約30年にわたってF1を撮影し続けた世界的F1カメラマンの熱田護氏と桜井淳雄氏がとらえた名シーンを、撮影の裏話や解説付きで一挙公開。アイルトン・セナやミハエル・シューマッハら伝説のドライバーたちの歴史的瞬間、ファンたちの歓喜・熱狂など数…

約30年にわたってF1を撮影し続けた世界的F1カメラマンの熱田護氏と桜井淳雄氏がとらえた名シーンを、撮影の裏話や解説付きで一挙公開。アイルトン・セナやミハエル・シューマッハら伝説のドライバーたちの歴史的瞬間、ファンたちの歓喜・熱狂など数々の迫力ある写真をお届けする。

●1994年 開幕前ポルトガルテスト

熱田 アイルトン・セナが最後に所属したウイリアムズでの初走行の時。朝、ピットの前に出てきたセナを逆光にして、顔の輪郭がうまく出るように撮影しました。何枚かシャッターを切ったのですが、この一枚だけが理想どおりのカットになりました。僕の好きな作品のひとつです。

●2006年 イタリアGP

桜井 シューマッハはこの頃引退説がささやかれていて、僕は「絶対にイタリアで発表する」と思って狙っていました。すると、普段は勝つと飛び跳ねるなど喜びを爆発されるシューマッハがこんな哀愁を帯びた表情を見せました。実際、この後で引退宣言をするのですが、彼と同じ時期をF1で歩んできたので、撮影していて涙がこぼれそうになりました。

●2009年 ブラジルGP

熱田 当時ブラウンGPに所属し、チャンピオン争いをするルーベンス・バリチェロを応援するブラジルの大観衆。ブラジルの観客はすごく情熱的です。どんなスポーツでもファンは、イベントに欠かせない存在。2020年シーズンは(新型コロナウイルス感染症の影響で)こういう写真を撮れないと思うと寂しいですね。

●2011年 ベルギーGP

熱田 小林可夢偉選手。速くてメンタルは強いし、競り合いにも負けない。ただタイミングだけが不運な選手でした。可夢偉選手がケータハムで走った2014年を最後に日本人がF1のグリッドにいません。今、ヨーロッパでホンダの若手ドライバーが何人か走っていますが、結果を出して、早くF1に駆け上がってきてほしいですね。

●2011年 モナコGP

熱田 ミラボー・コーナーの入口を走るフェラーリのマシンです。ミラボーは減速に入るところだし、怖さはまったくありません。モナコもどんどん金網が増え、ガードレールが高くなり、安全対策が施されましたので、今ではこのような迫力あるカットを撮れる場所が少なくなってきました。年々、コースの景色は変わるので、記録を残す意味でも今年はモナコへ行きたかった。

●2011年 アブダビGP

桜井 夕方のレースの開始前、グリッドに着く直前の最終コーナーでコース脇にしゃがんで撮影しました。当時メルセデスのシューマッハが走ってきてフルブレーキングしてスモークが上がり、狙いどおりに迫力がある写真が撮れたと思います。

●2012年 ブラジルGP

熱田 ミハエル・シューマッハの2度目の引退レースとなったブラジルGP。7位でゴールしたシューマッハは、このレースでタイトルを決めたセバスチャン・ベッテルを祝福しました。引退試合でヘルメットを取った後、真っ先に歩み寄ったのは、普段から仲が良い、母国の後輩のところだったのです。

●2013年 オーストラリアGP

桜井 1コーナーのカメラスタンドから撮影しました。普通は正面から撮りますが、他のカメラマンと違った視点で撮ることを意識して横から狙いました。でも、この作品を撮ることができるのは決勝のほんの一瞬。すぐ森の中に消えていくので、カメラに収めるのがすごく難しかったです。

●2015年 ハンガリーGP

桜井 30回目の開催となったハンガリーGPの表彰式。ドライバー、チームスタッフ、観客、メディアのすべてが一体となり、スパークする時間です。これがF1の醍醐味であり、最高の瞬間です。今季、これを無観客でやって面白くなるのか……? と疑問に思っています。

