観客のいないスタジアムには、ピッチ上の選手の声がよく響く。「コウキ、狙っていけよ!」 前線の小柄な背番号23が、軽く右手を挙げてこれに応えると、ほどなく記念すべきゴールは生まれた。先制ゴールを決めた斉藤光毅 J1第3節、横浜FCは敵地…
観客のいないスタジアムには、ピッチ上の選手の声がよく響く。
「コウキ、狙っていけよ!」
前線の小柄な背番号23が、軽く右手を挙げてこれに応えると、ほどなく記念すべきゴールは生まれた。
先制ゴールを決めた斉藤光毅
J1第3節、横浜FCは敵地で柏レイソルを3-1と下し、J1昇格後の初勝利を手にした。試合を動かす先制点を挙げたのは、18歳のFW斉藤光毅。16歳だった一昨季の7月にJ2でデビューを果たし、昨季までに通算6ゴールを決めてはいたが、これが彼にとってのJ1初ゴールである。
あどけない顔に笑みを浮かべ、斉藤光が振り返る。
「チームとしてショートカウンターを(狙って)やってきたなかで、それがうまくいき、マツさん(MF松浦拓弥)からシュートを打ちやすいボールが来た。マツさんに感謝です」
記念のゴールが生まれたのは、前半21分。敵陣で相手ボランチが拾ったボールを、MF瀬古樹が死角から近づいて突き、こぼれたところを松浦がワンタッチで縦へ。いち早くDFラインの裏へ走り出していた斉藤光が、これを左足でゴール右スミへ蹴り込んだ。
瀬古、松浦、斉藤光と、3選手がすべてワンタッチでシンプルにゴールへと向かった、まさにダイレクトプレーのお手本のような速攻だった。
横浜FCは前半終了直前の44分、一度は同点に追いつかれた。シュート数にしても、90分間トータルで柏の12本に対し、わずか4本。中断期間を利用し、低い位置からパスをつないで攻撃を組み立てるポゼッションスタイルに取り組んではいるが、まだまだ発展途上にある。
それでも、柏のネルシーニョ監督が「今日は何もできなかった」と嘆く一方で、横浜FCの下平隆宏監督は、「ハードなバトルに臆せず戦えた。(パスをつないで)攻撃のリズムを作るところはブレずにやれた」。
結果は妥当。どちらが勝利にふさわしい戦いを見せたかは明らかである。
後半開始直後の47分に生まれた決勝ゴールにしても、横浜FCの執念が乗り移ったかのような迫力あるものだった。
前線へ送られたFKをFW一美和成が頭で落とすと、ボールを拾った斉藤光がペナルティーエリア内へ進入。ここはDFに止められたものの、こぼれ球に松浦が、さらにはMFマギーニョが襲い掛かり、最後は混戦のなか、松浦が技ありの右足ヒールキックでゴールへ流し込んだ。
リードを奪った試合終盤は、5-4-1の強固な守備ブロックを構築。柏の攻撃を難なくはね返し続けた。
今季J1に昇格したばかりの横浜FCは、これで1勝1敗1分けの勝ち点4。数字のうえでも上々のスタートを切っているが、何よりチーム全体で気持ちの入った戦いを見せていることに、勢いを感じさせる。
下平監督も試合後の記者会見で、何度か「選手はよくやった」と繰り返し、こんなことを話している。
「声を掛け合い、一体感を持ってやれた。勝利もうれしいが、チームがひとつになってやれたことがうれしい」
そんな上昇気配を漂わせるチームの起爆剤となっているのが、斉藤光をはじめとする若い選手たちだろう。
昨季の横浜FCと言えば、53歳のFW三浦知良を筆頭に、42歳のMF中村俊輔、39歳のMF松井大輔ら、ベテラン選手が注目されがちだった。
しかしこの試合では、2001年生まれの斉藤光、2000年生まれのDF小林友希の他、1997年生まれの3選手、DF星キョーワァン、瀬古、一美が先発メンバーでピッチに立っていた。つまり、”東京五輪世代”の選手が5人も含まれていたのである。思い切った若手の起用が、チームに勢いをもたらしていることは間違いない。
3バックの左DFを務める小林は、低い位置からパスをつなぐ新たなスタイルについて、「後ろからつなぐことでリスクはあるが、チーム全体としてビルドアップして(相手の守備を)はがすことができれば、前の選手たちに、よりスペースと時間を与えることができる。失う怖さも多少あるが、ビビらずに勇気を持ってつないでいこうと話している」と前向きに語る。今季採用された”J2降格なし”の特別ルールも、J1昇格1年目のチームが新たなチャレンジを決断する後押しになっているのかもしれない。
リーグ戦再開後は2試合連続先発出場の斉藤光は、充実した様子をうかがわせつつも、貪欲に語る。
「J1初勝利はうれしいけど、まだまだチームとしての課題はあると思うので、突き詰めてやっていきたい。(前節の)コンサドーレ札幌戦も、今日(の試合)も、もっと点を取れる場面はあったので、1点では満足していられない」
再開後の今季J1は週2試合ペースが続く過密日程ながら、横浜FCは次節からの5試合は実質ホーム5連戦(第6節のみアウェーゲームだが、相手は横浜F・マリノス)。初勝利の勢いを加速させるには、絶好のチャンスである。