世界中を襲った新型コロナウィルスの感染拡大は、プロフットボーラーにとってもネガティブなものでしかなかった。しかし、誰もが苦境に陥るなかで、ネガティブをポジティブに変えて見せた者もいる。 現在マジョルカでプレーする久保建英は、その典型と…
世界中を襲った新型コロナウィルスの感染拡大は、プロフットボーラーにとってもネガティブなものでしかなかった。しかし、誰もが苦境に陥るなかで、ネガティブをポジティブに変えて見せた者もいる。
現在マジョルカでプレーする久保建英は、その典型と言っていいだろう。
来季の久保建英はどのチームでプレーすることになるのか
実際、6月中旬から再開したラ・リーガにおける、久保のパフォーマンスは特筆すべきものがある。それを証明するかのように、久保は再開後の9試合すべてでスタメン出場を果たしている。
週2試合という超過密日程において、マジョルカのフィールドプレーヤーでスタメン出場を続けるのは、左サイドバックのアレハンドロ・ポソと久保のふたりのみ。指揮を執るビセンテ・モレーノ監督からの信頼の厚さがうかがえる。
もちろん、中断前の3試合もスタメン出場で2ゴール1アシストを記録するなど、上々のパフォーマンスを見せていたので予兆はあった。それでも、約3カ月にわたる中断期間を経ても、これだけのパフォーマンスを維持できているのだから驚きだ。プレーの質のみならず、その意識の高さも非凡であることがよくわかる。
いまやチームの顔にまで成長した”Take”久保には、当然ながら現地メディアも熱い視線を注いでいる。
とりわけ、レアル・マドリードからのレンタル期間が終了する今夏の動きは注目の的だ。現状、来季もレンタルでレアル以外のチームでプレーすることが規定路線とされているが、その一方で、マジョルカ残留の救世主にもなりそうな勢いの久保に対して、レアルでのプレーを望む声も増え始めている。
ただ、周知のとおり、そのハードルは低くはない。
リーグ戦再開後、ジネディーヌ・ジダン監督率いるレアルは目下9連勝中で、首位を快走。2位バルセロナとの勝ち点差は4ポイントで、2016−2017シーズン以来となるリーグ優勝は目前に迫っている。まさに「付け入る隙がない」という表現が相応しいほどの強さを誇っているのが、現在のレアルなのだ。
その強さと安定感の根底にあるのが、強固なディフェンス力だろう。総失点数22(第36節終了時点)は堅守アトレティコ・マドリードの26をしのぐリーグ最小失点であり、ジダン監督が今シーズン序盤から強調していた守備の徹底がチームに浸透した格好だ。
一方、選手層に目を向けてみると、明らかに守備陣よりも攻撃陣に偏っている。たとえば、第35節のアラベス戦の登録メンバーである。
この試合では、キャプテンのセルヒオ・ラモスに加え、不動の右サイドバックのダニエル・カルバハルが累積警告で欠場。さらに左SBマルセロが負傷したため、急遽BチームとU−19から若手ディフェンダー2選手を登録する羽目に陥った。
結局、ジダン監督はセルヒオ・ラモスの代わりとしてエデル・ミリトンをラファエル・ヴァランとCBコンビを組ませた。懸案の右SBには負傷が癒えて再開後初スタメンとなるルーカス・バスケスを起用する。
過去に経験済みとはいえ、本来MFのルーカス・バスケスは見事にその期待に応え、5試合連続となるクリーンシートに貢献。だが、万能型DFナチョ・フェルナンデスが負傷中の現在、ディフェンスの駒不足は否めない。
それに対して、攻撃陣の駒は贅沢すぎるほどの豊富さを誇っている。
この試合でスタメンを飾ったのは、4−3−3の1トップにカリム・ベンゼマ、右にマルコ・アセンシオ、左にロドリゴ・ゴエスの3人。ベンチには負傷から回復したエデン・アザールを筆頭に、イスコ、ヴィニシウス・ジュニオール、ガレス・ベイル、マリアーノ・ディアス、さらに前線でもプレーできるMFフェデリコ・バルベルデや若手アタッカーのブラヒム・ディアスも控えていた。
友人がPCR検査で陽性反応となったことで隔離中のFWルカ・ヨビッチと、今夏の移籍が濃厚と見られているハメス・ロドリゲスはメンバー外。それらも含めるとレアルの攻撃の駒は、どちらかと言えば余っているというのが現状だ。
今シーズン終了後、このコロナ禍のなかでレアルがどれだけの資金を投じ、新たな戦力を獲得するかは知る由もない。だが、少なくともジダン監督が最優先する補強ポイントは、中盤を仕切るカゼミロのバックアッパーと、最終ラインの駒にあることは言うまでもない。久保のレンタル移籍が規定路線となるのもうなずける。
とはいえ、それは決してネガティブな状況とは言えないだろう。
現在の久保に最も大事なことは、試合に出場し続け、ラ・リーガでの実戦経験を積むことにあるからだ。厚すぎるほどの選手層を誇るレアルに身を投じるより、今はコンスタントにプレーできる環境に身を置くほうが、はるかに成長の助けになってくれるはずだ。
第31節でマジョルカと対戦したジダン監督が、久保について「彼がどういった選手なのかを我々は知っている。今日、彼はそれを証明した」と語ったように、おそらくジダン監督もそれを望んでいるように見える。ならば、来季も試合のなかで成長を遂げることが、遠回りのように見えて、実はレアルのトップチームに加わるためには近道なのではないだろうか。
もちろん、サッカーの世界は何が起こるかわからない。ジダン監督が心変わりをする可能性もあるだろう。しかし、レンタルでプレーしようが、レアルに戻ってプレーしようが、久保がさらなる成長を遂げるためには、試合に出場し続けることが最も重要であることに変わりない。
果たして、来季の久保はどのチームでプレーすることになるのか。異例かつ過酷な2019−2020シーズンのラ・リーガはもうすぐクライマックスを迎え、注目される久保の去就もほどなく明らかになるはずだ。