緊急事態宣言から4カ月、季節はもう夏である。社会は徐々に動きだしたが、スポーツ界には依然たくさんの障害が。学生スポーツも例外ではなく、弊部も日々活動のあり方を模索している。 今回取り上げたのは、中高生を対象とした陸上のリモート大会〝バーチ…

 緊急事態宣言から4カ月、季節はもう夏である。社会は徐々に動きだしたが、スポーツ界には依然たくさんの障害が。学生スポーツも例外ではなく、弊部も日々活動のあり方を模索している。

 今回取り上げたのは、中高生を対象とした陸上のリモート大会〝バーチャレ。昨年10月500号で取材に応じてくださった元オリンピック選手の横田真人さんらTWOLAPSが主催する。先行きが不透明な中で学生 スポーツと向き合うこと。そして私たちにできることとは。横田さんとTWOLAPS所属の楠康成選手にインタビューを行った。

(この取材は、7月14日に行われたものです)

「バーチャレとはすべての中学生・高校生のための陸上大会」

 そもそもバーチャレとは何なのか、先に説明が必要であろう。バーチャレ(VIRTUAL DISTANCE CHALLENGE)とは、リモートで行われる陸上大会である。期間中にレース動画とタイムをアップロードし、ランキングなどを作成する。全国の中高生であれば、誰もが無料で参加できる新たな形の大会だ。

 ではそもそものきっかけは何だったのか。

「コロナ禍で集合できない中、(TWOLAPSも)リモートでミーティングをしていて『僕らが今の状況下で何ができるか』を話していました。最初はインスタライブ、顧問の先生や高校生に話を聞いたりしていました。その中で、インターハイ中止というニュースが出てきたんです」

 「日本陸連が代替試合をやる。でも置き去りにされている何かがあるんじゃないかと、僕らの中には違和感があって。話す中で、もちろん日本一を目指すことも大事だけれど、そうじゃない日常みたいなものが高校生活にはある。そこも含めてインターハイだから、みんなが誰でも参加できる大会を一つ作れないかという感じです」

 そんな思いで、横田さんが代表を務めるTWOLAPSのメンバーと協力を受けた多くのアスリートがバーチャレ開催へと動き始めた。一方で、全ての陸上競技を開催できるわけではないという現実ともぶつかってきた。選手の声と運営側の事情。その折り合いの付け方を尋ねる中で、”責任”という言葉が返ってきた。

「自分たちが責任を終える範囲の種目をきちんと責任を持って開催するのが一番大前提としてありました。こういう不確実な状況下でスピード感を持って意思決定を求められる中では、やはり小さい組織がリスクを取ってやった方ができるので、運営しようと」

 「大会をやるとか種目を増やすって、選手が考えているよりも簡単じゃないんですよ(笑)。やらなきゃいけないことがたくさんあって。きちんと責任を持ってやる人が他の種目で出てくるかがまず一つの判断材料ではあります。僕は最終的に、種目ごとに見せ方や盛り上がりを作っていくのが、陸上界の理想なのかなと考えてもいて。知らない種目を盛り上げるのは今のキャパではできないかなと思っています」

 運営に携わるTWOLAPSのメンバーは、現役で世界を目指すアスリートばかり。自身も競技がある中で運営を行うのは大変なのではないか。率直な疑問を、メンバーの1人、楠康成選手にぶつけてみた。

「TWOLAPSや阿見アスリートクラブで活動をするようになってから、基本的に自分たちで何か事業を計画して、結果を見て、また次に何かやるということを繰り返していました。なので、みんながどうかはわからないですけど、同じタイミングで、バーチャレかはわからないですが、何かやらなきゃ、何かやってみたいなという気持ちは持っていたと思います。なので横田さんが案を出してくださった時に結構すんなり進んだと思います。僕自身はそんなに怖いというよりも、今回は何をやろう、という感情の方が大きかったです」

 7月20日から本エントリー開始したバーチャレ。6月22日の開催発表以前も含め、どのような障壁があったのか伺ってみた。

「しょっちゅう壁にぶつかっている気がしますね。それこそ日本陸連に後援をお願いして『だめ』と言われたり。あとは中高生に動いてもらうのに、顧問の先生の影響力ってめちゃくちゃでかいんだなと。(バーチャレを)知っていても、先生たちがいいと言わないとできないというのは結構あるので、そこの壁を突破するのに先生を巻き込むしかないんだなと。結局は草の根できちんと説明をして参加していただくという地道な作業が必要なんだなと日々感じています」

 「SNSでいいねいいねって言ってくれるのは、大人が多いんですよ。大人には響いているけど、中高生にどれだけ響いているのかなと。ただ中高生ってやってみてから、みたいな面が大きいと思うんですよ。なので、まずはやってもらえるためにどうするかということを考えています」

後編はこちら

[仁科せい]

◆横田 真人(よこた まさと)

 日本選手権800メートルで6度の優勝を誇る元日本記録保持者。

 2012年のロンドンオリンピックにも出場、日本中距離界のトップを担ってきた。

 現在は『TWOLAPS TC』の代表を務める。

◆楠 康成(くす やすなり)

 阿見アスリートクラブ SHARKS所属。TWOLAPSの所属アスリートである。

 2017年には単身でアメリカでトレーニング。

 2019年からは3000メートルSCに挑戦、日本選手権優勝とオリンピック出場を目指している。

◆TWOLAPSとは?◆

『それぞれの選手のOn The Track(競技)におけるパフォーマンスの向上だけでなく、 Off The Track(競技外)での成功をもサポートする所属・性別・国籍の垣根を超えた唯一の中長距離のトラッククラブ』

(公式ホームページより引用)

実際にどんなチーム? 楠選手に聞いてみました!

「TWOLAPSってすごいよね、とよく言っていただけるんです。僕たちはそれぞれ夢や目的が違う中で、競技をしているという共通点だけがあるチーム。オリンピックに出ると言っても、みんなが目指す共通点だから『で、お前は?』ってなるんです(笑)。その後何をするのか、自分がどういうパワーで動いているか、考える機会がたくさんあって。だからみんなが発信できる。自分の夢がはっきりしたのは、ここにいる僕と実業団時代の僕とでは大きく違うと思います」