2020年のMotoGPスペインGP決勝レースが7月19日に、同国南部アンダルシア地方のヘレスサーキットで開催された。MotoGP初戦となったスペインGPの表彰の様子 他のスポーツ同様に、MotoGPもCovid-19(新型コロナウイ…

 2020年のMotoGPスペインGP決勝レースが7月19日に、同国南部アンダルシア地方のヘレスサーキットで開催された。



MotoGP初戦となったスペインGPの表彰の様子

 他のスポーツ同様に、MotoGPもCovid-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大により長期間の競技休止を余儀なくされていた。開幕戦カタールGPが行なわれた3月8日から数えると、4ヶ月以上の休止期間を経た再開である。3月の開幕戦では、最高峰のMotoGPクラス開催がキャンセルされ、中排気量のMoto2と小排気量のMoto3という2クラスのみが実施された。したがって、今回のスペインGPはMotoGPクラスが2020年最初のレース、Moto2とMoto3はシーズン2戦目という変則的なスケジュールになっている。

 新たに組み直された2020年のカレンダーでは、同一サーキットで2週連続開催など移動を減らす工夫を凝らした。欧州域内を転戦して11月15日の第14戦バレンシアGPまでが決定している。タイやマレーシアなど、アジアを巡るフライアウェイ・レースについては、7月末までに開催可否を決めるという。

 つまり、今年は全部で何戦を戦うことになるのか、未確定状態のままシーズンが再開した格好となった。選手やチームにとって、一年間を戦い抜くシーズン戦略面で、ある程度の不透明さを残す感は免れない。この課題について、19年王者でディフェンディングチャンピオンのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は走行前の木曜に、「最善の対応策は、開催が決定しているレースで可能な限りたくさんのポイントを獲得しておくこと」と、自らのシーズン戦略を述べた。

 マルケスは土曜の予選を終えてフロントロー3番手を獲得。ポールポジションを奪取したのは、今年がMotoGP2年目のファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハ SRT)だった。クアルタラロは、最高峰クラスのデビューイヤーとなった昨年、6回のポールポジションと7回の表彰台を獲得し、すでに驚異的な速さを披露していた。特にこのヘレスサーキットは、昨年初ポールポジションを獲得した記念すべき地だ。今回の予選でも、持ち前のスピードを存分に発揮し、自身が持つ当サーキットのオールタイムラップレコードを0.175秒更新する1分36秒705を記録した。

 ところで、当地ヘレスで開催されるスペインGPといえば、シーズン中で最も大きな盛り上がりを見せる大会のひとつだ。熱狂的な大勢のファンがヘレスサーキットの観客席をびっしりと埋め尽くす様子は、MotoGPの高い人気を表す代名詞的風景といってもいい。走行初日の金曜から決勝レースの日曜日まで、3日間の観客総動員数は毎年20万人をくだらない。

 しかし、今年は新型コロナの感染対策として、今のところすべての会場で無観客開催が決定している。また、選手やチームスタッフなどのレース関係者に対しても、入場人数の最少化や体温チェック、マスクやフェイスガードの着用、ソーシャルディスタンシングの維持など、徹底した健康管理と蔓延防止プロトコルの遵守が義務づけられている。

 このルールは取材陣にも大きな影響を及ぼしている。通常ならサーキットで選手やチームスタッフたちを取り囲んで取材する各国のジャーナリストは、全員がパドックへの立ち入りが禁止されることになった。会場に入っているのは、一握りの欧州放送局クルーや、写真撮影のみを目的とするフォトグラファーがわずか10数名という状況だ。イベントを主催するDORNA(ドルナ)としては、感染の蔓延を防ぐ最大限の予防対策を取りながら、できるだけ正常に近い形でレースを運営するためのソリューションとして、これらの措置を取るに至った。

