「唯一、マジョルカで危険な男だった」 マジョルカの地元紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』は、そう見出しを打っている。「タケ・クボ(久保建英)は、またしてもマジョルカのベストプレーヤーだった。(右サイドバックのアレハンドロ・)ポゾのサポートも受…

「唯一、マジョルカで危険な男だった」

 マジョルカの地元紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』は、そう見出しを打っている。

「タケ・クボ(久保建英)は、またしてもマジョルカのベストプレーヤーだった。(右サイドバックのアレハンドロ・)ポゾのサポートも受け、特に前半は相手と果敢に対峙し、苦しめていた。対面した若いディフェンダー、マヌ・サンチェスに苦い思いを味合わせた」

 7月3日、リーガ・エスパニョーラ第34節。マジョルカは強豪アトレティコ・マドリードの本拠地ワンダ・メトロポリターノに乗り込み、何度もゴールに肉迫した。しかし、強力な守備網を崩し切れず、勝負どころの差を見せつけられ、たびたび失点。下馬評どおり、3-0と敗れている。

 劣勢の中、久保建英が放った輝きとは?



アトレティコ・マドリード戦にフル出場した久保建英(マジョルカ)

 堅守を誇るアトレティコ・マドリードを相手にしても、久保は少しも怯んでいない。

 5分、相手のパスを読んでカットすると、ボールを動かしながら、1人、2人、3人とマーカーをはがし、かわす。ダブルタッチの技術は、精密で大胆だった。そして縦を突破した後、反転してゴール正面の味方にパス。たったひとりで、鮮やかに好機を作りだした。

「アトレティコの選手たちを、まるで明日がないかのような心地にさせた」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』の表現は、もはや詩的である。

 8分、久保は右サイドでボールを受けると、外側を全速力で走るポゾに対し、パスを出す。一度、相手に縦と見せ、瞬時に内側へ。何気なく”時を操る”ことで、ディフェンスのタイミングを崩し、完全に防御線を破った。

「難しいプレーを簡単にする」

 それが一流選手の条件だとスペインでは言われるが、久保はその領域に入っていた。

 10分、久保は逆サイドからの長いパスを受ける。信頼の証左だろう。対峙したマヌ・サンチェスを手玉に取るように中へ切り込み、ミドルレンジで左足を振る。GKの正面だったが、簡単にシュートまで持ち込んだ。

 体力、気力が充実しているのだろう。中に切り込んで、相手に囲まれて奪われそうになっても、ボールを失わない。その力強さに、ボールが集まる。何より、判断が明敏。最もプレッシャーを受けるゾーンにいながら、相手が嫌がる、ダメージを受けるプレーを次々に選択できるのだ。

 41分のプレーは圧巻だった。

 自陣からのカウンター、相手を惹きつけて出した後、リターンを右サイドでもらう。まずは、マヌ・サンチェスに餌を巻くように飛び込ませ、かわし、再び追いつかれたところ、緩急だけで崩れ落とす。もうひとり、コケも誘い込んであっさり抜き去る。それは居合抜きのようだった。最後のクロスは、ホセ・ヒメネスにブロックされ、CKになった。ヒメネスが怒りを示していたように、その突破はアトレティコ陣営に混乱を引き起こしていた。

 後半になっても、その光景は変わらない。

 58分、久保はマヌ・サンチェスを翻弄し、1対1から縦に突破。ショルダーチャージで吹っ飛ばし、右足でゴールラインぎりぎりでボールを残す。視界が開けると、ためらわずに左足を振る。これはカバーに入ったディフェンスに体ごとでブロックされたが、マヌ・サンチェスに代わり、ブラジル代表のロドリを引きずり出すことになった。

 スピードに優れるロドリに対し、久保は変幻を見せる。

 久保は間合いをはかり、仕掛けのテンポを切り替えた。79分、右サイドでロドリと対峙すると、”抜き切らず”にニアサイドへクロス。ピンポイントで合わせたシュートは外れたが、躍動は止まらない。相手の特徴や力量を読み、それを凌駕。90分には縦を切られると、いったん戻して左足でクロスをファーサイドに送り、決定機を作った。

 試合は、3-0と完敗だ。もともと非力なマジョルカは、ストライカーとセンターバックの主力二人がいない状況で、力の差は歴然としていた。交代で出てくる選手に至っては、ふたつほど”階級”が違っていた。

 しかし久保自身は90分間、一瞬たりともあきらめていない。戦術的にソリッドなアトレティコに対し、その技量と集中力は称賛に値する。マジョルカだけでなく、アトレティコのどの選手にも引けを取らないプレーだった。

 久保は荒々しい進化を続ける。厳しい条件の方が、成長スピードが速くなるのか。再開したリーグ戦は、7試合連続で先発出場。週2試合という厳しいコンディションのはずだが、ボールを触るたび、プレーは冴え渡っているのだ。

 次節は7月8日、本拠地ソン・モイスでレバンテとの対戦になる。