かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行う本連載「FIN…

かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。

アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行う本連載「FINEPLAY INSIGHT」。

前回からかなり時間が経ってしまいましたが、今回は前回の後半で少し触れたスポーツシーンにとっての新しい収益源の可能性を、テクノロジーの切り口から俯瞰してみたいと思います。僕はスポーツテックの専門家ではないのですが、逆に専門家ではないなりに、アクションスポーツとも結びつけて考え、FINEPLAYINSIGHTの読者のみなさんにとって有益なまとめとなれば嬉しいです。

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前回の連載の最後で、スポーツテックの領域は下記の6つに代表されるのではないかと述べました。

1.観戦
2.ファンエンゲージメントやコミュニティ
3.スポンサーシップ
4.ギャンブル
5.トレーニングやコンディショニング
6.チームマネジメント

今回は僕なりに国内外のソースを多数調べた上で、上記のそれぞれについて、ざっと俯瞰してみたいと思います。みなさんも今後のスポーツを取り巻くビジネスの環境、そしてアクションスポーツにそれらを活かすチャンスを是非考えながら読んでいただけるとありがたいです。

1.  観戦

テクノロジーによるスポーツの観戦や臨場体験の変革は、多くの人がもっとも想像しやすい進化の一つといえます。

前回も申し上げたとおり、観戦領域ではコロナウイルス以前から数多くのスポーツテックに注目が集まっています。5Gなど超高速通信が可能にする低遅延・超高画質のマルチアングル観戦や360度映像、よりチャンネルの多いクリアでリアルな音声、VR空間への没入観戦、AIによるパーソナライズされた即時的ダイジェストの生成など、多くの変革がすぐそこに待ち構え、いくつかの変革はすでに始まっています。

個人的にはマルチアングルで好きな場所から好きな選手だけを追いかけたり、超高精細映像で汗の一滴もリアルに感じ取れたりするような観戦体験は、とても楽しみな世界です。

また、VRでの没入的な観戦体験は、コロナウイルスを契機にさらに加速しているように思えます。世界で3.5億人もの(!)登録者数を抱えるゲーム『フォートナイト』内でラッパーのトラヴィス・スコットが『Astronomical』のライブを行ったのは記憶に新しいですが、このライブには全世界から1230万人(!)が参加したそうですが、スポーツ観戦にとってもVRはとても楽しみな領域です。2017年にはインテル社がIOCと7年間のパートナーシップ契約を結び、5G通信やVR、3D映像、360度映像などの分野で協力すると発表されています。残念ながら2020年の東京オリンピックは幻となりましたが、次の世界的なビッグイベントでは必ずや、全く進化した観戦体験が提供されるのではないでしょうか。

また、中華圏のポテンシャルもやはりすざまじく、中国のゲーム実況プラットフォーム『DOUYU』は2020年時点で11億ドル以上の出資を集めて急速に成長しており、2019年の売上は約10億ドルに達し、年率ほぼ200%の成長を続けているそうです。ゲームやeスポーツはファンエンゲージメントの観点からも大変注目出来る領域だと思います。

その他、チケット購買プラットフォームの『SeatGeek』も1.6億ドル以上の出資を集めており、需要や人気に合わせたAIによる動的な価格設定、適正な価格での個人間取引、チケットレスでの入退場管理、観戦履歴のデータ利用など、チケットの購買に関わる領域もテクノロジーによって大きく進化していくでしょう。

2. ファンエンゲージメントやコミュニティ

新日本プロレスがその収益の半分をマーチャンダイジング(物販)で上げていることは前回述べましたが、ファンとの絆:エンゲージメントを強固にすることは、とくにニッチスポーツであればあるほどカギになってくるでしょう。

ベンチャーキャピタル『Scrum Ventures』が2019年に行った調査によれば、スポーツテックの投資家やメンターたちの78%が、「今後1年で最もインパクトのあるテクノロジー」としてファンエンゲージメントを挙げたそうです。この中にはライブストリーミングなど1に挙げた観戦に関するものも含まれていますが、ファンが楽しむコンテンツプラットフォームが大きく注目されている領域であることは間違いありません。

動画やポッドキャスト、ブログなど様々なメディアのスポーツコンテンツプラットフォーム『Barstool Sports』は今年1月、カジノ経営を手掛けるペン・ナショナル・ゲーミング社から1.6億ドルの資金調達を行うなど、大変注目されています。同社のプラットフォームではプロアスリートからジャーナリスト、ブロガー、一般人までさまざまな人々が独自のコンテンツを配信し、少し古いですが2016年1月の時点ですでに月間800万人が訪れていたそうです。『Barstool Sports』に関しては、ギャンブルのパートでも再び触れます。

また、ファンとの重要な接点であるマーチャンダイジングにもテックの波は押し寄せてくるでしょう。東京オリンピックに向けて2019年に開催されたスポーツテックの国際カンファレンス『SPORTS TECH TOKYO』のファイナリスト『ventus』は、トレーディングカードをデジタル化するスタートアップです。デジタル化したトレーディングカードをファンはデジタルで保有し、デジタル上でトレードしたりオークションしたりすることが可能になるそうです。ブロックチェーン技術などを用いてこういったカードの真贋や希少性をデジタル上で担保し、安全に取引するサービスも出てきそうです。

