福田正博 フットボール原論■再開後のJリーグで活躍が目立っている若手選手をピックアップ。福田正博氏は、斉藤光毅ら、久保建英(マジョルカ)と同世代の10代後半の選手たちのパフォーマンスが目立っていることに期待を寄せている。 再開されたJリ…
福田正博 フットボール原論
■再開後のJリーグで活躍が目立っている若手選手をピックアップ。福田正博氏は、斉藤光毅ら、久保建英(マジョルカ)と同世代の10代後半の選手たちのパフォーマンスが目立っていることに期待を寄せている。
再開されたJリーグで、ひときわ目を引く選手がいる。それが横浜FCのFW斉藤光毅だ。
2001年8月生まれの「久保建英世代」。まだ18歳で身長は170cmと高くはないものの、すでに体はガッチリしていて、当たり負けしない。DFを背負っても慌てずにボールキープでき、フィニッシュワークもうまい。
横浜FCで活躍する、18歳の斉藤光毅
何より魅力的なのは、点が取れることだ。ただ、生粋のFWというよりは、アタッカーや1.5列目で起用されたほうが生きるタイプだ。常に冷静で、周りを使うプレーもできる彼の持ち味は、そうしたポジションでこそ最大限に発揮されるのではと感じている。
斉藤は横浜FCユース出身で、2018年3月に高校2年生でトップチームに登録されて、J2に2試合出場。昨シーズンもJ2で29試合に出場して6得点。個人的には「なぜ他クラブは獲らないのか」と思うほど斉藤の能力を買っていたので、今季はJ1の舞台でどこまで通用するか楽しみにしていた。
2月23日のヴィッセル神戸との開幕戦では出番がなかったものの、再開後に下平隆宏監督がチームのシステムを3バックに変更し、選手起用も思い切った方向に舵をとったことで出番が巡ってきた。
再開初戦のコンサドーレ札幌戦にスタメンでフル出場すると、つづく柏レイソル戦では先制ゴールを決めた。ベガルタ仙台戦、川崎フロンターレ戦もフル出場し、ゴールこそなかったものの、チームに貢献するプレーを随所に見せた。
Jリーグの若手選手のなかで圧倒的な存在感を放っているが、斉藤のいちばんのよさは現状に満足していないのが伝わってくるところだ。
それは、久保建英(マジョルカ)という存在が大きく影響しているのだろう。スペインリーグでバリバリ活躍する同学年がいることで、Jリーグで少し活躍したくらいでは浮かれたりできない。彼の言動には、そうした思いが溢れている。
私は同学年にカズ(三浦知良)がいただけに、斉藤の思いがわかる気がする。同じポジションにいる世代トップの選手を認めながらも、そこに追いつき、追い越したい思いを抱くのは当たり前のこと。それがなければプロ選手としての成長は望めないし、そういう感情をいい方向で表現できた時、選手は高い次元に引き上げられるのだ。
斉藤のプレーをJリーグで見られる時間は、もうそれほど多くないのかもしれない。彼の年齢や能力を考えれば、すでにヨーロッパからオファーが届いていても不思議ではないからだ。それだけに、斉藤がJリーグでプレーする時間でどこまで成長するかを、しっかり見届けたいと思っている。
久保世代で言えば、MF松岡大起(サガン鳥栖)や、MF西川潤(セレッソ大阪)などもいる。松岡は開幕から全試合でスタメン出場をしているものの、斉藤に比べるとインパクトは弱い。西川はまだ出場機会を得られていない。
鹿島のFW染野唯月は、2年前の高校サッカー選手権で2年生ながらすごい活躍をし、今季から鹿島に入団した。再開後の札幌戦、浦和レッズ戦と2戦連続して先発出場し、まだ目立つ活躍はできていないものの、高卒ルーキーとしては及第点。ザーゴ監督から期待されているなかで、しばらくはチャンスがつづくだろう。
ところで、こうしてJリーグで10代後半の選手たちの名前を取り上げられることに、うれしさがある。
世界では、10代後半の選手たちが各クラブでどんどん活躍している。しかしこれまでの日本は、この年代ではなかなか試合に出場できず、五輪チーム世代の22、23歳くらいになってようやく頭角を現すというケースが多かった。
それが、今回久保世代が数多く台頭してきたことで、Jリーグもようやく世界のスタンダードに近づいてきている。もちろん、10代で「起用されているだけ」では、まだまだ足りない。チームのなかで誰が見ても明らかな存在感を示せる選手が増えることを期待したい。
もうひとり、若手と呼べる年齢ではないが、札幌のFW鈴木武蔵にも注目している。昨シーズンからシュートシーンでの落ち着きに成長を感じていたが、今季は第3節までに4ゴール。絶好調だっただけに負傷離脱が残念でならないが、再びピッチに立つ日を楽しみにしている。
鈴木がゴール数を伸ばせるようになったのは、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督からの「プレーの選択肢を常に持つように心がけろ」というアドバイスが大きいそうだ。
プレーの選択肢を増やすために大事なのは、常に周りを見ること。相手のプレッシャーを厳しいと感じたり、ボールコントロールを意識して顔が下を向いていると、周りの状況が把握できなくなって選択肢は減ってしまう。
ボールをもらう前の準備が重要で、ポジショニング、視野の確保、体の向きなど、実に多くの点に気を使っていなければならない。また、ボールを受ける時もトラップの仕方やボールを置く位置に気を使わなければ、顔を上げて周りを見ることができない。
こうした部分が改善され、鈴木は結果的にゴール前での落ち着きを手にした。ゴール前でも選択肢を持とうとすれば、視野が広がり、GKや相手DFが見える。これによって無駄に力んで打つシーンがなくなり、状況に応じたキックの強弱やコースを突いたシュートが打てるようになってゴール数が伸びたのだ。
鈴木と同学年のMF長谷川竜也(川崎フロンターレ)も、再開後のJリーグで輝いている。左サイドのアタッカーとして、再開後3試合で3ゴール。これまではサイドで仕掛けるだけの傾向が強かったが、今季はゴール前でのシュートへの意識が高まっている。
長谷川は静岡学園出身で、順天堂大学を経て川崎に入団した頃から圧倒的な技術力を発揮していたが、シュートの意識を高めたことで相手DFからすると相当怖い存在になった。プレースタイルから見ても、昨年の仲川輝人(横浜F・マリノス)のような存在になれば、2年ぶり王者を目指す川崎にとって心強い選手だ。
課題は体のキレで勝負するタイプの彼が、シーズンを通して活躍できるか。そのためには、試合のなかで力を入れるところと抜くところを、いかに身につけるかがポイントだ。私も現役時代はキレで勝負するタイプだったが、パフォーマンスがフィジカルコンディションに左右されやすいために、プレーに波が出やすかった。
ただ、その波を小さくすることが年間を通したチームへの貢献だと気づければ、長谷川も、もうひと皮剥けて、リーグ屈指のアタッカーになっていくはずだ。
Jリーグは再開されたばかりで、選手にとって最もキツイ梅雨時期に始まったこともあり、まだコンディションが万全でない選手もいる。タイトなスケジュールがつづくなかで、今回取り上げた選手たちがどんなプレーをしていくのか興味深い。また、ほかの選手たちがここから強烈にアピールしてくれることにも期待している。