ニュージーランド代表「オールブラックス」で84キャップを保持し、現在スーパーリーグのブルーズに所属しているSO/FB(スタンドオフ/フルバック)ボーデン・バレットが日本にやってくる。 2021年にバレットがトップリーグでプレーすると、…

 ニュージーランド代表「オールブラックス」で84キャップを保持し、現在スーパーリーグのブルーズに所属しているSO/FB(スタンドオフ/フルバック)ボーデン・バレットが日本にやってくる。

 2021年にバレットがトップリーグでプレーすると、7月3日にニュージーランドラグビー協会とサントリーサンゴリアスから発表された。海外ニュースサイトによると、契約金は約1億円と報道されている。



2018年にオールブラックスの一員として来日した時のバレット

 バレットは現在29歳。身長187cm、体重92kgの体躯を誇り、イケメンラグビー選手として名高い。5人兄弟の次男で、弟ふたり(ジョーディー&スコット)もスーパーラグビーでプレーするトップ選手だ。

 2015年のワールドカップ(W杯)で優勝を果たし、2016年はハリケーンズの司令塔としてチーム初のスーパーラグビー優勝に貢献。2016年と2017年にはサッカーの「バロンドール」にあたる、ワールドラグビー世界最優秀選手賞に2年連続で選ばれた。

「サントリーへの入団をとても楽しみにしていますし、家族も日本のライフスタイルや文化を経験できることを楽しみにしています。2019年のラグビーW杯の期間、日本で過ごした日々は大好きな時間で、ぜひまた日本に戻りたいと思うきっかけになりました」

 昨年のW杯、ニュージーランド代表は準決勝でイングランド代表に敗れて3連覇を逃した。しかし、多くのファンに歓待を受けたバレットは、日本で過ごした経験が忘れられなかった。練習の合間には大好きなラーメンに舌鼓を打っていたという。

 過去を振り返ると、これまで数多くの世界的トップ選手がトップリーグでプレーしている。なぜ、彼らは日本にやってくるのか。それは、ラグビー界におけるトップリーグの価値の高さにある。

 パナソニックをトップチームへと成長させた飯島均部長は、「トップリーグは日本人が思っている以上に、世界的に価値のあるリーグ」と話す。名だたる世界的企業がチームを支えている日本のトップリーグは、昨年のW杯以前から魅力的な移籍市場のひとつとして、すでに確固たる地位を得ているのだ。

 単純に金銭的な魅力だけなら、フランスやイングランドといった欧州リーグのほうが上かもしれない。ただ、日本は他国に比べて治安がよく、家族とプライベートな時間を多くとれる点が魅力的に映るようだ。

 かつて日本でプレーした元南アフリカ代表選手は、「財布を置きっぱなしにしても盗られないし、車を運転している時に襲われることもない」と驚いていた。また、南アフリカでコーチをしていたオーストラリア人が日本での指導を選んだことについて、「子どもが生まれたから」と安全面を理由にあげていた。

 昨年結婚したバレットも「安全に暮らせる点に惹かれた」と話す。バレット夫人は今年の秋に第一子を出産予定で、家族にとって快適かつ安全に暮らせる点も重視したことは間違いないだろう。

 また、トップリーグの試合数は過密ではなく、スーパーラグビーと違って移動時間や距離も短い。日本のラグビーはフィジカルよりもフィットネスやスピードを重視する傾向にあるので、外国人選手にとっては肉体的負担が少ないのも人気の要因だ。

 こうした理由から、2003年に始まったトップリーグには多くの一流外国人選手が来日してきた。神戸製鋼を15シーズンぶりの優勝に導いた元オールブラックスのレジェンドSOダン・カーターを筆頭に、これまで5人の世界最優秀選手が日本でプレーしている。

 サントリーに在籍した南アフリカ代表のFL(フランカー)スカルク・バーガーは2004年に受賞、三菱重工相模原(当時2部リーグ)でプレーしたウェールズ代表のWTB(ウィング)シェーン・ウィリアムスは2008年、トヨタ自動車でプレーしたニュージーランド代表No.8(ナンバーエイト)キーラン・リードは2013年、来季も神戸製鋼と契約しているオールブラックスのLO(ロック)ブロディ・レタリックは2014年、そして上記のカーターは2005年・2012年・2015年と3度も世界最優秀選手賞に輝いている。

 そのなかでも注目したいのは、現在29歳でともに同い年のレタリックとバレットだ。このふたりは代表引退を宣言しているわけではなく、もちろん今でもオールブラックスに必要な選手である。

 国によって例外はあるが、ニュージーランドやオーストラリア、イングランド、ウェールズなどでは基本的に、自国のチームでプレーしていなければその国の代表になれない。つまり、海外のチームでプレーするのならば、代表チームには呼ばれないという選択を迫られる。

 とくにニュージーランドの選手は、クラブチームと契約する前にニュージーランド協会と契約するシステムとなっている。名誉ある「オールブラックス」の称号を得るためには、このシステムを避けては通れない。

 バレットも昨年、ニュージーランド協会と4年契約を結んだ。ただ、その時の契約には「2021年はサバティカルを認める」という条項が入っていた。

「サバティカル(sabbatical)」とは もともと研究休暇や長期契約者向けの長期休暇という意味で使われる。これは、ニュージーランド協会がオールブラックスのトップ選手の海外流出を止めるために、リフレッシュや金銭的な理由で1年ほど海外でのプレーを認めるという制度である。

 カーターも2009年、サバティカルを利用してフランスリーグでプレーしている。今年パナソニックでプレーした108キャップを誇るLOサム・ホワイトロックもサバティカルを利用して来日し、シーズン後にニュージーランドに戻っていった。レタリックも神戸製鋼でプレーしたあと、母国に復帰する予定だ。

 バレットも2021年にサントリーでプレーしたのち、再びブルーズに戻ってオールブラックスに復帰し、2023年のW杯に挑むつもりだろう。

 ニュージーランド協会のプロラグビー&パフォーマンス担当クリス・レンドラム氏はこう語る。

「バレットの契約は、レタリックやホワイトロックのものと似ている。(サバティカルによってオールブラックスの)トップ選手がニュージーランド協会との契約を残したまま、リフレッシュのために違う環境でプレーできるのは、長い目でみれば、協会にとっても選手にとってもすばらしいこと」

 ニュージーランド協会にとっては、オールブラックスのトップ選手の海外流出を防ぐことができる。選手にとっては、高収入を得ながら海外でプレーできて、家族との時間も増えてリフレッシュできる。そして日本のトップリーグチームにとっては、オールブラックスの選手と契約することができ、日本のファンは世界トップ選手のスーパープレーを間近に見ることができる。

 つまり、このサバティカルによって、二者、三者以上にウィン・ウィンの関係が築けるのだ。

 今年5月にカーターが神戸製鋼を退団してしまったため、残念ながらバレットとの対決を日本で見ることは叶わない。だが、SOでもFBでもプレーできるバレットは、高い次元でゲームを作りながら、かつ魅力的なランでトライも獲ってくれるだろう。

 元オーストラリア代表SOマット・ギタウと日本代表FB松島幸太朗の抜けた穴を埋め、「アタッキングラグビー」を信条とするサントリーにすぐフィットするはずだ。トップリーグでもどんなプレーを見せてくれるか、想像するだけで心が躍る。