リーグ戦再開後の3試合で、3人合わせて7ゴール。不動の3トップは抜群の得点力を見せていた。 しかしその一方で、疲労の蓄積があるのか、少しばかり動きが重くなっていたのも事実だろう。 J1第5節、現在首位を走る川崎フロンターレは、敵地・ニッパ…
リーグ戦再開後の3試合で、3人合わせて7ゴール。不動の3トップは抜群の得点力を見せていた。
しかしその一方で、疲労の蓄積があるのか、少しばかり動きが重くなっていたのも事実だろう。
J1第5節、現在首位を走る川崎フロンターレは、敵地・ニッパツ三ツ沢球技場に乗り込み、横浜FCと対戦した。
先制したのは、川崎だった。
前半28分、左タッチライン際でパスを受けたFW長谷川竜也のカットインを起点に、短いパスでつながれたボールがピッチを横断すると、右サイドからFW家長昭博がゴール前へ正確なクロス。相手DFのマークを外したFWレアンドロ・ダミアンのヘディングシュートは惜しくもクロスバーにはじかれたものの、跳ね返ったボールをMF脇坂泰斗が右足で押し込んだ。
長谷川、レアンドロ・ダミアン、家長。2月のJ1開幕戦以来、長期の中断期間を挟み、先発出場を続ける3トップを中心にゴールは生まれた。幅、厚みともに申し分ない、完璧なまでの崩しだった。
しかし、優勢に試合を進めている割に、川崎の攻撃にはいつもの鋭さがない。特に長谷川は、リズムのいいドリブル突破が見られず、ボールコントロールが乱れるシーンも散見された。
そんな川崎の”重さ”を見透かしたように、後半が始まると横浜FCが主導権を握る。自陣に閉じ込められた川崎は、相手の攻撃を押し返すことができず、ペナルティーエリア付近までボールを運ばれる機会が多くなった。
後半開始から15分と経たず、川崎ベンチが動いたのも自然な判断だっただろう。リードはわずかに1点。どこかで試合の流れを変えなければならない。
ふたりの交代選手--FW小林悠とMF三苫薫が早々に姿を見せても驚きはなかった。
ところが、すでに選手交代の準備ができていたにもかかわらず、試合の流れを変えられないまま、横浜FCに同点ゴールが生まれた。川崎の描いていたシナリオは、よもやの誤算で崩れてしまったかに思われた。
しかし、川崎が真の実力を発揮したのは、ここからだ。小林が語る。
「ちょうどピッチに入るときに失点したので、薫と『やることがはっきりしたね。オレらが点を取るぞ』っていう話はしていた」
スコアの上では試合を振り出しに戻された川崎だったが、この選手交代で完全に息を吹き返した。
途中出場で2得点をマークした小林悠
決勝点となった勝ち越しゴールは後半30分。三苫が鋭いドリブルで相手DFのファールを誘い、PKを得ると、これを小林が落ち着いて決めたものだ。
横浜FCの下平隆宏監督が「PKのシーンはちょっと不運。正直、ジャッジに不満はある」と語ったように、映像で見直す限り、三苫に対するファールはなかったように見える。
だが、「とはいえ、三苫選手が入って、流れを変えられたのは事実」と下平監督。ひとつの判定を敗因にするのが難しいほど、試合の流れが大きく川崎に傾いたのは間違いない。
貴重な勝ち越しゴールからわずか3分後には、再び得たPKを、今度は家長が決めて3−1。さらには、迫力ある連続攻撃から小林が決めて4−1とリードを広げると、最後はDF谷口彰悟がCKからの豪快なヘディングシュートで猛攻を締めくくった。
終わってみれば、5−1の大勝である。
中断明けのJリーグでは、過密日程と交代枠増により、ひと言で言えば、選手層の厚さが問われている。
だが、選手層の厚さと言っても、そこにはいくつかの要素がある。1シーズンを長い目で見て、先発メンバーを入れ替えながら連戦をこなすこともさることながら、試合途中で交代出場した選手が流れを変える、あるいは、ゴールやアシストといった目に見える結果を残すことも重要だ。
そして、それを見事に示したのが、この試合の川崎だった。
昨季を振り返れば、すべての公式戦(J1、ルヴァンカップ、天皇杯、AFCチャンピオンズリーグ)を通じて、交代選手が決めたゴールが最も多かったのは、川崎である。
なかでも、小林はひとりで5ゴールを決めており、パトリック(サンフレッチェ広島→ガンバ大阪)と並び、”交代ゴール得点王”でもあった。今季もまた、本領発揮の勝負強さである。
三苫にしても、自らの特長を「最初から100の出力でいける」と語り、実際にピッチ上でそれを証明して見せた。ともに今季2試合目の出場で、これまではわずかなプレー時間しか与えられていなかった2選手が、いきなりこれほどの活躍をしてしまうのだから、他クラブからしてみれば、さすがの選手層と脱帽するしかないだろう。
昨季までチームのキャプテンを務め、経験豊富な小林は「夏場は交代選手がどれだけが結果を出せるか」が重要だと語り、「チームみんなで勝ち点を積み重ねていければいい」と、総力戦の重要性を口にする。
とはいえ、小林も三苫も、自らの役割をスーパーサブと納得しているわけではない。
小林は「チームはすごくいい状態だったが、自分としては出遅れたというか、絶対点を取るという気持ちはあった」と言い、三苫も「(同じ左FWの)長谷川竜也選手が結果を出しているので、(ドルブルでのチャンスメイクだけでなく)最後のゴールのところの質を高めていかないと」と、ライバルへの対抗心を燃やしている。
中3日で迎える次節のベガルタ仙台戦、このふたりが先発メンバーに名を連ねていても不思議はあるまい。
川崎は再開後4戦目にして、リードしながら初めて同点に追いつかれた。順調に勝ち続けていたからこそ、わずかなつまずきをきっかけに、チームの歯車にズレが生じても不思議はなかったはずだ。
しかしそんなつまずきも、終わってみれば、川崎の強さを際立たせた過ぎなかった。まさに盤石の4連勝である。