新型コロナウイルス(COVID-19)による中断期間を経て、再開するJリーグ。Jリーグ全試合を配信する「DAZN」と18のスポーツメディアがタッグを組んだ「DAZN Jリーグ推進委員会」では、「THIS IS MY CLUB -FOR RE…
新型コロナウイルス(COVID-19)による中断期間を経て、再開するJリーグ。Jリーグ全試合を配信する「DAZN」と18のスポーツメディアがタッグを組んだ「DAZN Jリーグ推進委員会」では、「THIS IS MY CLUB -FOR RESTART WITH LOVE- Supported by DAZN Jリーグ推進委員会」の企画をスタートさせた。
超ワールドサッカーでは、大分トリニータの榎徹社長にインタビューを実施。片野坂知宏監督とともにトリニータ復活に力を注いだ、地元・大分県出身の“元ファン”である社長の地域やクラブへの想いを語っていただいた。
取材・文:菅野剛史
◆「トリニータが「ハブ」になって」
──新型コロナウイルスによる今回の状況をどう感じていらっしゃいましたか
「よく「まさかという坂」があると色々な経営者の方から伺っていましたが、本当に「まさか」という坂があったんだなと実感していますし、厳しいということも実感しています」
「一方で、中断期間というのは、我々とスポンサーの皆様、ファン・サポーターの皆様、地域の方も含めて、関係性を考える良い機会になりましたし、良い機会として捉えたいと今は思っております」
──地域に長年根付いてお仕事をされてきましたが、この厳しい状況で地元、地域に対する想いをお聞かせください
「今まで我々は応援していただく立場、支援していただく立場というのが大きかったです。地域の方も、ファン・サポーターの方もそうです。これからは、トリニータが「ハブ」になってと言ったら大げさですが、トリニータを題材にして、地域を繋げる、会社と会社、スポンサー同士を繋げる、地域とスポンサーを繋げる、ファン・サポーターを繋げるという、そういった輪を作っていく。コミュニケーションの輪を広げていくことを、もっともっと行いたいと思っています」
「我々の方から逆にエールを送るといったことを、もっともっと増やしていく必要があると思っています。それが、新しい地域との関係にも繋がっていくのかなと思っております」
──プロスポーツの中でも影響力のあるサッカー、そのクラブチームの大きさを改めて感じられたのですね
「スポーツ自体に地域を元気にするとか、様々な関係者が、例えば我々「トリニータ」という共通言語でまとまっていくという力は元々持っていると思います。それをもっともっと身近なようにできる可能性があると思っております」
◆J3優勝、J2昇格は「正直一番嬉しかった」
──2016年に大分トリニータの社長に就任されました。チームはJ3に降格した年でしたが、当時の心境はいかがでしたか
「皆さんから「非常に大変だな」、「火中の栗を拾った」といった同情の声をいただいたんですが、私自身は「J3からであれば、あとは上がるしかないだろう」、J3からJ2には1年でなんとか上がりたいなと思っていました。思ったほどの悲壮感はなく、むしろワクワクしていたというのが当時の心境です。やらなくてはいけないということはありましたが、それは上がるしかない状況だったという思いが強いです。むしろ、今の方が厳しいのかなと思っています」
──地元である大分県のクラブに対しての想いというのは当時はいかがでしたか
「クラブというか、元々トリニータのファンだったんです。1994年にクラブはできましたが、発足時からではないですが、それに近い時期からずっと見ていまして、シーズンチケットも購入していましたし、当時は気楽な立場でヤジも飛ばしていました」
「そういったこともありましたし、元々県職員でしたので、地域のためにというそういった思考回路はありました。スポーツを通じて地域を元気にするというのは凄い事なのではないかと思っていました」
──そういった中で、J3を戦うことに加え、クラブは再建中の身でした。難しさもあったかと思います
「一番厳しい時は、前の青野(浩志)社長が方向性を作ってやってくれていましたので、ある意味それに乗っかるということはありました。私がなんとかしたというよりも、前からいるクラブの社員、前の社長たちがしっかりやってくれていて、私は途中から引き継いだという形でした」
「経営的には当然苦しい部分もありました。お金は少なかったです。でも、それでもJ3であれば当時でも一番大きなクラブでした。J2に行くと下から数えた方が早いクラブでしたが、新しい社員、昔からいる社員が力を合わせて、会社の規模も大きくしていったことで乗り切れたと思います」
──就任1年目でチームはJ3優勝、J2復帰を果たしました。目標であった1年での昇格が決定した時のお気持ちはいかがでしたか
「正直、あの時が一番嬉しかったですね。片野坂監督ともよく話しているんですが、J3で優勝してJ2に上がった瞬間は、本当に嬉しくて涙が出ました。なんとか上がれたという。嬉しかったというか、ホッとしたという感じですね。当時の選手も頑張ってくれてありがたい結果だったと思っています」
◆目標は「6位以内、勝ち点55以上」
──その後もJ2で成績を残し、2019シーズンからJ1へ復帰しました。この成功のプロセス、これからというのはどう考えていらっしゃいますか
「まずは監督、選手の頑張りが一番だと思っています。クラブの社員も頑張ってくれています。事業規模も大きくしていきました。むしろ、これからどういったところを目指すのか。このコロナの厳しい中から立ち直っていくのかということが難しいと思っています」
「今後何をするのか、どういうところを狙っていくのかということを、クラブのみんなで議論して固めていかないと、非常に厳しいことになると思っています」