マーチャンダイジングもこの領域で進化を続けるでしょう。グッズの真贋をトレース可能にしたり、ファン独自のオーダーに対して自動で受注生産を可能にするテクノロジーの発達によって、マーチャンダイジングのあり方もどんどんアップデートされていくのではないでしょうか。

3. スポンサーシップ

テクノロジーによっていかにメディア環境や観戦体験が変わろうとも、スポンサーシップはスポーツビジネスにとって重要な収益源であり続けるでしょう。むしろ仮想空間では物理的な施工費や土地代、広さの制限が排除されるため、無限の広告枠を作り出すことが可能になります。ある企業やブランドの世界観で完全にカスタマイズされたスタジアムやダンスフロアでの競技開催や観戦も、近い将来実現可能になると思います。

また、多様なデータを利用しながらスポンサーシップの価値算出やスポンサー成果のトラッキング、またアスリートのバリュエーション(価値算出)のロジックを進化させることに対しても、テクノロジーは一定の役割を果たしてくれると思います。

上述した『SPORTS TECH TOKYO』の別のファイナリスト『DataPowa』は、スポーツクラブのスポンサー価値を分析するスタートアップで、すでに電通と実証実験を行っているそうです。スポンサーからすれば、平等な価値算出基準で評価されたスポーツクラブやイベントの価値をスコア化して提示してくれるサービスはかなりニーズがあると思います。ちょうど企業の株価算定がそうであるように、同じイベントやコンテンツの価値算出額も広告代理店によってアウトプットはかなり異なりますし、スコアの基準となるロジックそのものを抑えるということは、視聴率調査におけるビデオリサーチ社のような業界スタンダードの支配を意味し、電通がここを抑えに行くことも納得度が高いといえます。

4. ギャンブル

倫理的観点からまともに議論されにくいのですが、スポーツビジネスの裏側には「賭け」の巨大なマーケットがあります。例にすると申し訳ないのですが、例えばヨーロッパサッカーはファンによる賭け文化と表裏一体の関係にありますし、一部のヨーロッパサッカーチームによる八百長のニュースも1つや2つではありません。

大部分がブラックマーケットであるスポーツギャンブルですが、その市場規模はどれくらいでしょうか。引用出来る数字として、2015年の国連会議においてオーストラリア政府が見積もった3兆ドル(!)があります。ものすごい規模感です。あるいはアメリカのゲーム業界団体の推定では、アメリカ国外サイトを通じた取引が少なくとも1500億ドルあるとみられています。いずれにしても相当巨大なマーケットであることは間違いない一方、その9割は違法ないしグレーな取引とみられています。

ギャンブルのマーケットでは法制度が密接に絡んできます。アメリカでは2018年に最高裁がネバダ州以外でのスポーツギャンブルを禁じた法律を却下し、スポーツギャンブルの足がかりとなりました。現在、スポーツギャンブルは14の州ですでに合法となっており、いくつかの州もこれに追随するとみられています。日本の政治家たちがボートレースや競輪などの公営競技を立ち上げ、利権にしてきたように、税収や利権の面からも行政に利するところは大きくあるのではないでしょうか。

面白いのは、eスポーツではこうした賭け事が「自分自身」を対象として発展しそうな点です。ラッパーのドレイクが投資したアメリカのスタートアップ『Player’s Lounge』はeスポーツのギャンブルスタートアップですが、プレイヤー自身がゲームを選択し、自分の勝敗に賭けるというユニークな仕組みで注目を集めています。

また、実在の選手を組み合わせて仮想チームを運営するファンタジースポーツの大手プロバイダである『DraftKings』は、選手の実際のパフォーマンスに基づいた仮想チームの賞金付きコンテンストを実施し、実質的にギャンブル要素が強いサービスです。『DraftKings』は公式に全米の4大スポーツやゴルフのPGAなど数多くのメジャースポーツ団体とパートナーシップ契約を結んでおり、2020年に上場を果たして第1四半期だけでも1.1億ドルの収益を挙げて急速に成長しています。2017年7月時点で800万人のユーザーを抱えていたので、おそらく今では1000万人規模になっていると思われます。同じようなサービスに『FanDuel』もあります。

ちなみに、前述のコンテンツサービス『Barstool Sports』の大株主であるペン・ナショナル・ゲーミング社は大手のカジノ運営会社ですが、同社もまた『Barstool Sports』を通じたスポーツギャンブルのビジネスポテンシャルに当然着目しています。実際、『Barstool Sports』はギャンブルアプリを2020年中にリリースすることをすでに発表しています。

5. トレーニング&コンディショニング

心拍や活動量を測り続けてくれるスマートウォッチなどを思い起こしていただくとわかりやすいですが、テクノロジーが可能にするメンタルやフィジカルの管理も大変興味深い領域です。

