卓球東京五輪代表が「オンラインエール授業」で全国の卓球部60人に夢授業 卓球の東京五輪代表・水谷隼(木下グループ)が13日、「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」に登場。イ…

卓球東京五輪代表が「オンラインエール授業」で全国の卓球部60人に夢授業

 卓球の東京五輪代表・水谷隼(木下グループ)が13日、「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」に登場。インターハイが中止となった全国の卓球部60人に向けて授業を行い、「インターハイがなくなっても、卓球が好きな気持ちを忘れないで続けてほしい」と“夏の向こう”にエールを送った。

 水谷が登場した「オンラインエール授業」はインターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。ボクシングの村田諒太、バドミントンの福島由紀と廣田彩花、バレーボールの大山加奈さん、サッカーの仲川輝人、佐々木則夫さんら、現役、OBのアスリートが各部活の生徒たちを対象に講師を務めてきた。

 第16回に登場したのが、現役の卓球東京五輪代表選手。冒頭で水谷は高校3年間を振り返った。在籍したのは強豪・青森山田。「とてもスポーツが強い学校で、周りは同世代の日本一の選手がたくさん入ってくる。練習は1日7、8時間くらい。中学生、高校生、大学生と同じ練習場で毎日練習していました」。そんなハイレベルな環境で追いかけた目標が2つあった。

 全日本選手権優勝とインターハイ優勝。実際に前者は2年生でシングルス制覇、後者は3年生でシングルスを含め3冠を達成した。「当時は毎日たくさん練習していて、『誰よりも練習しているから、自分が絶対チャンピオンになれる』と思って、結果を残すことができて満足しています」。がむしゃらに駆け抜け、大願を成就させた3年間はキャリアにおいても特別だったという。

「卓球人生26年間で、一番練習量が多くて、とにかくハードな3年間でした。ただ、物凄く充実していたし、一番楽しい時期と言われたら、高校時代の3年間だったと思います」

 のちに前人未踏の全日本選手権10度優勝を達成、リオデジャネイロ五輪銀メダルを獲得するなど、日本卓球界に数々の金字塔を打ち立てる世界的選手が語った青春時代のエピソード。話を聞いている高校生の眼差しは画面上で、一段と真剣さが増した。続いて行われたのが質問コーナー。「技術」「メンタル」「人生」という3つの構成で、参加者から次々と声が上がった。

 特に、高校生をうならせたのは「上手くなるためにどのような練習をしてきましたか?」という質問が飛んだ時だった。

「上手くなるためには、まず練習。それが何においても一番。練習をしなければ、絶対に上手くなりません」と前提を語った上で、水谷は続けた。「部活、クラブも練習量はだいたい2、3時間で変わらない。でも、人と人の差は凄く付いてくる。自分もそんなに他の選手より練習する方ではなかったけど、同学年で自分がどんどん強くなっていった」。その理由は――。

高校生に語った「練習に意味を持たせることが大事」の真意とは

「なぜかと考えたら、練習の質が凄く良かったことと、卓球について凄く熟知していたこと。どうしたら自分が強くなるかを一生懸命考えて、練習に励んでいたから強くなれた。ただ練習するだけじゃなく、練習に意味を持たせることが大事なんです」

 高校時代は青森山田に在籍しながら、ドイツに留学。卓球の本場で武者修行を積んでいた。「日本とドイツの2つの練習法を知っていたので、いいところを取って練習していた。そこで周りと差がついたんじゃないか」と自己分析。一方で、日本の卓球界において「中高生の部活動はほとんどが同じ練習内容になってしまう」と課題も指摘し、自身の体験談を明かす。

「卓球は個人競技なので、一人一人が違うメニュー、練習法でやるべきだけど、性質上、練習時間も練習内容もみんな一緒になりがち。そういう中で、自分は先生が見ていないところで、一人で勝手に練習して自分に必要なことを上手くやっていました」

 水谷が言った「練習に意味を持たせること」の本質は、ここにある。卓球という競技の特性を理解した上で、自分がどう行動すべきか。周りと同じ練習をしているだけでは、周りと同じだけしか伸びない。10代に培っていた“成長の秘訣”は、今の高校生にとって大切な言葉になった。他にも、質問コーナーでは参加者から活発に質問が挙がり、水谷が一つ一つに向き合った。

――コロナで大会がなくなり引退し、受験をしてまた大学で始めたいと思うけど、競技から6か月離れることになります。その時に、どんなことから始めればいいでしょうか?

