「三菱 全日本テニス選手権91st」(本戦10月22~30日/2846万円/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/ハードコート)の大会最終日は、男子シングルスと男女ダブルスおよび混合ダブルスの決勝が行われた。◇ …

 「三菱 全日本テニス選手権91st」(本戦10月22~30日/2846万円/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/ハードコート)の大会最終日は、男子シングルスと男女ダブルスおよび混合ダブルスの決勝が行われた。

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 全日本に新たなチャンピオンが誕生した。それも、とびきりに若い18歳だ。

 前週の「世界スーパージュニア」(ITF Grade A/大阪・靱テニスセンター/ハードコート)を制して全日本に乗り込んだ綿貫陽介(グローバルプロテニスアカデミー)が昨年覇者の内山靖崇(北日本物産)を6-2 6-4のストレートで破り、初優勝を果たした。

 互いにサービスに自信を持つ内山と綿貫だが、内山のサービスゲームで始まった試合でいきなり綿貫がサービスブレーク。サービスに加えて武器であるフォアハンドを軸に攻め、3-1としたあとの第5ゲームでもふたたびブレークして試合の流れを決めた。

「今日はリターンがすごくよくて、相手のサーブをほとんど返せていたと思う。深く送り込むというのを意識した」と綿貫が振り返ったように、内山のサービスゲームで思うようにプレーさせなかった。

 一方の内山は「サービスのフィーリングがあまりよくなかったのに加え、自分のいいところにいったとしても身長もリーチもあってリターンが返ってきた」。サービスキープに苦しみ、焦りをつのらせていった。

 第2セットの第1ゲームでも内山のサービスをブレークした綿貫にとってこの試合最大にして唯一のピンチは、5-4と勝利まであと1ゲームとしたサービスゲームだった。

「緊張で押しつぶされそうになった」という綿貫はフォアハンドのエラーとダブルフォールトなどミスを重ねて計3本のブレークポイントを握られたが、それでも最後まで攻めの姿勢を緩めずにこれをしのいで歓喜の瞬間を迎えた。

「最後のゲームは緊張しすぎて、あまり憶えていない。緊張で自分のテニスができなかったが、日ごろやってきたことを信じて乗り越えられた自分に喜びを感じています」

 自身のこの日のプレーを「全体的に見たら65点くらい」と辛い採点をした綿貫だが、それでも初優勝に「めちゃくちゃうれしい」と満面の笑みを見せた。

 前日の記者会見で「たぶん勝つんじゃないかと思う」と自信をのぞかせた綿貫だが、一方で自身が破ってきた先輩選手たちについて「守屋(宏紀)さん、内山さんはプレッシャーなどまた違うものを背負っていたと思うし、厳しいツアーの中で戦ってきての疲れなどもあったはず」と慮り、「勝ててうれしいのは間違いないが、まだまだ上の選手がいるし、自分はまだまだ」と、この優勝で決して満足することはない。

 目指すは錦織圭(日清食品)、ダニエル太郎(エイブル)、西岡良仁(ヨネックス)といった日本選手が戦いの場とするツアー、そしてグランドスラムだ。

「来年中には世界ランキング200~300位くらいに入っていたい。早くグランドスラムに行きたいし、厳しいツアーの中に身を置きたい」

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 敗れた内山は、「相手もいいプレーをしていたと思うが、今日は相手のプレー以前に自分の力が出せなかった」と肩を落としたが、若い勢いを止められなかったことに「向かってこられる立場ということも自分の中でわかっていたこと。これも自分にとって勉強。どう生かしていくかが大事」と前を向いた。

 前日のダブルスでの勝利を自信につなげた綿貫に対し、「自分はダブルスとシングルスは別物と思っていた」と割り切った内山だが、「どこかで歯車が狂った。それが今日は修正できなかった」と前日の敗戦が決勝に向かう気持ちに影を落としたことはあったかもしれない。

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 男子ダブルスは、第3シードの奥大賢/長尾克己(ともにエキスパートパワーシズオカ)が第4シードの綿貫裕介(橋本総業ホールディングス)/綿貫の2連覇を阻んで初優勝。シングルスを制した綿貫の単複制覇はならなかった。

 女子ダブルスはシングルスで決勝を争った今西美晴と大前綾希子(ともに島津製作所)のコンビが第3シードの宮村美紀(フリー)/波形純理(伊予銀行)を6-2 7-5のストレートで破り、初優勝。大前は2008年のクルム伊達公子(エステティックTBC)以来となる単複2冠を果たした。

 また、綿貫裕介は二宮真琴(橋本総業ホールディングス)とのペアで、決勝で近藤大生(エキスパートパワーシズオカ)/久見香奈恵(橋本総業ホールディングス)を6-2 6-1で破って混合ダブルス3連覇を達成した。

 なお、混合ダブルス決勝をプレーした近藤は現役引退を表明しており、この日の試合後に引退セレモニーが行われた。

近藤大生コメント「いろいろな方の支えがあって、ここまでやることができました。21歳で肩をケガしてプレーできない時期には、人がプレーするのを見るのも嫌なほどテニスが嫌いになったこともありましたが、自分はあらためてテニスが好きだということがわかり、その後は周りの目を気にすることなくテニスができたと思います。ダブルスで全日本優勝、デ杯代表にもなりましたが、選手としてはすべてが中途半端。やっぱりシングルスで優勝したかったし、グランドスラムに出たかったです。今後は指導者として、自分ができなかったことを果たしてくれる選手をつくっていきたい。テニス人生は悔いしかありませんが、それがテニスの難しさでもある。そういうことを若い選手に伝えていけたらと思います」

(テニスマガジン/ライター◎田辺由紀子)