完敗——。トラブルを克服して真っ向勝負で臨んだ第2戦シュタイアーマルクGPは、メルセデスAMG勢から30秒も引き離されて3位に終わり、レッドブル・ホンダにとって厳しい現実を突きつけられる結果に終わった。離れて表…

 完敗——。トラブルを克服して真っ向勝負で臨んだ第2戦シュタイアーマルクGPは、メルセデスAMG勢から30秒も引き離されて3位に終わり、レッドブル・ホンダにとって厳しい現実を突きつけられる結果に終わった。



離れて表彰台に立つハミルトン(左)とフェルスタッペン(右)

 開幕戦で見舞われた電気系トラブルは、マックス・フェルスタッペン車はフライホイールの破損によって引き起こされたものであり、パワーユニット本体に起因するものではないことがわかった。アレクサンダー・アルボン車はコースオフしてから電装系に異常なデータが出始めたもので、こちらもパワーユニットの設計そのものに問題がないことがわかった。

 車体側も、開幕戦での不安定な挙動を解消すべくデータを解析し、第2戦の金曜フリー走行では様々なセットアップの方向性を試して実走データ収集を行なった。可能なかぎりの再発防止策は打ち、不安は解消された。

 その結果、マシンは着実に先週よりも進歩し、ウエットコンディションになった土曜の予選では2番手タイムを記録したほか、予選のキャンセルに備えてタイムアタックを行なった金曜フリー走行2回目ではトップタイムも記録。ドライバーたちはその仕上がりに満足していた。

 予選よりも決勝のほうが得意なレッドブルにとって、決勝に向けてかなり有望な展開だった。少なくとも、決勝を迎えるまではそう思っていた。

「マシンに対する理解を深めるために、様々な方向性のセッティングをトライした。そのおかげで、正しい方向性が見つけ出せたと思う。先週よりもマシンバランスは大幅にドライブしやすくなったし、大きく前進することができた。

 僕らはいつも予選ペースよりレースペースのほうがコンペティティブだけど、今回は1周アタックのペースにも不満はない、先週の11周しかできなかったレースペースもそんなに悪くなさそうだった。だから、よくなる要素しかないね」(フェルスタッペン)

 決勝はルイス・ハミルトンがリードし、フェルスタッペンはそれに数秒差で着いていく展開。メルセデスAMG対レッドブルという点では、開幕戦と同じような流れになった。

 しかし、3位にはバルテリ・ボッタスがつけ、アルボンはそこに着いていけず。トップ3台だけが大きく先行する形となる。

 20周目を過ぎたところで、メルセデスAMGがボッタスにプッシュの指示。すると、フェルスタッペンとのギャップは見る間に縮まっていった。

 ボッタスに先にピットインされれば、新品タイヤの勢いを使ってアンダーカットされる(フェルスタッペンがピットストップを済ませた頃には先行される)。そこで抜かれてメルセデスAMGとの戦いが終わるよりは、2位の座をキープしてわずかでも望みをつなげたい。

 レッドブルは予定を変更し、24周目という早い段階でフェルスタッペンをピットインさせた。これに対し、ボッタスは使い古したタイヤで34周目まで引っ張り、この段階ではフェルスタッペンの8秒後方でコースに戻った。

 しかし、フェルスタッペンより10周も新しいタイヤを履いたレース後半のペースの差は明らか。2台のギャップはあっという間に縮まり、66周目にはターン4で激しいサイドバイサイドのバトルとなる。

 バッテリーをフル充電して備えていたフェルスタッペンは、この周こそボッタスを抑えきった。しかし、バッテリーが減った翌67周目には、なすすべなく抜かれてしまった。

 後方では4位のアルボンも、レーシングポイントのセルジオ・ペレスに追いかけられた。ターン4で接触してペレスがフロントウイングを壊したため、4位を守り抜くことができたものの、純粋なスピードでペレスに負けていたことは明らかだった。