●2017年 ハンガリーGP

桜井 スタンドにいる観客にたまたま光があたり、その背中に「5 VETTEL(ベッテル)」という文字が浮かんで見えたため、ベッテルが来るのを待って撮影しました。そして、このレースではベッテルが優勝します。普段は狙って撮りますが、このシーンは偶然が重なりました。

●2017年 イギリスGP

熱田 母国イギリスで史上最多の6勝を記録するルイス・ハミルトン。レース後に大勢のファンの中に飛び込むシーンは”お約束”です。それを主催者はわかっていますので、ハミルトンが表彰式や記者会見を終えてコースに出てくるのをファンが待つのを特別に許可し、ある意味、このシーンは作られています。

●2017年 オーストリアGP

桜井 当時のオーストリアGPは、表彰が終わった後、ドライバーはコースを横切ってメディアセンターの記者会見室まで歩いていくのです。他のGPではなかなか見られないシーンなので、その瞬間を撮影するために全力疾走でセンターに駆け上がり、シャッターを切りました。

●2018年 アメリカGP

熱田 キミ・ライコネンが最後に優勝したレース。彼は撮られることが大嫌いで、カメラに気づくとすぐ背中を向けてくる。諦めずにまわり込んで撮ろうとすると、また背中を向けるという繰り返しです(笑)。でも見た目も言動もカッコいい。撮っていて絵になりますし、大好きな選手のひとりです。だからこの時彼が勝って、僕もすごくうれしかったのを覚えています。

●2018年 イタリアGP

桜井 レース前の国歌斉唱の後に飛行機が飛んでくるのを事前に知っていたので、マシンの前にかがんでずっと待っていました。すると僕の存在をフェラーリのメカニックたちが「何やっているんだ?」と怪しんでいました(笑)。この写真をインスタグラムに載せたら世界中から大反響をもらいました。

●2018年 アブダビGP

熱田 F1カレンダーの中で唯一、日没直前にスタートする”トワイライト・レース”として知られるアブダビGP。ヤス・マリーナ・サーキットのレイアウトも独特で、コースの一部が隣接するホテルの下を通過する設計になっており、この作品はホテルの上から撮影しました。

2018年 ドイツGP

桜井 メルセデスの母国ドイツで優勝したルイス・ハミルトン。ピットウォークに立ち観客の声援に応えるために、僕がいた方に向かって走ってきたので、思わずシャッターを切りました(写真上)。そして友人のカメラマンが撮影している僕を撮ってくれました(写真下、右側でカメラを構えているのが桜井氏)。

●2018年 オーストリアGP

熱田 今季開幕戦の舞台となったレッドブルリンクは丘陵地にあり、アップダウンがあるサーキット。コースサイドに花がたくさん咲いて、すごく美しい風景の中をF1マシンが走っていきます。レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが過去2連勝しており、今年も期待していましたが、今年の開幕戦は残念でしたね(マシントラブルによりリタイア)。

●2018年 日本GP

熱田 今季限りでフェラーリの離脱が決まったセバスチャン・ベッテル。引退説もささやかれていますが、パドック裏でのファンサービスもすばらしく、サインを断る姿は見たことがないです。キャリアの終盤に入っていますが、再び輝く姿を見せてほしいと多くのファンが願っています。

●2019年 ドイツGP

桜井 大雨となり、何度もセーフティカーやバーチャルセーフティカーが導入される大荒れの展開となったレースで、レッドブル・ホンダのフェルスタッペンが優勝。彼はまだ22歳ですが、とにかく速い。ミスも少ないし、メンタルも強い。今後どこまで成長するのか、楽しみです。

●2019年 スペインGP

熱田 2020年からフェラーリの実質的なエースとなったシャルル・ルクレール。イケメンだし、速いし、完璧なドライバーです。しかも、写真を撮られることも嫌がりません。ピリピリするようなことはなく、ピットの中ではいつもリラックスして落ち着き払っています。

【profile】

熱田 護 あつた・まもる
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。二輪の世界GPを転戦した後、91年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。F1取材500戦を達成し、昨年末に写真集『500GP』(インプレス)を刊行。

桜井淳雄 さくらい・あつお
1968年、三重県津市生まれ。91年の日本GPよりF1の撮影を開始。F1やフェラーリの公式フォトグラファーも務める。現在、鈴鹿サーキットの公式サイトで「写真が語るF1の世界」を連載中。