北海道コンサドーレ札幌戦でゴールを決めた22歳の一美和成(横浜FC) 7月4日、ニッパツ三ツ沢球技場。メインスタンドからは横浜市立市民病院の大きな建物が見える。その窓には、「おかえりなさいJリーグ」「三ツ沢で心をひとつに!!」の文字が掲げら…
北海道コンサドーレ札幌戦でゴールを決めた22歳の一美和成(横浜FC)
7月4日、ニッパツ三ツ沢球技場。メインスタンドからは横浜市立市民病院の大きな建物が見える。その窓には、「おかえりなさいJリーグ」「三ツ沢で心をひとつに!!」の文字が掲げられていた。医療従事者による心づくしの”祝福”だろう。一方、ピッチでは選手たちがセンターサークルに集まり、医療従事者へ感謝の拍手を送った。
その光景はJ1リーグ再開を象徴していた。
スタンドには関係者しかいない。そこにいるはずのサポーターの姿は、モニターに映し出されていた。報道関係者も「体調確認シート」の提出や検温などで30分以上、列に並んで万全を期しての入場だった。ステレオからは録音したファンの声援や手拍子が流されていた--。
何もかも、今までとは同じではなかった。J1第2節、横浜FC対北海道コンサドーレ札幌の試合は「新しい日常」の形で始まろうとしていた。
「昇格した勢いで、どこまで序盤戦に勝ち点を稼げるか」
今シーズン開幕前、横浜FCの関係者は口をそろえていた。勝ち癖がついていたし、戦い方も成熟していたはずで、開幕戦ではヴィッセル神戸から、敵地で貴重な勝ち点1を獲得したのだった。
しかし、事情は変化していた。開幕から4カ月が経過。コロナ禍の特例で「降格なし」になったこともあるのか、昨年までの戦いをメンバーも含めて刷新されていた。小林友希、星キョーワァン、瀬古樹、一美和成、斉藤光毅など、20歳前後の若い選手が先発に名を連ねた。
札幌戦は、慣れ親しんだ4-2-3-1から変更し、3-5-2を採用。中盤は佐藤謙介をアンカー気味、右アウトサイドのマギーニョが高い位置で”遊撃”を担い、若い一美、斉藤がトップで躍動する。ポゼッションの意識は相変わらず高く、GKもつなげることに徹していた。
ただ、若返ったチームで、システムの未成熟度も出てしまう
3分、2トップの一角に入ったルーキー、斉藤が深みをつけ、敵陣に押し寄せる。左からのクロスはクリアされるが、再び斉藤が拾う。しかし、コントロールミスでボールを奪われてしまう。
札幌のカウンターは鮮やかだった。鈴木武蔵を起点にボールをつなぎ、攻め上がる。左サイドのチャナティップが2人を相手にクロスを折り返し、フリーでボールを受けた武蔵がシュートし、一度はブロックされたが、再び流し込んだ。
横浜FCは、防御線が機能していなかった。カウンターをどこでも止められず、ずるずると下がるだけ。チャナティップ、武蔵に対するディフェンス強度も低かった。スペースと時間を与えてしまっていた。
「試合勘」の欠如は、どうしようもならないのか。
もっとも、その点は札幌も変わらない。2月のルヴァンカップ開幕戦よりも、体は重かった。ビルドアップは各所でノッキング。攻撃を前提にしたキャラクターだけに、守備に回ると弱さを露呈するのだ。
「思っていたことがなかなかできなかった。前半は特にビルドアップがうまくいかず。トレーニングはしているが、ゲーム勘が足りない」(札幌・ペトロヴィッチ監督)
16分、横浜FCは自陣の佐藤から一本のパスを受けた一美が、鮮やかな反転から抜け出す。札幌の拙守に助けられた部分はあっただろう。2人のディフェンスが同時にチャレンジし、背後を明け渡すというイージーなミスだった。一美はGKとの1対1を冷静に外し、左足で蹴り込んだ。
率直に言って、ミスが多発した試合と言える。得点シーンは象徴的だ。防御線が緩く、守備強度も弱いため、一発で破られる。トレーニングと試合は違い、コロナ禍の影響が強く出ていた。
横浜FCには逆転できる機会はいくつもあった。一美や斉藤などが決定機を得たが、どれも外していたのだ。
後半8分、横浜FCはプレッシングとリトリートが中途半端で、人の配置がずれ、ポジション的優位を失う。中盤に広大なスペースが広がり、中に入ったチャナティップに完全な自由を与え、スルーパスを通される。簡単に裏を突かれてしまい、快足を誇るFW武蔵に引き離されると、鋭い一撃を放り込まれた。
その後、横浜FCは反撃に移るため、5人の交代枠をすべて使った。しかし、戦いは好転しない。むしろ、守備の乱れからカウンターを食らい、決定機を与えている。
「決定機やチャンスを作り、そこで点を取っていたら、違ったゲームになっていた。ただ、90分を通し、トライし続ける姿勢が見えた。そこはポジティブに捉えたい。ジェイや武蔵など、個のところの戦いは、やはりJ1のレベル。そこで負けないよう、組織的にも戦えると思うので」(横浜FC・下平隆宏監督)
横浜FCは1-2で敗れたが、斉藤、一美などは可能性を示していた。戦いを重ねる中、見守る必要があるだろう。
「新しい日常」
それを突き付けられたのは、Jリーグも同じである。再開できたことは、何よりも喜ばしい。しかし、戦い方の着地点を見つけるには、しばらく時間がかかりそうだ。