10月25日、東京・秩父宮ラグビー場。ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)率いる日本代表の2回目の強化合宿は、最後の練習を迎えていた。 全体トレーニングが終わりに近づくと、ゴールキッカー候補たちがキックティーと楕円球を持ち出す。各々…

 10月25日、東京・秩父宮ラグビー場。ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)率いる日本代表の2回目の強化合宿は、最後の練習を迎えていた。

 全体トレーニングが終わりに近づくと、ゴールキッカー候補たちがキックティーと楕円球を持ち出す。各々、キックの感触を確かめる。

 そのなかの1人は田村優。6月のテストマッチでは全3戦で司令塔のSOとして先発し、ゴールキック14本中13本を決めた27歳だ。11月5日のアルゼンチン代表戦(秩父宮)などに向け、準備期間の少なさが指摘されている。それでも田村は、「そこを言い訳にしたら何もできない」と話している。

「変わらないこと(置かれた状況)を変えるより、自分が(前向きに)変わるほうが早い」

 キック練習のさなか、タブレットを持つスタッフ陣と話し込む姿があった。その輪に入っていた田邉淳アシスタントコーチから、キックを蹴る際の身体の向きなどに関して助言されたようだ。

 さかのぼれば2月、田邉コーチと田村は沖縄にいた。国際リーグのスーパーラグビーに参加する日本のサンウルブズの合宿で、トレーニング映像を撮りながらキッキングフォームの確立に時間を割いた。シーズンが始まれば、田村は田邉が現役時代に使っていたものと同じキックティーを手にするようになった。そのまま、6月の好感触をつかむこととなる。

 ジョセフ体制下でもその関係性は変わらず。すべてを終えると、田村は振り返った。

「(ゴールが)入っているか入っていないかより、蹴っている感覚をしっかりさせないと。たまたま入った、みたいなのは嫌なので。前の代表の時は(その感覚が)よかったんですけど、いまは疲れもあってか少し崩れていた。(田邉コーチは)僕のスタイルのなかで『もっとこうした方が…』と言ってくれるので、助かります」

 今回の合宿では、同じSOの小野晃征が「諸事情」のため不参加となった。6月、さらには昨秋のワールドカップイングランド大会でも一緒に戦った小野の不在を「チームをよくしていける選手。いた方が楽は楽です。でも、それをどうこう言えるわけではない」とする。その先は、小野への感謝の言葉を重ねた。

 小野は、プレー環境の改善を目指す日本ラグビー選手会の主要メンバーでもある。その働きを知るだけに、田村はこうも続けるのだった。

「コスさんは選手としても頑張っていて、これからの若い世代の選手のためにも頑張っている。大変だと思いますけど、それは僕とかができないことで…」

 自身はまず、ゴールキックの質を再精査する。「ゲームプランを理解して、コミュニケーションを取ってリードして、皆を同じ方向へ行かせる。スペースに速くボールを運ばせる」というSOの役割も肝に銘じる。

「(これからのジャパンのスタイルは)シンプルで皆が理解しやすい。そこがいいところです。もっとボールが動く、速くていいプレーができるんじゃないかと思っています」

 アルゼンチン代表戦に出場すれば、キャップ数(国際間の真剣勝負への出場数)は「39」となる。
(文:向 風見也)