「オンラインエール授業」でテニス部20人にメッセージ 元プロテニス選手の杉山愛さんが29日、「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」に登場。インターハイが中止となった全国のテ…

「オンラインエール授業」でテニス部20人にメッセージ

 元プロテニス選手の杉山愛さんが29日、「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」に登場。インターハイが中止となった全国のテニス部20人に向けて授業を行い、プロに転向した高校時代の思い出を明かしたほか、現役テニス部員たちにアドバイスとエールを届けた。

 杉山さんが登場した「オンラインエール授業」はインターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。ボクシングの村田諒太、バドミントンの福島由紀と廣田彩花、バレーボールの大山加奈さん、サッカーの仲川輝人、佐々木則夫さんら、現役、OBのアスリートが各部活の生徒たちを対象に授業を行ってきた。

 その第12回の講師として、女子ダブルス世界1位を経験した元名選手が登場した。「とにかく楽しかった、学生時代で一番」と振り返ったのが、高校時代。湘南工科大付(神奈川)に入学した当時について「テニスももちろんだけど、学校の時間が楽しくて。スポーツが強い学校だったので、みんな頑張っている姿が刺激になりました」と思い返した。

「その関係は今もつながっているし、高校時代の友達が一番、仲がいい。よく食べてよく寝て、少ない時間で友達と遊びに行った。楽しかったという印象しかないです」。学生生活の充実に比例するように、テニスの成績も伸びて行った。1年夏のインターハイでシングルス優勝を飾った一方、国内外の大会で実績を積み、2年生の10月に17歳3か月でプロに転向した。

「中学は勉強も厳しい学校だったので、高校はスポーツをしっかりとやれる学校を選んだ。入った時は(在学中の)プロは全然イメージしていなかったけど、1年生の時にインターハイで優勝させてもらい、想像以上に力が伸びた。いろんな大会で結果を残すことができて、これなら『プロでやっていけるんじゃないか』と思い、テニス中心にやっていこうと思ったんです」

 充実していた高校生活。「残念だったのは、プロになると試合も公欠扱いじゃなくなり、友達と別れて通信制の高校に編入するしかなかった」と語った一方で「素晴らしい仲間と、ここ(湘南工科大付)にいたいという気持ちはあったけど、17歳は世界を見渡すとプロで活躍している選手もいた。プロ転向も早いわけじゃない。正しい選択だったと思う」と決断を振り返った。

 3年間で一変したテニス人生。一気に成長できる期間だからこそ、今の高校生たちの伸びしろに期待している。

「高校生の吸収力は、大人になった今の私の吸収力とは全然違う。だから、みんなの可能性はすごく大きい。乾いたスポンジのように、吸収したいという自発的な思いは何にも代えられない。アンテナを張り、答えを求めれば、必ずチャンスはある。それを自分なりに取捨選択し、取り入れることが大事になる。合致すれば一気に可能性が広がり、力がつけられる時期だと思います」

 その上で「今は自粛で我慢させられる状況あったから。跳ね返す力はみんな強いと思う。ここからです」と背中を押した。

怪我が少なかった杉山さん、予防に大切なことは「体との会話」

 自身の体験を披露し、優しく語りかけた杉山さん。オンライン上で積極的に呼びかけ、高校生とコミュニケーションも図った。

「私の学校は、部活も勉強も頑張ろうと掲げてやっている。でも、全部をやろうと思っても苦手なことを後回しにしてしまって、なかなかことがある。お仕事と主婦業を両立している杉山さんの最後まで頑張る源は何ですか?」という質問には「プライオリティー(優先順位)付け」の大切さを説いた。

「バランスも大事だけど、『今はこれを頑張ろう』というプライオリティー付けもすごく大事。高校を選んだ時も『勉強が大変な中学だったけど、高校はもっとテニスができる環境を整えよう』と決めてたけど、プロを選んだ時も『勉強はいつでもできる、テニスは今しかできない』とその時は思ったから。だから、その時その時のプライオリティー付けはいつの時代も大事。これは学生の時だけじゃなく、きっと社会人に出てからも大切になってくると思います」

 さらに、試合に向かうメンタルの作り方の話が及んだ。「試合中や試合前に緊張してしまい、体が上手く動かないことある」という悩みには「私も何度、緊張にやられたか」と共感。様々な本を読んで対策を研究し、自身に一番合っていたのは「呼吸法」と「イメージ」。実践したのは「100歳だからこそ、伝えたいこと」(塩谷信男著)で紹介していた「正心調息法」という呼吸法だ。

