2020年1月、かつて「ウィンブルドン」を制した2人の名選手、ゴラン・イバニセビッチ(クロアチア)とコンチタ・マルチネス(スペイン)の国際テニス殿堂入りが発表された。1955年に史上初めて7人…

2020年1月、かつて「ウィンブルドン」を制した2人の名選手、ゴラン・イバニセビッチ(クロアチア)とコンチタ・マルチネス(スペイン)の国際テニス殿堂入りが発表された。1955年に史上初めて7人のアメリカ人選手にこの栄誉が贈られてから65年。トータルで世界27ヶ国の259人が、テニス界の中でもひときわ特別な地位を授けられてきた。【投稿】伝説プレーヤーが勢ぞろい、テニス殿堂からファンへ参加の呼びかけ!

残念ながらこの27ヶ国の中に、いまだ日本は含まれていない。1975年からアメリカ人「以外」にも本格的に扉が開かれ、2019年には中国のリー・ナが、アジア国籍の人物として初めて殿堂入りを果たした。ならば錦織圭や大坂なおみの名が刻まれる日だって……いつか来るかもしれない。

ただし来年すぐにとはいかない。殿堂入りにはそもそも、大前提がある。それは「過去20年以内にプレーヤーとして活躍したこと」であり、同時に「過去5年以内にATPやWTAでの活動がないこと」。すなわち引退してから最低5年は待たなければならない。

逆に殿堂入りしてからの現役復帰は許される。2007年に2度目の引退を発表し、2013年に殿堂入りしたマルチナ・ヒンギス(スイス)は、殿堂入り発表直後にダブルス選手としてコートに戻った。また2017年殿堂入りしたキム・クライシュテルス(ベルギー)は、2020年2月に復帰し、現在唯一の現役殿堂選手である!

もちろん引退から5年経っても、誰もが自動的に殿堂入りできるわけではない。まずは殿堂「候補」に任命されねばならない。候補入りのルートは2つ。現役時代の成績により自動的に資格を得るか、それともファンやテニス関係者からの推薦を受けるか。

「殿堂」と謳うだけあって、自動資格はかなりハードルが高め。例えばシングルスの場合、「少なくとも3つのメジャータイトルを獲得し、かつ少なくとも13週間世界1位に君臨」したか、もしくは「少なくとも5つのメジャータイトルを獲得」していることが条件。つまり、ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マレー(イギリス)のBIG4は、当然ながら自動的に「候補」になる。グランドスラム2勝+世界1位21週の大坂にとっては、条件クリアまであと1タイトルだ。

一方の推薦に関しては、具体的な条件はない。そもそも国際テニス殿堂の公式サイトに推薦フォームがあるので、誰だって気楽に好きな元選手の名前を書き入れることができる。ただし毎年4月1日にノミネーションが締め切られた後、推薦された人物が殿堂候補にふさわしいかどうか、資格委員会により厳しく吟味されるのだ。

晴れて「候補」に入っても、最後の関門が残っている。例えば、2020年度は4人の名前が候補として発表されたが、最終的に殿堂入りしたのは2人だけ。残りの2人を切り捨てたのは「投票」だ。なにしろ殿堂メンバーや記者、歴史家、業界リーダーなどで構成された「投票グループ」から75%以上の賛成票を集めなければ、どんなに素晴らしい経歴があろうが殿堂入りは認められない。

嬉しいことに2019年度から、ファンもこの投票に参加できるようになった。ファン投票の1位には3%、2位には2%が、3位には1%が、それぞれ投票グループの賛成票に加算される仕組みだ。ちなみに2020年度は1位がイバニセビッチ、2位がマルチネスだったのだけれど、果たして2人は最初から75%以上の賛成を得ていたのか、それともファン投票のおかげで救われたのか。詳細は公表されていない。

長く厳しい選考を勝ち抜き、見事に殿堂入りを認められたら、例年7月にニューポート大会とともに開催される式典で正式に殿堂入りが認められる。すなわち殿堂=テニス博物館に、自らの名前と功績を永遠に刻む。またニューポートの芝コートを想起させる緑の四角い石が金の台座にはめ込まれた指輪も、特別な会の一員となった証として贈られる。ただ2020年は残念ながら新型コロナウイルスの影響で大会も式典も中止。イバニセビッチとマルチネスのお披露目は2021年までお預けとなった。

ところで殿堂メンバーとなれるのは、シングルス、ダブルスの選手に限らない。2021年と2025年には「貢献者」の、2023年には「車いす選手」の殿堂入りが予定されている。

貢献者の殿堂第1号誕生は1963年と、すでに歴史は長い。そもそも国際テニス殿堂の創設者――タイブレークの考案者でもある――ジェームズ・バン アレン自らも、1965年に殿堂に名を連ねた。しかも次回2021年からはテニスの発展に長年寄与してきた「個人」だけでなく、「団体」にも殿堂入りの資格が与えられるとのこと。

それに対し、車いす選手が殿堂内で居場所を勝ち取ったのは2010年と比較的最近だ。同分野にはシングルス選手のような自動資格はなく、あくまで推薦と投票により選出されるのだが、グランドスラムでシングルス23勝+ダブルス21勝の国枝慎吾なら……きっと満場一致で殿堂に迎え入れられるだろう。

国枝は、2020年1月に「全豪オープン」を制し、2021年に延期された東京パラリンピックで4つ目の金メダルも狙っているため、殿堂入り=引退5年目以降、はまだまだ遠い先の話。それでも日本人「初」の称号に、一番近いところにいるのは間違いない。

(テニスデイリー編集部)

※写真は国際テニス殿堂入りが発表されたイバニセビッチとマルチネス(Photo by Morgan Hancock/Getty Images)