まもなく始まる2020年シーズンに向けて、ホンダの山本雅史マネージングディレクターは今から2週間前にイギリスへと飛んだ。ここでイギリス政府の義務づける自己隔離生活を過ごし、PCR検査を受けたうえで、レッドブルのチームメンバーたちととも…

 まもなく始まる2020年シーズンに向けて、ホンダの山本雅史マネージングディレクターは今から2週間前にイギリスへと飛んだ。ここでイギリス政府の義務づける自己隔離生活を過ごし、PCR検査を受けたうえで、レッドブルのチームメンバーたちとともに開幕戦の地オーストリアへと向かうためだ。



いよいよレッドブル・ホンダの2020年シーズンが始まる

 ようやく解放された山本マネージングディレクターは、今もロックダウンが続くイギリスの状況に驚いたと語る。

「イギリスに来て2週間が経って、ようやく自己隔離期間も終わったので街に出て1時間くらい歩いてみました。『どのくらい人がいるんだろう?』と思ってキャンベル・パークという公園に行ってみたんですけど、全然人がいない。

 大きなショッピングモールもスーパーだけ営業していて、(入場制限をしているため)2メートルおきに並んで長蛇の列になっているけど、それ以外のお店はほとんど開いていません。8割は閉まっていて、開いているのは日用品を扱うお店くらい。

 基本的に自粛。本当に人が少なくて、いつものミルトンキーンズとは全然違いますね」

 ホンダの活動前線基地であるミルトンキーンズの「HRD UK」も、FIA(国際自動車連盟)が義務づけたシャットダウン期間を経た今も一部のスタッフをのぞき、テレワークの状況が続いている。

「僕はまだHRD UKには行っていませんけど、社内でも2メートルのソーシャルディスタンスを取る必要があります。よって今は、ESS(バッテリーパック)などの設計に関わるスタッフや、シーズン開幕に向けてファクトリーでの準備作業が必要なスタッフだけが出社です。

 自宅でテレワークができる社員にはそうしてもらって、社内にはほとんど人がいないと聞いています。出社しているのは2、3割といったところだと思います」

 FIAとFOM(フォーミュラ・ワン・マネジメント)はA4サイズで90ページに及ぶ”プロトコル”を用意し、レース期間中のF1開催に関わるすべての人員に義務づける行動規約を定めた。全員がこれに沿って行動し、サーキット内の設備も新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために整備されている。

 豪華なモーターホームは持ち込まれず、パドックでも他チームとの接触は禁止。スタッフ数は1チーム80人(うちマシン運営は60人)に制限され、メディアも含めてそれ以外はパドックへの入場もできない。

 現場では5日に一度PCR検査が実施されるほか、疑わしい症状の者は即座に検査される。検査結果が出るまでは、その者が接触したマシンは走行を取りやめなければならない。

「相当厳しいルールになっていますね。チーム単位でしか行動できなくて、他チームのスタッフとの接触はできないので、僕はレッドブル側だから、アルファタウリの(フランツ・)トストさんやスタッフと会うこともできない。レッドブルもマックス側とアレックス側でチームをふたつに分けて、その間の行き来も極力しないようにするということです。

 移動も制限されていて、火曜にチームのチャーター便でオーストリアに飛んで、その後はサーキットとホテル以外は行ってはならない。レース翌週の月曜から水曜も基本は外出禁止で、オーストリアの2戦目が終わった翌日には、我々は車でブダペストまで向かいます」

 6月24日と25日にはフィルミングデー(※)を利用したシェイクダウンを終え、現場責任者を務める田辺豊治テクニカルディレクターからはかなり力強い言葉を受けたという。

※フィルミングデー=プロモーション撮影用の特別日。スポンサーやチームの企業CM撮影などを行なうための走行であるため、総走行距離に制限があったり、テスト目的の新パーツ搭載は認められていない。

 普段は堅実で大きなことを言わない田辺テクニカルディレクターだけに、強い自信が感じられたという。

「フィルミングのあとに田辺からメールをもらいました。知ってのとおり、田辺って滅多に自信のあるようなことを言わない人間なんですけど、そのメールの内容はよかったですね。田辺にしては力強い良いコメントが記されていたので、それを見てホッとしました。いや、本当に珍しいことですよ(笑)」

 レッドブルの車体も、いい仕上がりを見せているようだ。

 クリスチャン・ホーナー代表からも力強い言葉が聞こえてきていると、山本マネージングディレクターは語る。

「クリスチャンとは相談を受けていた件や現場の近況について、やりとりを週に1、2回やっています。『ヤマモト、楽しみにしてろよ』と意味深なことを言っていました。パワーユニットもアップデートされているように、車体側もアップデートされているでしょうからね」

 レッドブルとホンダの関係は技術面だけでなく、運営面でも非常に良好だ。

 今年からマシンのノーズやリアカウルにあるホンダのロゴは大きくなり、さらにはカウル内のエンジンカバーにまでホンダのロゴが入るようになった。それもホンダが用意したものを「小さすぎる」と、レッドブル側が自ら大きなロゴに貼り替えたというほどだ。

 浅木泰昭パワーユニット開発責任者は、「今年こそが勝負の年であり、もう言い訳をするつもりはない」と明言した。それほど自信のあるパワーユニットが完成しているのだ。シェイクダウンを行なったあとの田辺テクニカルディレクターの言葉にも、それは表われている。

 確実に今年のホンダは違う。それは山本マネージングディレクターもヒシヒシと感じているという。

「僕が一番肌で感じるのは、浅木をはじめHRD Sakuraで開発しているメンバーだったり、HRD UKの現場部隊だったり、みんなの顔つきがいいですよね。みんな口には出さないけど、自分たちが正しいと思ってやってきたことがやり切れているという充実した顔つきになってきています。

 優勝したことで、自分たちの狙ったものがきちんと結果にも表われて、自信につながったのが一番大きかったんだと思います。そうやってみんながいい方向を向いて動き出すと、その波長が重なってチーム力のベースになるんですね」

 ホンダとして、レッドブルとともにタイトルを獲りに行く。

 2020年シーズンに向けた思いを山本マネージングディレクターは語る。

「マクラーレンと組んでいた3年間で、ホンダがF1から離れていた間に失っていた感覚を取り戻す勉強をさせてもらって、2018年にトロロッソ、2019年からはレッドブルを加えて、4台のマシンでフィードバックも増えて開発も加速しました。今年はひとつの大きな節目の年になると思っています。

 バルセロナ合同テストでも毎日が充実していたのは、この5年で初めてのことでした。シーズンのスタートラインに立つ時点で『今年は全戦、いい戦いができそうだ』と感じられたのは初めてのことです。ファンの皆さんの応援に応えられるように、ホンダが一丸となってチャンピオン争いをして、年末には皆さんが笑顔になれるようにレースを戦っていきたいと思います」

 ホンダにとって勝負の年、2020年シーズンがいよいよ始まる。