大きな自信を持って望んだはずの開幕戦は、悲惨な結果に終わった。 決勝で2台がリタイアし、ノーポイントに終わっただけではない。予選ではメルセデスAMGに0.5秒の大差をつけられ、マシン挙動も明らかにライバルのほうが上だった。第2戦でリベ…

 大きな自信を持って望んだはずの開幕戦は、悲惨な結果に終わった。

 決勝で2台がリタイアし、ノーポイントに終わっただけではない。予選ではメルセデスAMGに0.5秒の大差をつけられ、マシン挙動も明らかにライバルのほうが上だった。



第2戦でリベンジを誓うレッドブル・ホンダ

「マシンバランスは完全に満足できる状態ではなかったし、いくつかのコーナーはいいけど、ダメなコーナーもあって、そのせいでギャップは少し大きくなってしまった。それでも0.5秒というのは、かなり大きな差だ。それについてどう言えばいいか……そのギャップを縮めるべく全力でがんばるしかない」

 そう語るマックス・フェルスタッペンのマシンには、これまでとは異なる先端が丸みを帯びた形状のノーズが装着されていた。特徴的な開口部を除けば、全体的なフォルムやウイングステーはメルセデスAMGのそれに似ているとも言える。

 アレクサンダー・アルボンは、旧型ノーズを使用して0.4秒遅れ。ただし、このふたつのノーズは速い・遅いではなく、異なるフィロソフィ(哲学)に基づいて設計されたものであり、今後の開発の方向性を見据えたものだという。

「新型は1セットしかなかったから、チームはそれを僕に与えてくれた。まだその新旧の差を理解しようとしているところだけど、そのふたつのウイングは異なるフィロソフィで作られたものなんだ。

 それが(タイム差にして)どのくらい違うのかは教えられない。なぜなら、僕は知らないからね。まだそれを学んでいる途上だということだよ」(フェルスタッペン)

 その発言が意味するのは、レッドブルの空力開発に迷いが生じているということだ。

 今後の新たな方向性を見定めたうえで、この新型ノーズを投入しているとも言える。だが、それはバルセロナ合同テストや3月のメルボルンまでのRB16は、やはり不完全なマシンだったとも言える。

 それを象徴するかのように、金曜フリー走行でのRB16の挙動はリアがナーバスで、両ドライバーともにスピンを喫するなど、手を焼いている様子が明らかだった。

 金曜から土曜にかけて、夜のデータ解析によるセッティング熟成でいくらかは改善された。とはいえ、予選になってもまだ、フェルスタッペンは高速コーナーセクションでのソフトタイヤのムービング(ゴム表面の剛性感がなく、レスポンスが悪い感触)を訴えていた。そのせいで、0.5秒もの大差をつけられてしまったのだ。

 しかし、決勝ではソフトタイヤは使わない。マシンのピークパフォーマンスを常に引き出すわけでもない。だから、その差は縮まるはずだった。

「ミディアムのほうが気持よく走ることができている。決勝は金曜に比べて大幅に暑くなるから、そのタイヤチョイスが有利に生かせればと思っている」

 Q2でただひとり、ミディアムタイヤを履いて通過するギャンブルに成功して予選3位。ルイス・ハミルトンが黄旗無視によるペナルティで降格となったため、フェルスタッペンは2番グリッドへと繰り上がり、ミディアムタイヤでスタートする。

 スタートは無難に決め、2番手でバルテリ・ボッタスの後方を同等ペースで走る。レース展開はレッドブルに有利になり、少なくともフェルスタッペンの表彰台は確実に見えた。

 レース展開によっては、メルセデスAMG勢よりも第1スティントを長く引っ張り、彼らより10周ほどフレッシュなタイヤで第2スティントを走れば、昨年のようにコース上で前を追いかけ回すという展開が思い描かれた。




開幕戦でまさかのリタイアとなったフェルスタッペン

 そんな矢先の11周目、フェルスタッペンのパワーユニットが突然止まり、失速した。

 セッティングの変更による再始動を試みるが、何をやってもマシンのECU(エンジン・コントロール・ユニット)がエラーを検知。ハードウェアを壊さないようにアンチストールシステムがオンになり、前に進んで行かない。

 ピットに戻ってステアリングを交換しても、パワーユニットの再起動をかけても、その症状は変わらず。結果、リタイアを余儀なくされてしまった。

 そしてレース終盤には、アルボンもコース上にストップしてリタイア。いずれもパワーユニットに関連する電気系統のトラブルだった。だが、その2台はそれぞれ異なる問題だったと、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは説明する。

「レッドブルの2台は、電気系と思われるトラブルでリタイアとなりました。(パワーユニットの電気系には)要素がたくさんありますので、今のところ片っ端からあたって現在進行形で調査中です。

 2台ともまったく違う症状で、アレックスのほうはちょっとミスファイヤ的な症状が出てパワーダウンしました。(前兆はなく)急にで、開幕前テストなどこれまでに一度も出たことのない症状です」

 ホンダは5日後に迫る第2戦シュタイアーマルクGPに向けて、大急ぎで原因究明と対策を迫られることとなった。

 フリー走行からマシンの挙動が安定せず、予選ではメルセデスAMGに0.5秒差をつけられ、決勝ではノーポイント。ただ、絶望的な結果かといえば、ひとつも光明がなかったわけではない。

 フェルスタッペンは「間違いなく楽勝で表彰台は獲れていたはずだし、3位なら上々のシーズンスタートだった」と語った。

 アルボンはレースペースがやや遅くメルセデスAMG勢についていくことはできなかったものの、レース終盤のセーフティカー導入時にピットインしてソフトタイヤに交換すると、ハードタイヤを履いたままのメルセデスAMG勢に襲いかかった。ハミルトンと接触して後退したものの、そのまま行けば自身初の表彰台どころか、優勝を飾っていた可能性も高かった。

 純粋なレースペースという点ではフェルスタッペンが、戦略も含めたチーム全体の能力という点ではアルボンが、結果にこそつながりはしなかったものの、それぞれこの開幕戦で実力を証明してくれた。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はこう語る。

「結果が残らなかったのは残念だが、マックスはボッタスと同じペースで走ることができていたし、戦略的には我々のほうがシャープだった。アレックスには勝つチャンスさえあった。2台とも、ある段階までは優勝できるところにいたんだ。レースペースではメルセデスAMGと戦えることもわかった」

 この開幕戦で自分たちのポテンシャルをフルに引き出したい、と語っていた田辺テクニカルディレクターも、その点に関してはホーナーと同じ意見だ。

「アルボンが(レース終盤に)ひとりソフトタイヤでハミルトンを抜いて、その先どうなったのかという希望的観測も持てます。レース戦略をうまくやったのが大きかったとはいえ、それも実力のうち。我々のパフォーマンスを発揮したうえ、レースでの対他競争力が見えたのではないかと思います」

 開幕戦と同じレッドブル・リンクで、2週連続で開催される第2戦シュタイアーマルクGPは、今週の金曜に走行が始まる。

 それまでにしっかりと問題点を洗い出し、今度こそ自分たちのポテンシャルを結果に結びつけることができるか。タイトル争いを目標と掲げているからには、これ以上の取りこぼしは許されない。