──社長に就任されてから、共に歩んできた片野坂知宏監督との5年間はどういった時間でしたか
「チームのことに関しては、片野坂監督に任せている。全幅の信頼を置いています。そして強化部長を務めていた西山哲平(2020年からゼネラルマネージャー)とチーム作りは2人がやってくれています」
「我々は彼ら2人がやる基礎を作っていく。そしてクラブのイメージを上げていくことが役割だと思っています。ある意味、業務分担に近いところがあります」
「監督とは年の終わりに来年のスローガンを何にしようか、目標をどこにしようと2人で話をしています。その中で、スローガンと目標順位を決めていきます」
「それがシーズンに入ると、6試合に1回ミーティングを行うようにしていて、そこには強化部長や常務なども入って4人で反省するべき点、こうするべき点、我々からチームへの協力や、地域の事業に出て欲しいと要望を出したりします。監督からはグラウンドのことなどが出て、そういったことを6試合ごとに話し合って、その時々の目標を立てています。目標管理などをやっていますが、監督はクラブの財政を相当心配してくれています」
──クラブとチームという点で二人三脚のような関係だと思いますが、片野坂監督の一番の魅力はどこだと感じられていますか
「一番は本当にサッカーが好きで、24時間サッカーのことを考えているし、監督としての責任を全うするということを本気で考えてくれています。そこは、本当に信頼しています」
──2020シーズンはさらに高みを目指すシーズンでしたが、中断期間を経て、改めて目標というのは設定されたのでしょうか
「目標は変える必要ないだろうといことで一致しています。「6位以内、勝ち点55以上」ですね。結構厳しいかなと。今からのこのスケジュールだと厳しいですが、目標というのは高く持つべきだと思います」
◆「サッカー、スポーツを愛する文化を大分に作るのが夢」
──今シーズンはリモートマッチなどサポーターの方が来場できません。スポンサーの方も含め、試合を一緒に作っていく方々との関係性はどうしていくかプランはありますでしょうか?
「一番難しいのは、試合というものを通して、クラブと色々な関係者はコミュニケーションを取ってきましたが、それが4カ月間試合が中断されたことで、どうやってコミュニケーションを取ろうかと考えていました」
「その中で、特にユニフォームスポンサーなどの大きなところは、直接WEB会議なども含めて何を望まれているのか、我々にできることは何かを話してきました。ファン・サポーターの方とは、WEB上でファンとの意見交換会や選手との交流会などを行い、できるだけコミュニケーションをとる機会を作りました」
「嬉しかったのは、伊佐耕平選手が大分県内のスポンサーを自身のインスタグラムで紹介してくれたり、そういった選手の中に自分たちは色々な方から支援をしていただいていることを認識して、協力してくれていたことですね」
──今シーズンは「トリボード」という取り組みをされています。ファン・サポーターの方からの反響はいかがでしたか
「担当の者には申し訳ないですが、思っていた以上に反響がありました。クラウドファウンディングもたくさん集まり、本当にありがたいことだなと思っております。選手がよく協力してくれ、自分のツイッターやインスタグラムで出してくれたり、トリニータに関係する著名人の方も含めて、色々な関係者のかたが輪を広げてくれたことがあると思います。サッカーを軸にした新たなコミュニティの芽ができたのかなと思っています」
──支援する側というお話もありましたが、こういった活動で改めて支えられているということが感じられたと思いますが、影響は大きいでしょうか
「大きいですね。特にスポンサーの方も大きなところは今シーズンの減額などのお話もありませんでした。本当に今シーズンはなんとか持たせてくれている状態です。「トリボード」に代表されるように、ファンやサポーターの方、スタジアムを持っている自治体の方の支援、目立たないものも目立つものもありますが、それら全てが今のトリニータを作っている。だから、我々はこれにしっかりお返しするしていきたいと考えています」
──トリニータの牛乳パックなど、スポンサーとのコラボの展開なども多くなるかと思いますが、何かプランなどはありますでしょうか
「これというプランは現時点はないですが、牛乳パックはある種、象徴的なものだと思っています。例えば、お酒、焼酎を作っている会社とどういったことができるかとか。我々の方から提案をしていくこととか。是非一緒にやっていきたいという企業もあるので、我々も案を練っているところでもあります」
──改めて、ファン・サポーターの方を含め、今シーズンの大分トリニータが見せていきたいものをお聞かせください
「チームとしては、これまで以上に走り負けない、最後まで諦めないサッカーを続けて、最終的には勝ちに行くことを貪欲にやっていきたいと思っています」
「クラブとしては、ステークホルダーの方にエールを送るという意味でも、お返しをしていきたいと思っています。チームを支えられるような、資金も調達しなければいけないので、知恵を絞って新しい商品や「共感」「健康」をキーワードに実行し、選手、監督の努力に報いていきたいですし、地域の期待に応えていきたいと思います」
──大分トリニータというクラブは榎社長にとってどういった存在でしょうか
「みんなにもそうなって頂きたいと思っていますが、私にとっては「生活の一部」です。こういった職業についていなくても、トリニータの試合を観に行くということは、生活の一部になっていたと思います。今は生活の大部分を占めております。生活の一部になるという、サッカー、スポーツを愛する文化を大分に作っていきたい。それが私の夢です」