 ただし、我々レースを取材する側からすれば、通常行なう活動ができなくなるわけだから、正直なところ、日々の取材に不便をきたす。そこでDORNAと各チームは、各種記者会見や選手の囲み取材について、Zoom(ズーム)を利用しリモートで行なう対応を取った。多少の隔靴掻痒(かっかそうよう)感はあったものの、世界の頂点を争う選手たちとパソコン画面上で話をする機会は奇妙に新鮮で、ソーシャルディスタンスを感じさせるどころか、むしろ身近な距離感も覚えたことは新しい発見だった。

 他方、職掌柄パドックへの立ち入りを許可されている放送関係者らと、それを許されていない紙誌・ウェブ媒体のジャーナリストの間では、取材機会に多少の差が生じる危惧がある。

 これに対しても、一定の配慮と対応は取られている。実況放送を担当する一方で文字原稿も多く執筆するあるイギリス人ジャーナリストは、「(衛生管理規則の要請などで)ガレージやピットボックスに近寄ることは許可されていない。また、(文字原稿取材者の活動が制限されていることを勘案して、現場からの抜け駆け的な)日々の最新記事は書かず、執筆はレースウィーク終了後の雑誌記事のみに限るとしてDORNAと合意している」と話す。国際的な取材機会の公平性を担保する妥協案として、納得できる措置といえるだろう。

 しかし、スポーツといえども報道であることに変わりはない。取材の健全性を確保するためには、独立した多様な視点の存在は必須条件だ。レース再開直後の現在はやむを得ないとしても、欧州の蔓延沈静化に応じて、数戦後には我々ジャーナリストに対しても何らかの形で取材の門戸が解放されるようになることを期待したい。

 いずれにせよ、世界的に猛威をふるう新型コロナウイルスを押さえ込むためには、レースに関わる全員が一致して協力をすることは不可欠だ。その意味では、さまざまな対応措置は、DORNAをはじめとする関係各方面が懸命に調整を図った努力の賜物といっていいだろう。

 そのような状況のもとで行なわれた日曜の決勝レース自体は、いつもと変わらない、緊張感と興奮に充ちた熱い戦いになった。

 圧倒的な強さを誇る王者マルケスは、今回も優勝候補最右翼。序盤から激しいトップ争いを繰り広げたが、果敢に攻めすぎたことで転倒しかけた。奇跡的なセーブでかわしたものの、一時16番手まで大きく順位を下げた。そこから猛追を開始し、信じられないペースで順位を上げて2番手争いまで浮上したが、今度は転倒。ハイサイドクラッシュで大きく跳ね飛ばされ、右上腕を骨折した。おそらく今後数戦の欠場は不可避とみられている。走行前に語っていた「可能な限りポイントをたくさん稼ぐ」というシーズン戦略をふいにする皮肉な結果になってしまった。

 優勝を飾ったのは、ポールポジションスタートのクアルタラロ。21歳90日の若さで最高峰クラスの初勝利を達成した。レース中盤以降は独走状態で、MotoGPに新たなヒーローが誕生したことを強く印象づけた。優勝直後は歓喜の雄叫びを上げ、少し落ち着いた後、「できれば会場を埋め尽くすファンと、この喜びを分かち合いたかった」と話し、「家族や兄弟、今日ここに来ることができなかった友人たち、そして新型コロナウイルスの被害に見舞われたすべての人々に、この勝利を捧げたい」と述べた。

 このような記念すべき優勝を達成した夜は、通常なら、チームを挙げて街中のレストランかどこかで盛大なパーティを開いて大騒ぎするところだ。しかし、現今の世情を考慮して、クアルタラロは「(パドック内で寝泊まりする)モーターホームでのお祝いにしておくよ」と控えめに抑えておくとも述べた。

 無観客開催で会場の関係者数も最小限に抑えた「社会的距離」を維持するレースは、終わってみれば、いつもと同じ熱狂と波乱のドラマが支配する日曜の午後だった。

 次戦の舞台も、ここヘレスサーキット。2週連続開催で、アンダルシアGPと名を変えて今週末に第3戦が行なわれる。