「2位を死守しようと可能なかぎりトライしたんだけど、単純に僕らは少し遅すぎた。彼らにはものすごく大きな差をつけられてしまった。ちょっとショックだったよ」

 ピットインを遅らせてフレッシュなタイヤで勝負を挑んだとしても、メルセデスAMGの速さを見れば勝負にならなかっただろうと、フェルスタッペンは振り返る。

 レース序盤にハミルトンと同等の走りができているように見えたのも、彼がペースをコントロールしていたからだ。



メルセデスAMGに完敗を喫したレッドブル・ホンダ

「もちろん、彼は僕のラップタイムを知っているし、ギャップがどうなっているかも知っている。彼は常にマージンを残して(こちらのペースに合わせて)ペースをマネジメントしながら走っていた。僕がプッシュすれば、彼もプッシュするだけ。単純に僕らが遅すぎた」

「開幕戦ではメルセデスAMGと戦えたはず」という手応えを掴んでいたのも、それはフェルスタッペンがわずか11周で終わってしまったからであって、レースを続けていれば後半はこのように引き離されていたのかもしれない。もしくは、メルセデスAMG勢がギアボックスのトラブルを抱えていたから戦えたのかもしれない。

 第2戦で突きつけられた現実は、まさしく「完敗」としか言いようのないものだった。

 メルセデスAMGと比べると、中低速コーナーでは上回っているものの、ストレートで失っているというデータだったと、レッドブル陣営は言う。

 しかし、それはパワーで劣っている、という単純な話ではない。今のRB16のパッケージで速く走るためには、ダウンフォースをつけてコーナリング速度を維持するしかない、ということだ。すると、コーナーでは同等だが、ストレートでは遅いマシンになってしまう。

「僕らはストレートでかなり失っている。ストレートでのパワーも、グリップも、もう少し必要だ。マシンとパワーユニット、両方を見直して改善に全力を尽くさなければならない」(フェルスタッペン)

 これは、メルセデスAMGのトト・ウォルフ代表の「我々が負けているのはターン3とターン4で、ストレートと高速コーナーでは我々のほうが速い」という言葉とも一致する。

 もちろん、フロントウイングの右側翼端板やリアウイングの翼端板にダメージを負っていたことも、多少は影響しただろう。データ上はダウンフォース発生量の低下が表われていたという。しかし、フェルスタッペンは無線で言われるまで気付かなかったくらいだから、それほど大きなロスではなかったのだろう。

 ターン3からの立ち上がりでトルクの出方に違和感を訴える場面もあったが、それが起きたのはホンダ勢4台のうちフェルスタッペン車のみ。これがレッドブル全体のペース低下に決定的な影響を及ぼしていたとも言えない。

 レッドブルはリアウイングの翼端板をアップデートしてきた一方で、開幕戦に1セットだけ投入した新型ノーズは両車に試した末、2台とも旧型に戻した。つまり、新たな開発パーツの効果が想定どおりに発揮できていなかったということになる。

 金曜のドライコンディションと土曜のウエットコンディションでは開幕戦で抱えていた問題点を解決し、好レースが期待できていた。しかし、決勝では一転して失望の結果に終わってしまった。それは、レッドブル・ホンダ以上にメルセデスAMGのほうが開幕戦から大きく進歩してきたということだ。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターも、完敗だったと認めた。

「クルマがよくなったと思っていたけど、まだまだだったことを受け止めなければならない」

 シーズン開幕に向けて抱いていたレッドブルとホンダの双方の自信は、メルセデスAMGの大きな前進によって打ち砕かれた。

 レースとは相対的なものだから、いかに自分たちがすばらしい進歩を遂げようとも、ライバルがそれ以上に進歩すれば負ける。それは仕方のないことだ。ただ大切なのは、その想定外の現実から目を背けず、再びライバル以上の開発を進めるべく努力することだろう。

 コーナーが多くストレートが短い次戦ハンガリーGPでは、また違った勢力図になる可能性もある。目標に掲げているタイトル争いに加わるためには、車体もパワーユニットもさらに一歩、大きな前進が求められる。