「簡単にいうと、丹田を意識しながら腹式呼吸をして、深い呼吸ができたところに自分がしたいリアルなプレーをイメージしていくというもの。それをやってみたら、すごく自分に合っていた。みんなにもそれぞれ合う方法があるから、それを見つけてほしい。私は相手よりも自分の緊張に勝てず、力を出せなかった苦い経験がたくさんある。特に、センターコートのようなお客さんがたくさん入る会場が苦手で……。でも、自分に合った方法を見つけたことで、緊張に打ち勝つことができたと思います」

「現役時代、あまり怪我をしなかった」という杉山さんに「私たちもできるだけ故障しないようにアップ、ダウンも気を付けているけど、チームには故障する人もいます。練習のアップとダウンで気を付けていたことは何ですか?」との質問も挙がった。まずはウォーミングアップにおけるストレッチの必要性を説いた上で、杉山さんは「体との会話の重要性」を伝えた。

「毎日のルーティンなので、例えば『昨日より体に硬さがあるな』『ここ、疲れているな』と体の声を聞いてあげることもアップには必要。なんとなく動かして、汗をかいて、伸ばして……だけじゃなく『どこか疲れてない?』と自分の体に声をかけてあげるように、会話しながらストレッチすること。あとはプロの世界でも大事だけど、どれだけリミットのギリギリまで追い込めるか。追い込むことは必要だけど、これ以上やったら怪我をするラインを知ること。この見極めも自分の体との会話から生まれます」

 そして、参加者が目を丸くしたのは、杉山さんの現役時代のルーティンが明かされた時。こんな質問が飛んだ場面だった。

「私はルーティンを1日23個、試合がある日は33個作りました」

「最近、家でトレーニングをやる機会が増えるけど、設定の厳しい体幹トレーニングを最後のギリギリのところで頑張り切れない。それが試合にも通じていて、最後の大事な1点で勝ち切れなかったり、粘り切れなかったりすることが多い。杉山さんはそういう場面でマインドコントロールをしていますか?」

 頷きながら聞いていた杉山さんは参加者の思いを受け止め、自身の価値観を明かした。

「練習のギリギリのところを試合の最後の1ポイントに紐づけて考えられるなら、逆に練習でやり切ったら試合で『よし、あれだけトレーニングを頑張ったんだから最後、絶対できる』という“自信の貯金”が積み重なっていく気がする。『あと5秒、苦しいところをやり切ったぞ』となれたら、自分の殻を破るきっかけになるんじゃないかと思います。人間誰しも『もういっか』と負けてしまう。私はルーティンを1日23個、試合がある日は33個作りました。

 それは体と心の声を聞きながら、体と心を整えるもの。呼吸法から始まり、ジムに行ってからのトレーニングの流れとか、この順番でやっていくと体が動きやすいというものを見つけていった。だから『このルーティンはいいな』と知りながらやらないのは相手に負ける前に自分の前に負けている。だから、毎日のルーティンをこなしていくと“自信の貯金”になった。『毎日、あれだけ考えて生活しているから、こんなところで絶対負けるわけない』って」

 驚きのルーティンの個数を明かした杉山さん。「もちろん、みんながそれだけやる時間はないと思うけど、毎日5個でもあると自分の体の状態を知るバロメーターになる。みんな、それぞれに正解があるので、探して取り入れてみて」とアドバイスした。

 この夏の目標を失った高校生たちと過ごした1時間。インターハイが中止になったことについては「こういう風に機会が奪われるのは私も経験がない。みんながどれだけつらいかは想像を絶するものがある」と思いを寄せ、最後にエールを贈った。

「本当に皆さんの質問のレベルの高さに正直びっくりした。こんなにしっかり向き合えているのであれば、みんなの将来は明るいと逆に私が元気をもらった。この大変な時期を過ごして、つらいこともあると思うけど、今だからこそできること、しっかりと自分と向き合い、考えていく時間になると思う。またみんなとこういう機会で時間を一緒に過ごしたいです」

 段階的に学校、部活も再開されている。新たな目標に向かう中で、杉山さんの言葉が温かく、オンライン上に響いた。

■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。今後は体操・塚原直也さん、陸上・寺田明日香、バドミントン・小椋久美子さん、卓球・水谷隼らも登場する。授業は「インハイ.tv」で全国生配信され、誰でも視聴できる。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)