を向ける。石橋を叩いて渡る性格なのだ。
8試合で9得点5失点。その数字は、いかにもロティーナと言える。セレッソは2位に浮上した。