フランス・パリで開催されている「BNPパリバ・マスターズ」(ATP1000/10月31日~11月6日/賞金総額374万8925ユーロ/室内ハードコート)のシングルス3回戦で、第5シードの錦織圭(日清食品)が第11シードのジョーウィルフリ…

 フランス・パリで開催されている「BNPパリバ・マスターズ」(ATP1000/10月31日~11月6日/賞金総額374万8925ユーロ/室内ハードコート)のシングルス3回戦で、第5シードの錦織圭(日清食品)が第11シードのジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)に6-0 3-6 6-7(3)で惜敗した。

 第1セットが終わったときには、前夜のツォンガの自信満々の台詞が若き日のボクサー、モハメド・アリの大口のように思えたものである。実際、ミスを連発してわずか23分のうちに0-6で第1セットを落としたとき、そのあまりのふがいなさにツォンガは母国のファンたちからブーイングを浴びた。  「あれはよいことだったよ。おかげで奮起して、よりアグレッシブにいくことができた」とツォンガは試合後、笑みを浮かべて言っている。  序盤、目に見えてギクシャクしていたツォンガはダブルフォールトで試合を始めると、数え上げたらきりがないほどのアンフォーストエラーをおかした。同時に錦織がいいリターンを入れ、要所でしっかりと攻撃していたことも事実である。甘いショットを叩いてフランスの客を沸かせたのはむしろ錦織のほうであり、反対にツォンガは強打を決めることはあっても断続的で、アンフォーストエラーが多すぎた。  ところが第2セットに入ると様相が少しずつ変わり始める。第2セットの最初のポイントでツォンガはドライブボレー、サービスエース、サーブ&スマッシュと、派手なショットを連発し、ついに1ゲームを取った。そしてこれを機にツォンガの強打がよりコート内に入るようになり、錦織のサービスゲームが脅かされる機会が増え始めるのである。  別人のように変わった第1セットと第2セットの間に何が起きたのか、と試合後に聞かれたツォンガは、「目を覚ましたんだよ。手遅れになる前にね。僕はよりアグレッシブにプレーするよう努め、ボールをより強く叩くようにした」と答えた。彼はていねいにボールをつなごうとする代わりにいっそう攻撃する道を選び、そのショットが入り始めたのである。  「僕は最初、少しストレスを感じていた。何でかはわからない。いいプレーをしていたから勝ちたいと思いすぎていたのかもしれない。それで硬くなってしまい、対照的にケイはすごくいいプレーをしていた。彼はいいリターンを入れ、大いにプレッシャーをかけてきた」とツォンガは振り返る。「第2セットではサービスをよくするように努め、よりアグレッシブに戦おうとした。違いはそれだけなんだ」  強打でプレッシャーをかけられた影響、あるいはツォンガの乱調につられてリズムが狂ったのかもしれない。錦織はツォンガのよいショットと自らのアンフォーストラーがあいまった第2セット第6ゲームでサービスブレークを許し、そのために第2セットを失った。  その頃までにはツォンガのサービスもかなり確率を上げていたが、錦織のほうも流れをつかみ返す鍵になったかに見えた幾つかのいいポイントがあった。例えば15-40といきなりブレークの危機にさらされた第3セット第1ゲームに見せた、バックのローボレーによるウィナー。リスクをおかしてポイントを取りにいったこのプレーのあと、錦織はサービスエースを奪ってデュースとし、それから相手のミスを引き出して危機から脱した。  錦織にも調子の波があり、我慢してポイントを奪ったかと思いきや、ミスでブレークチャンスを逃すような場面が続いたが、最終セット第8ゲームで我慢の末にツォンガのミスを引き出し、ついにブレークに成功する。続く5-3からの自分のサービスゲームで錦織は果敢にネットに詰めてバックボレーでリードを奪い、それからバックハンドをダウン・ザ・ラインに叩いて40-15とマッチポイントをつかんだ。  しかし、その次のボールがおそらくターニングポイントのひとつとなった。ツォンガのリターンがコードに当たってからネットを越え、意図しないドロップショットとなったのだ。そして次のポイントでツォンガはネットをとり、錦織のパッシングはアウトに。そのあと錦織が2本のダブルフォールトをおかし、試合に終止符を打つチャンスを棒に振ってしまった。  「最後、マッチポイントでのリターンはちょっぴりラッキーだった。リターンがネットに当たってぽとりと落ち、それでポイントを取ることができたわけだからね」とツォンガは試合後に言っている。「そのあと彼は2つのダブルフォールトをおかした。彼が僕にカムバックするチャンスを与えてくれたんだ」。  結局、勝負はタイブレークに持ち込まれ、波に乗ったツォンガはフォアハンドの強打やスマッシュを打ち込みつつ、一度もリードを許さずにそのままの勢いで押しきることに。錦織はタイブレークで「ちょっと下がり過ぎたかもしれない。相手がすごく攻めてきているのを感じたので、少し守りに入ってしまった」と反省しながらも、「タイブレークは、まあ仕方がない」と振り返った。  反対に、どこが一番悔やまれるかと聞かれた錦織は、「ファイナルセットには勝つチャンスもあった。やはり第3セットを取りきれなかったところが、もっとも悔やまれる」と答えている。

 あのマッチポイントで何が起きたのか。終盤いいプレーができなかった理由は、とフランスの記者に聞かれた錦織は、「わからない。彼がよりよいプレーを始めたからだと思う。押されて重要なポイントを落としてしまった。マッチポイントがそのいい例だ。彼のプレーを称えなければならない」と疲れた表情で言った。  一方、マッチポイントをセーブして勝ったツォンガは、「正直言って気分はいいよ。今夜の気分はすごくいい。勝つっていうのはいいものだ」と気持ちの高揚を隠さなかった。

 「故障さえなければ、僕は世界のトップと同等に張り合える」と自負するツォンガはこの大会に優勝した場合に限り、14日からロンドンで始まるトップ8による「ATPファイナルズ」の出場権を獲得できる。  「僕がいま考えているのは次の試合だ。もちろんできるだけ先まで勝ち進み、優勝したいという意欲が沸いてくる」とツォンガ。彼は次の準々決勝で第4シードのミロシュ・ラオニッチ(カナダ)と対戦する。  反対に錦織は、「ここでもっと上に勝ち上がれば、今季を4位で終わらせる可能性も増えていた。もう少し上に行きたかったけれど、しっかり準備してロンドンに向かいたい」と今季最後の任務に目を向けた。  「場面場面で消極的になってしまったり、振りきれなかったりしたことがあった」という錦織はまた、「正直言って、スイスからまだ一度もしっくりきていない」と漏らしてもいる。「ATPファイナルズまで、まだ一週間あるので、まずは休んでしっかり練習し、特にストロークをもう少し調整して調子を上げていくようにしたい」。  がっかりしている暇はない。トップ8の戦いは10日もしないうちにやってくる。

(テニスマガジン/ライター◎木村かや子)