新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、開幕が大幅にずれ込んだ2020年のスーパーGT。だが、ようやく開幕前テストを無事に終え、7月18日・19日にシーズンが幕を開ける。新空力パーツ導入で好タイムを記録したホンダNSX-GT 今季は…

 新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、開幕が大幅にずれ込んだ2020年のスーパーGT。だが、ようやく開幕前テストを無事に終え、7月18日・19日にシーズンが幕を開ける。



新空力パーツ導入で好タイムを記録したホンダNSX-GT

 今季は当初、国内外8つのサーキットでレースが開催される予定だった。

 しかし、長距離を移動する多くの関係者の感染リスクを低減するため、シリーズを運営するGTアソシエイション(GTA)は開催地を富士スピードウェイ(静岡県/第1戦、第2戦、第5戦、第8戦)、鈴鹿サーキット(三重県/第3戦、第6戦)、ツインリンクもてぎ(栃木県/第4戦、第7戦)の3カ所に限定し、そのうち前半4戦は無観客で開催すると発表した。

 タイとマレーシアで開催予定だった海外ラウンドは、渡航制限の緩和の見通しが立たないこともあり、現地プロモーターと協議。その結果、今年の開催を見送る決断を下した。

 6月27日・28日には、富士スピードウェイで公式テストが開催。新型コロナウイルス感染防止対策のために無観客での開催となり、報道関係者の入場も一切許されず、その模様は公式映像を担当するJ SPORTSがライブ中継を行なった。

 サーキットに入場するドライバーをはじめ、各チーム関係者はテストの14日前から健康チェックを毎日実施し、関係書類をGTAに提出。現場でのスタッフ人数は厳しく制限されたほか、チーム間の往来ができないような対策も講じられた。

 そのような厳戒態勢を経て、ついにおよそ3カ月ぶりにスーパーGTマシンのサウンドがサーキットに響き渡った。

 2020年からスーパーGTの車両規則が変更。GT500クラスはドイツツーリングカー選手権(DTM)との共通技術規則「クラス1」が導入されることになった。これにより、トヨタ(昨年までレクサス)、日産、ホンダの3メーカーは新規定に沿った新しいマシンを用意した。

 今回のテストで、際立った速さを見せたのがホンダ勢だ。

 実はこの公式テストから、ホンダは『フリックボックス』と呼ばれるフロント空力パーツの新バージョンを導入している。1日目の午前は比較データ収集のために従来版を装着していたが、午後には新型を装着。すると、それ以降はすべてのセッションでトップタイムを記録した。

 現在のGT500車両規定では、各メーカーは独自でパーツ開発できる箇所が厳しく制限されており、フリックボックスはそのうちのひとつ。ただ、今季仕様に関してはなかなか満足のいくものに仕上がらず、3月に行なわれた岡山でのテストでもいい感触が得られなかったという。

 その後、新型コロナウイルスの影響で開幕が延期となってしまったが、その間も手を止めずに解決策を探し続けた結果、今回のテストで新しいものを持ち込むことができた。

 テスト終了後、新しいNSX-GTの開発に携わった100号車の山本尚貴(RAYBRIG NSX-GT)は電話取材でこう語った。

「スーパーGTは(結果の)取りこぼしをどれだけ少なく済ませるかが、チャンピオンを獲得するうえで必要なこと。そういった観点で見ると、今年作ったクルマは少し”ピンポイント(個性の尖った)なキャラクター”になっていたんです。

(チャンピオンを獲得するためには)やっぱり各サーキットでのアベレージを上げたい。それをみんなでずっと議論してきたなか、開発陣があの新しいアイテム(フリックボックス)を作ってくれました。結果的に乗りやすくなりましたね。

 100号車は岡山テストで少し問題を抱えていて、うまく走らせることができませんでした。その原因がわからなくて困っていましたが、コロナの影響でインターバルができ、チームが問題点を徹底的に洗い出してくれて、富士テストでは調子がよかった。やっと戦える土俵に上がれたなと感じました」

 テスト2日目にトップタイムを記録した8号車の野尻智紀(ARTA NSX-GT)にも電話取材したところ、新しいパーツについてネガティブな印象はないという。

「正直、これをつけたからと言ってダウンフォースがめちゃくちゃ増えたとか、何かが大きく変わったかと言われると、そうではないです。ただ、新しいものをつけたことによって、何か悪さをしてしまうようなことは確実になかったと思います。ほかのチームからもネガティブな印象は聞こえてきていません」

 3月の岡山テストの段階では「GR Supraで今季を戦うトヨタ勢が一歩リードなのではないか」という噂が強かった。だが、ホンダの新パーツ導入を機に、その流れが変わったのは確か。テストの結果をみてもわかるとおり、ホンダ勢がトヨタ勢の牙城を崩す勢いのパフォーマンスを披露した。

 もちろん、トヨタ勢も相手の動きをかなり警戒している様子。今回のテストで「ホンダ勢が頭ひとつ抜け出た」と確定するには時期尚早だろう。

「仕上がりだけ見ると、Supraはやっぱり仕上がっているなと思います。一方、GT-Rはスピードがないわけではないけど、少しトラブルが目立った印象でした。でも、日産も開幕戦までに修正してくると思います」(山本)

 開幕前テストでは、ホンダ勢が多くのセッションでトップタイムを記録した。しかし、どのセッションの上位にもトヨタ勢は食い込んでおり、タイム差は接近している。

 新パーツの登場で勢いに乗るホンダ、シーズンオフから下馬評の高いトヨタ、トラブルからの巻き返しを図る日産……。新型コロナウイルス対策のために現地でレースを観られないのは残念だが、例年以上に目が離せないスーパーGT開幕戦となることは間違いなさそうだ。