鳥肌を立たせるフレーズだった。「壊れてもいい」 ヤマハの主将になって4季目の三村勇飛丸が、射程圏内かもしれぬ日本代表デビューにこう意気込んだのだ。 ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)率いるラグビー日本代表は11月5日、東京・秩父宮…
鳥肌を立たせるフレーズだった。
「壊れてもいい」
ヤマハの主将になって4季目の三村勇飛丸が、射程圏内かもしれぬ日本代表デビューにこう意気込んだのだ。
ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)率いるラグビー日本代表は11月5日、東京・秩父宮ラグビー場でワールドカップイングランド大会4強のアルゼンチン代表とぶつかる。それ以降は欧州で3つのテストマッチ(国際間の真剣勝負)を予定しているが、初戦に向けた本格的な準備期間は約1週間。10月の2度の候補合宿を経てメンバー入りした三村は、黒子役のオープンサイドFLとして出番を伺う。
27歳にして、初めての代表選出。1日、東京・サントリー府中スポーツセンターでおこなわれた実戦練習では、おもに主力組でプレーしていた。
「チャンスはいただいたけど、ラストチャンスだとも思っている。チームに100パーセントコミットして、自分の色を出していきたい」
栃木県立の佐野高を経て明大入りし、2011年度にヤマハ入り。身長178センチ、体重96キロと国内のFLにおいても大柄ではない。しかし、持ち前の闘志と戦術へのマッチングの妙で、清宮克幸監督の信頼を勝ち取った。
味方へのサポートや大外のランナーへの堅実なパスで、左右に揺さぶる攻めを下支え。何より守っては、ボール保持者を挟み撃ちするダブルタックルで身体を張る。
チームのプレイングアドバイザーでもあるSOの大田尾竜彦は、ヤマハが好守を連発する試合の映像を観ながら、こんな趣旨の解説をしたことがあった。
「ここ(画面に映る接点)で三村が相手の持つボールを殺している。こうやって、相手のテンポを遅らせている」
当の三村も、持ち味を問われるや即答する。
「もう、タックル。そこだけです」
ジョセフ体制下のジャパンは、選手主導でのチーム作りを唱える。共同主将である堀江翔太や立川理道がリーダーズミーティングを実施。所属先で船頭を務める三村も、主体的に組織運営に携わる。
「自分はリーダーシップ(の発揮)とか、いろいろな意味合いで選んでいただいたと思っています。ジェイミーさんは、ルール決めをしたくないようです。私生活でも、ラグビーの面でも、(主体的に)自分たちの道へ100パーセントコミットしていきます」
ジャパンの常連である「フミさん」こと田中史朗の言葉を思い出しながら、こんなふうにも語っていた。
「『言葉を投げて、返って来ないのはコミュニケーションを取っている状態とは言えない』『言ったことに対して、自分がどう思っているかを常に言ってくれ』。そういうことは、フミさんにも言われています。いまは皆で意見を交換し合っていて、楽しいです」
プレーの起点となるスクラムは、ヤマハの長谷川慎FWコーチがスポットコーチとして指導。その教えの詳細を知る三村は、「慎さんがやることに明確性を持たせてくれている。慎さんがスクラムを指導するにあたって、やりやすいようになっているとも感じます」。今回はヤマハのFW陣が6名、選ばれている。最後尾側面に入る三村も、慣れ親しんだ組み方にならって塊を押したい。
「壊れてもいい」と発したのは、先発出場が叶った場合の意気込みを問われた際だ。対するアルゼンチン代表の印象を「もう、FWですよ。愚直に前に出てスペースを空けて、という感じ」と語り、玉砕覚悟の宣言を続けたのだ。
「(ヤマハでも)相手のペネトレイター(突破役)がいたら、それを止めるのが役割。今度はそれが常に起こるという感じだと思います。壊れても、その裏(控え)には同じレベルの選手がいる。誰が(オープンサイドFLに)選ばれても、責任を果たすだけです」
アルゼンチン代表戦のメンバーは3日、発表される。(文:向 風見也)