「橋本拳人が明かすロシア移籍事情」はこちら>>「ボールを奪って、前にスペースがあった。そこは自分の得意なところで、フィニッシュまで行けました。(チームは)この戦い方なら勝ち点を稼げるし、タイトルも取れるはずです」 試合後、豪快な得点を決…
「橋本拳人が明かすロシア移籍事情」はこちら>>
「ボールを奪って、前にスペースがあった。そこは自分の得意なところで、フィニッシュまで行けました。(チームは)この戦い方なら勝ち点を稼げるし、タイトルも取れるはずです」
試合後、豪快な得点を決めたアダイウトンは、そう言って胸を張った。
FC東京は今シーズンに入って、最も”らしい”戦いを見せたと言えるだろう。昨シーズン、優勝争いを演じた堅い守りと鋭く重いカウンター。それは彼らの看板である。
では、FC東京は悲願のJリーグ優勝を成し遂げられるのか?
浦和レッズ戦で貴重な追加点を決めたアダイウトン(FC東京)
7月18日、味の素スタジアム。FC東京は本拠地に浦和レッズを迎えている。昨シーズンの4-4-2から、プレシーズンで取り組んできた4-3-3を採用するようになったが、「堅守&カウンター」の戦術構造は大きく変わっていない。
ロシア移籍が決まって最後の試合となった橋本拳人は、守備戦術のキーマンと言えるだろう。
浦和戦、橋本はアンカーに入って、センターバックを補強している。興梠慎三、杉本健勇という浦和の強力な2トップへの連絡網を遮断。辛抱強く持ち場を守って、一番危険な攻め口を消し続けた。
その結果、浦和はクロスを早めに送るか、ロングボールが多くなった。
FC東京は、森重真人、渡辺剛という高さと強さのあるセンターバックが、単調な攻めをことごとく跳ね返している。室屋成、小川諒也のサイドバックも、相手に自由にやらせない。守備の練度で優位に立っていた。
前半はいくつかシュートを打たれたが、一度も攻め崩されていない。
「前半から悪くなかったので、安心して見ていられました。もう少しアップテンポに入りたかったですが、徐々に(リズムが)出てきたかなと」(FC東京・長谷川健太監督)
そして先制点は、その守備の安定がもたらしたものと言えるだろう。
攻撃の旋回軸を担っているのが、ディエゴ・オリヴェイラだ。
3トップの一角のオリヴェイラは、前線に残るのではなく、中盤に落ちてボールを受け、はがし、展開する。彼がボールを触ることで、攻撃のリズムを出していた。
久保建英が移籍して以降、FC攻撃はカウンター頼みで単調さが目立っていた。だが、彼に代わる選手はなかなかおらず、オリヴェイラにプレーメイクもさせるのは苦肉の策だろう。
そして40分、じりじりと押し込んでいたFC東京は、森重が右で高い位置を取っていた室屋にサイドチェンジ。浦和ディフェンスの背中を取った形で、ほぼフリーでクロスが上がる。動揺が走ったのか、浦和はまずGKがディフェンダーとかぶり、そのディフェンダーがヘディングを空振りするという失態で、後方から飛び込んだオリヴェイラが体ごとボールを押し込んだ。
ミス絡みだったが、ミスを誘発したともいえ、必然の先制点だった。
1点をリードすると、FC東京は昨シーズン同様、強さを発揮した。守備は堅牢さを増し、守りでリズムを作る。長谷川FC東京の真骨頂だ。
「失点がもったいなかった。取られ方、時間帯も含めて。攻撃のスピードを上げたかったが、うまく時間を作られたり、カバーリングも早かったり、数的な不利に晒すことができなかった」(浦和・大槻毅監督)
浦和は、後半に入って次々に交代選手を投入。しかし、選手のフィーリングに頼った攻撃で、高い壁に当たるように阻まれる。サイドを丁寧に攻め崩すようなコンビネーションの練度が低く、形が見えない。焦りが募る状況で、ミスが出やすくなっていた。
65分、センターサークルでボールを受けた浦和のボランチに対し、アダイウトンが猛烈にチャージ。パスが弱く、イレギュラーし、さらにコントロールも乱れ、パスカットに成功した。これでドリブル体勢に入ったアダイウトンは、3人を振り切りながらゴールまで突進し、右足で左隅に流し込む。一瞬のカウンターだった。
2点リードしたFC東京は盤石になった。MFのラインさえ越えさせない。要塞にこもって戦うようなもので、狙い撃ちに近かった。
FC東京は浦和を完全に封じ込め、2-0で勝利している。第5節終了段階で2位に浮上。序盤戦としては十分に優勝を見込める数字だ。
しかし、橋本の移籍は戦術的に大きな痛手になるだろう。
今のFC東京に橋本に代わる選手はいない。性質的なものもあるが、たいていの選手は色気を出してしまい一瞬でやられる。また、センターバックと入れ替わってプレーできる強度や高さも臨めない。橋本が後半途中から出場した川崎フロンターレ戦では、前半だけで4失点と、大敗した。
守備の安定がいい攻撃につながっている構造だけに、そこが不安定になると、すべての計算が崩れる。
FC東京は今後、長谷川監督の号令のもと、難しいかじ取りをすることになるだろう。戦術的なマイナーチェンジは急務になる。そこで、若い力が台頭できるか。
「自分は、若い選手で誰がうまくなるとか、言えないです。東京で育ってきて、みんなに可能性があると思うんですよ。自分自身、試合になかなか出られず、同じだったから」
この夜、FC東京に別れを告げた橋本からのエールである。