トレーニングやコンディショニング領域ではAI(あまりAIというのもいやなのですが)などのテクノロジーを用いたサービスがすでにいくつも登場していますし、自分の体調とパフォーマンスのデータを分析し、適切な管理指示を出してくれるのはほとんどスマートデバイスだけでいい時代になりました。動いているときだけでなく、『Oura』のような睡眠時のコンディションをトラッキングしてくれるサービスやIoT化したスマートマットレスも、アスリートの常識アイテムとなりそうです。

コーチングもどんどん進化していくでしょう。『ClassPass』のようなアグリゲーターを利用すれば世界中から優秀なトレーナーやトレーニングコンテンツを探すことも簡単ですし、自宅でいつでもパーソナルトレーニングを受けることに、もはやハードルは何もありません。また、女性アスリートに特化したコーチングサービス『Wild.AI』は生理周期や骨密度など、女性アスリート特有の身体的特徴に特化したコーチングを行います。こういった着眼点のソリューションは、社会的な視点からも非常に価値のあるもののように思います。

6. チームマネジメント

チームマネジメントのプラットフォームは国内外で複数出ており、練習計画や履歴、チーム内の課題、チームメイトのメンタルの浮き沈み、怪我の状況把握などまで、こうしたプラットフォームを通じてすでに一目瞭然となっています。日々の練習やコンディションの情報について、監督やコーチがつぶさに聞かずともある程度まで把握出来る時代になりました。

また、そうした「人」の管理というマネジメント以外で大きなポテンシャルを持っているのが、スポーツデータの分野です。特にデータ分析ビジネスが伝統的に発達しているのが野球ですが、野球のデータを武器にマイナーリーグの選手に投資する『Big League Advance(BLA)』は2018年に1.5億ドルの資金調達を果たしました。BLAはデータを基にしてマイナーリーグの選手に「青田買い」投資し、彼らがメジャーリーグで活躍した暁にその収入のパーセンテージを受け取るというビジネスモデルです。いわば、スポーツ選手版ベンチャーキャピタルですが、メジャーを引退した元投手が設立した会社というのも大変おもしろいと思います。

チームマネジメントとファンコミュニティが融合したサービスも今後発展してくるでしょう。それはプロチームに限らず、アマチュアやマイナースポーツでもアスリートとファンが直接つながり、ファン限定のコンテンツに触れられ、投げ銭やサブスクリプションによる経済活動も可能になっていくでしょう。一つのサービスを核にしてチームとアスリート、そしてファンが有機的なエコシステムを構築する時代が、すぐそこまで来ています。

アクションスポーツの場合は数千万人のファンがいる必要もなく、数千人や数万人、あるいはチームやアスリートによっては数百人のファンとガッチリとエンゲージメントを結ぶことで、自立して活動するに十分な経済性を獲得出来得るのではと思います。そのタイニーな経済圏の確立に、テクノロジーは大きな役割を果たしていくのではないでしょうか。


領域 / テクノロジーの例

アクションスポーツにスポーツテックが与えるチャンス

ここまで、素人なりに大きく6つの視点でスポーツテックの潮流を俯瞰してきましたが、アクションスポーツに携わるみなさんにとって、スポーツビジネスの大きな流れを把握する一助となれば幸いです。

個人的にアクションスポーツに限って言えば、コンディショニングにもっと取り組むべきだと思っています。ストリートやアクションスポーツのプレイヤーやアスリートは、いい意味でも悪い意味でも我流だったりストリートマインドが強く、身体のメンテナンスを怠ってしまっている人が多くいます。プレイヤー側も身体のことはきちんと勉強するべきですし、スポンサー側もアスリートの選手寿命(何なら引退後の生活)を考えてトレーナーをつけてあげるなど、もう少し本質的で長期的な視点での支援があっていいと思います。身体を使い果たして引退してさようなら、という状態は避けていかなくてはなりません。

メディアセールスやビジネスの観点からは、仮想空間やスポンサーシップに関するテクノロジーは大変興味深いものです。ギャンブルは大きなマーケットですが、ギャンブルでなくとも投げ銭など、よりダイレクトな経済の仕組みもどんどんスポーツに取り入れられていくでしょう。

また、上記の6つにはありませんでしたが、審査基準に関する問題をテクノロジーで解決していくことも、アクションスポーツにとっては課題かもしれません。ある意味での表現性や芸術性が問われるアクションスポーツにおいて、審査基準の公平性やわかりやすさはシーン発展の重要なカギだといえます。スポーツでもサービスでも、わかりにくいものは結局広まりません。フィギュアスケートの審査員構成は技術が3人、演技が9人です。技術はしっかり見つつ、多様な評価が求められる演技に対してより公平性をもたせる工夫がなされていますし、点数で定量的に評価されるわかりやすさも担保されています。アクションスポーツにおいてはなおさら、こうした公平性とわかりやすさへの努力が一層求められていくでしょう。

AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)

大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪やNPO法人設立を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール、化粧品等の企業やブランドに対して、経営戦略やマーケティング戦略の策定と実施を行う。
戦略ブティックBOX LLC共同創業者、NPO法人Street Culture Rights共同代表、(公財)日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部広報委員長。建築学修士および経営管理学修士。