「練習をしなければ上手くならないと言ったけど、卓球というのはボールを打つだけが練習じゃないんです。試合映像を見たり、家で筋トレをしたりもプラスになること。卓球の練習はできなかったとしても、家で自分にできることを継続してやっていけば、6か月後に再開しても前よりそんなに落ちていることはないと思います」

――日本や世界のトップになるような選手は他の選手とどんなところに違いがあると思いますか?

「一番大事なことは覚悟だと思います。自分は中2でドイツに留学することを決めたけど、普通はその年齢で一人でドイツに行こうと思えない。当時のブンデスリーガが世界最高峰のリーグと言われ、ジュニアナショナルチームのコーチがドイツの方だったので、留学すれば、その方の指導も受けられる。思い切ってドイツに行こうと決めた瞬間から、卓球に命を注ぐ覚悟を持ちました」

参加した高校生「授業を卓球とこれからの人生に生かしたい」

――卓球人生で一番大切にしていることは何ですか?

「僕は卓球人生もそうだし、生き様としても信念を凄く大切にしている。人はみんな自分の中に信念があると思う。具体的には言えないけど、僕も卓球に対してこれだけは譲れないという信念がある。小学生の頃から、その信念を忘れないで生きている。たとえ、それを守るがゆえに人に怒られることになっても守り通すという信念だけは持ってやってきています」

――コロナウイルスにより、目標にしていた大切な大会がなくなってしまい、どう切り替えていいか分かりません。

「僕も五輪が延期になり、もしかしたら中止になるかもしれない。その気持ちは凄く分かります。ただ、皆さんは試合で勝つことももちろんだけど、卓球が好きだからやっていると思うんです。インターハイがなくなったとしても、卓球が好きな気持ちを忘れないでほしいし、卓球は試合がたくさん行われるから、これからの大会のために頑張ってほしいと思います」

 質問はサーブ、カウンターのコツなどのテクニックから、スポーツ関係の仕事に就くための進路相談など、多岐に渡った。こうして色濃く充実した1時間。最後に参加者を代表し、1人の生徒が挨拶した。

「私は部活動が制限され、インターハイなどの多くの大会が中止になる中、モチベーションをどう保つか考えていました。水谷選手が言った、練習量ではなく質を高め、自分に必要な技術を高めていること、世界のトップになれる選手は覚悟が違うということ。これらのことを卓球とこれからの人生に生かしてレベルアップしていきたいと思いました。

 水谷選手も五輪が延期となり、私たちと比べ物にならないほどの苦しい思いをしていると思います。そのような状況でも私たちを励まし、勇気づけていただきました。本当に貴重な時間をありがとうございました。私も水谷選手のような人を勇気づけられる人間性を持った卓球選手になりたいです。水谷選手が東京五輪で日の丸を背負って活躍する姿を願っています」

 気持ちのこもった言葉に目を細め、聞いていた水谷。「明日へのエール」として「高校時代を振り返ると、人生で本当に一番楽しかった。これから高校生活が続く人もいるし、卒業して進学する人、就職する人いると思うけど、高校時代で得た経験を生かして頑張っていってほしいと思います」と言葉を返し、「皆さん、頑張ってください!」と背中を押した。

 授業後の取材では、1年延期になった東京五輪について「自分のパフォーマンスが落ちるとは思っていないし、モチベーションは高い。たとえ、(さらに)もう1年延期になったとしてもやっていきたいと思っています」と宣言した。水谷も高校生から送られたエールに応えるべく、母国開催のオリンピックという大舞台へ向け、さらなる成長を求めていく。

■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。今後はレスリング・高谷惣亮らも登場する。授業は「インハイ.tv」で全国生配信され、誰でも視聴できる。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)