> リーグ再開後3連敗中の柏レイソルと、今季未勝利の湘南ベルマーレ。 目に見える結果が欲しい両者の置かれた状況を考えれば、手堅い試合になるかと思われた。だが、予想はいい意味で裏切られ、多くのゴールが生まれるエキサイティングなゲームとなった。…
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リーグ再開後3連敗中の柏レイソルと、今季未勝利の湘南ベルマーレ。
目に見える結果が欲しい両者の置かれた状況を考えれば、手堅い試合になるかと思われた。だが、予想はいい意味で裏切られ、多くのゴールが生まれるエキサイティングなゲームとなった。
オルンガに2ゴールを奪われた湘南ディフェンス
もちろん、手応えを掴んだのは、勝った柏のほうだろう。
開幕戦以降、音なしだったエースのオルンガが2ゴールを奪えば、新戦力の仲間隼斗が移籍後初ゴールをマーク。この仲間を含め、これまで出番の少なかった選手たちが数多くピッチに立ち、それぞれが勝利に貢献するパフォーマンスを示したのだから、ネルシーニョ監督にとっても大満足の試合だっただろう。
「出場機会に飢えていた選手たちがしっかりとパーソナリティを出して、いいテンポでゲームに入ってくれた。一丸となっていい準備をしてくれたことが、勝利につながったと思う。この勝利が今後の戦いを進めていくうえで、勢いをもたらしてくれるだろう」
戦力の台頭を促し、連敗の悪い流れも断ち切った。柏にとっては勝ち点3以上の成果を手にした一戦となったに違いない。
一方の湘南にとっては、「またしても」の想いが強いだろう。
5試合を終えて1分4敗。4つの負けのうち3つが、2−3のスコアでの敗戦となった。点は獲れるが、守りがもろい。そんな状況が浮き彫りとなっている。
湘南の試合を取材するのは、これが今季2試合目だった。最初は浦和レッズとの開幕戦である。この試合も2−3で敗れたが、内容的にはむしろ勝者を上回っていた。スピーディな展開でサイドを切り裂き、出足の速さや局面での争いでも力強さを見せつけた。
昨季、ぎりぎりで残留したチームは、開幕前に主力の多くが流出し、苦戦が予想されていた。しかし、そんな不安を払拭するような躍動感あふれるサッカーを見せつけたのだ。それは、前任者の退任で消えかけた”湘南スタイル”の復活を感じさせるものだった。
ところが、この日はそのよさがほとんど感じられなかった。とりわけ前半は、いいところなし。あっさりと2失点を喫した守備だけでなく、攻撃もシュート2本のみと、ゴールに迫ることはできなかった。
「前半はうまくこぼれ球を拾えず、相手のシンプルな背後への攻撃に屈して失点してしまったことは大きな反省点」
浮嶋敏監督が振り返ったように、セカンドボールを回収できず、前線の個性を生かした柏のシンプルな攻撃に押し込まれたのは事実だろう。
攻撃に関しても、持ち前のスピードを発揮できなかった。今季の湘南は、ボール保持の時間を長くする狙いがあるという。たしかに、後方から丁寧にビルドアップしていく姿勢は見られた。
だが、ボールは縦になかなか入らず、横や後ろに回るばかり。ボールを奪えば素早く切り替え、一気に縦に突き進む”湘南スタイル”の姿はそこにはなく、余裕をもってブロックを築く柏の堅牢を崩せなかった。
突出したタレントを備えているわけではない湘南は、インテンシティの高さや走力、献身性が生命線となる。しかし、この日は切り替えや球際の争いで後手を踏み、ペースを掴めなかった。
ロングフィード1本からPKを招いたシーンや、戻りが遅れて相手をフリーにする状況を生み出した3失点目の場面などは、その象徴だろう。連敗阻止のために危機感を募らせ、より走り、闘えていたのは柏のほうだったのだ。同じ2−3の敗戦でも、浦和戦とはその中身はまるで違った。
それでも2点を返した後半の戦いには、わずかに希望を見出せた。なかでも際立ったのは、鈴木冬一のパフォーマンスだ。
高卒2年目の20歳のレフティは、果敢な仕掛けで何度もサイドを切り裂き、突破口を開いた。83分には鋭いCKで、石原直樹のゴールも演出している。ポゼッションで勝っても、ボールがなかなか前線に入らない状況のなか、推進力を生み出す鈴木のプレーこそが、スピード感をもたらす数少ないファクターだった。
ベテランの石原の存在も大きかった。今季12年ぶりに湘南に復帰したストライカーは、後半途中からピッチに立つと、ゴール前で絶妙なポジショニングを取り、松田天馬のゴールをお膳立て。自らも鈴木のCKを合わせてゴールを記録し、短時間で2得点に絡む活躍を見せた。
「前でタメが作れていなかったので、入った時には時間を作ろうと思っていました」
自身が振り返ったように、石原がピッチに立ったことで縦パスが入るようになり、徐々に湘南に勢いが生まれていった。
もっとも石原は、チームとしての攻撃がまだまだ未完成であることも指摘している。
「やっぱりビルドアップのところで動きが少ない。1人だけではなくて2人、3人が連動して動いていかないといけないと思います。そこは選手ひとりひとりが同じ方向を向いて、何をするのかということを共有しないと。探りながらやるのではなくて、もう少し明確にしていきたいなと思っています」
ボールを大事にする意識が高まる一方で、持ち前のスピード感が失われては意味がない。イメージの共有と、スムーズな連動の実現には、まだまだ時間がかかるかもしれない。
迷いを断ち切り、スピード感を取り戻せるか。ここが復調のカギを握るのではないか。