2019シーズン、横浜F・マリノスは画期的なサッカースタイルで優勝をさらった。ハイラインを保って主導権を握り、サイドバックがMFのようにプレーメイクに厚みを加える。マルコス・ジュニオールがトップ下で変幻の動きを見せ、仲川輝人がサイドから驀…
2019シーズン、横浜F・マリノスは画期的なサッカースタイルで優勝をさらった。ハイラインを保って主導権を握り、サイドバックがMFのようにプレーメイクに厚みを加える。マルコス・ジュニオールがトップ下で変幻の動きを見せ、仲川輝人がサイドから驀進。破壊力抜群の攻撃は、シーズン最多得点を誇った。
「その上で、徹底的に敵チームをスカウティングし、弱点を攻めてきた」
対戦相手たちが呆然と振り返ったように、当たるべからざる勢いだった。ひとつの時代を彩ったと言える。しかし、王者は王座を狙われる立場だ。
「自分たちはチャンピオンチームで、当然、相手は対策を立ててくる。簡単な試合はない。ミスを修正して、やり続けるだけだ」
2020シーズンの開幕戦、ガンバ大阪を圧倒的に攻めながら1-2で敗れた後、ブラジル人センターバックのチアゴ・マルチンスはそう洩らしていた。
そしてコロナ禍による中断後の再開戦、浦和レッズ戦もスコアレスドローで勝てなかった。攻め続けたものの、ゴールを仕留められない。王者であるがゆえ、2試合勝ち星がないだけで疑問視される。
湘南ベルマーレ戦で2得点を決めた天野純(横浜F・マリノス)
しかしこの日、王者は片目を開けた。
7月8日、ニッパツ三ツ沢球技場。強風で雲の流れが速い。観客がいないスタンドに、選手の指示や掛け声が響いた。
第3節、横浜FMは同じ神奈川の湘南ベルマーレを、本拠地に迎え撃っている。序盤から自慢のビルドアップで押し込もうとするが、湘南の鋭い出足に苦心する。しかし10分を過ぎると、次第にラインを越えられるようになり、ゴール前に迫った。
16分には”らしさ”が出る。GKのフィードから中央に寄った右サイドバックの松原健が受け、迅速にボランチの喜田拓也にボールをつける。喜田も素早く、前方のマルコス・ジュニオールに送る。マルコス・ジュニオールは右サイドを走る仲川へ。そして仲川は中央に走りこんだエジガル・ジュニオに合わせた。叩きつけたヘディングシュートは、GKにセーブされたが、流れるような展開だった。
その後も、横浜FM陣営はラインを越え、サイドを崩し、ゴールに迫っている。ダウンは奪えなくても、パンチを浴びせ続けた。
もっとも、湘南も粘り強かった。
「自分たちの(戦う)スタイル、サッカーをやってくれた。選手は100%の力を出してくれたと思う」(湘南・浮嶋敏監督)
湘南はプレスの出足が落ちなかった。特に左ウィングバックに入った鈴木冬一は、エースの仲川を封じ込め、攻め手を奪っていた。前半を守り切ると、後半はスピードのある松田天馬を投入し、裏を狙うカウンターが明確化。その攻撃で押し込んだあとのことだ。
後半5分、右サイドからのクロスをファーサイドの山田直輝が折り返し、それを中川寛斗が押し込んでいる。
横浜FMは攻めながらも得点を奪えず、先制点を奪われることになった。細かいミスが目に付く。MFが無理に食いつきすぎてラインを越えられてしまったり、単純なパスミスで裏返されたり、センターバックも昨シーズンの安定感は望めない。リズムは鈍化しつつあった。
しかし後半18分、天野純、水沼宏太、オナイウ阿道の3人を一気に投入すると、別の顔を見せる。パス回しが速くなり、前への推進力が出た。
「ディフェンス面ではハードワークすることができていたし、我慢強くやれた。その中で、3人の交代によって、違いを示すことができたと思う」(横浜FM/アンジェ・ポステコグルー監督)
終了間際にも鈴木ひとりに翻弄されるシーンがあり、ディフェンス面の不安は拭えないままだが、攻撃練度の高さを証明した。天野、水沼、オナイウなど、今シーズンからの新加入組(天野は昨シーズン途中にベルギーのロケレンに移籍したが、コロナ中断中に復帰)は、上積みを見せた。
王者はこれから突っ走るのか--。7月12日、日産スタジアム。久しぶりに観客が入る試合で、昨シーズンは優勝を争ったFC東京を迎え撃つ。