「オンラインエール授業」に元ラグビー日本代表メンタルコーチの荒木氏が登壇 「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」の第8回が24日に行われ、スポーツ心理学者の園田学園女子大教…

「オンラインエール授業」に元ラグビー日本代表メンタルコーチの荒木氏が登壇

 「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」の第8回が24日に行われ、スポーツ心理学者の園田学園女子大教授・荒木香織氏が登場。インターハイが中止となり、部活動も制限されるという状況に直面した全国の指導者に向け、コロナ禍における指導者のあり方をアドバイスした。

 「オンラインエール授業」はインターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。ボクシングの村田諒太、サッカーの川口能活さん、バドミントンの福島由紀と廣田彩花ら、現役、OBのアスリートが各部活の生徒たちを対象に行ったが、今回はサッカーの佐々木則夫さんに続き、2度目となる指導者向けの授業となった。

 自身も陸上の短距離選手として京都府大会を制すなど、3年連続でインターハイに出場した経験を持つ荒木氏。「高校時代、京都では負けたことなくても全国に行くと、上手く走れないことが多かった。当時は『メンタル』という言葉はなかったけど、『心』『気持ち』ということを指導者から常に指摘され、気になっていた」とスポーツの心理面に関心を持っていたという。

 その後、米国に留学した際、スポーツ心理学のジャンルと出会い、研究の道を志した。2015年にラグビーワールドカップ(W杯)で南アフリカから大金星を挙げた「ブライトンの奇跡」を演じた日本代表のメンタルコーチを務めるなど、スポーツの第一線で活躍。現在は新型コロナウイルス感染拡大により、影響を受けている多くの指導者、選手と向き合っている。

 授業では、まずインターハイが中止となり、予期せぬことが起こる中で、部活指導者が大切にしてほしいポイントを2つ挙げた。

 1つ目は保護者とのコミュニケーション。

「生徒に意識が向きがちですが、少し大きな物事の見方をすると、指導者は家庭の事情も理解しているので、保護者とコミュニケーションを取りながら、生徒の現状を理解していくことが、とても重要になると思います。その中で、学校がどのような方針で(部活動を)進めて行こうと思っているかを伝えてあげること。保護者は進路のこともあり、分かっている範囲のことをできるだけ詳しく伝えることで安心し、協力してくれます。『何かが決まってからでいいだろう』と思われる方もいるかもしれませんが、なるべくこまめに伝えてあげることで、保護者も安心してもらいやすいと思います」

 2つ目は雰囲気作り。 

「サッカーであっても、陸上であっても、子供たちが(競技を)続けたい、取り組みたいと思える雰囲気作りをしていくと、子供たちが楽しめる。もちろん、インターハイがなくなり、新型コロナウイルスの状況もある中、調整しなければいけないことは多いですが、指導者が前向きな雰囲気を作ることで、子供たちは日々を過ごしていけます。加えて、保護者に『可哀想だ。チャンスを取り上げられ、どうしたらいいのか』という方もいますが、大人がそういう風(悲観的)になってしまうと、子供たちは『自分たちは可哀想なんだ』と思ってしまうので、特に雰囲気作りは意識してほしいです」

コロナ禍の部活指導者へ「生徒が好きなはずのスポーツを楽しめる環境を作って」

 続いて質問コーナーでは現役の指導者から積極的に質問が飛んだ。

 12人の部員がいるものの、実力差が大きく、それぞれの目標も異なるという陸上部の教員からはこんな切実な悩みが上がった。

「生徒に『続ける力』が低い学校で、全体で3年生までに50%くらいは部活を辞めてしまう。6月から学校が始まったが、アンケートを取ると『部活を辞めたい』『学校に行きたくない』という悩みを抱えている生徒が多くいる。部活が来週から始まるが、部員のモチベーションが低い場合、どういう声かけをしていくべきか」

 これに対し、荒木氏はコミュニケーション機会の設定を助言した。

「新型コロナウイルスの影響は大人も子供も受けている。『辞めたい』という理由が休みの間に何か自分がやりたいことが見つかったという前向きな理由だったら気にする必要はないと思います。なので、まずは理由を聞く必要はあります。その中で『なんだか分からないけど、やる気がない』という無気力感を持つ子もいます。それは経験したことのない状況で、ずっとテレビをつけている家庭なら、この数か月はコロナばかり情報が入ってきた。部活どころか、生きていく気力を持てない子もいます。

 なので、この期間をどう過ごしてきたかを聞いてあげることが大切だと思います。例えば、練習状況はどうだったのか。家で練習している子もいれば、していない子もいる。どんな風に過ごしてきたのか。先生が話を聞いてあげるだけで、気持ちが楽になる子も出てくると思います。12人であれば、1人15分程度の面談はできると思うので、あまり辞める、辞めないという雰囲気ではなく、部活再開に向け『来週からできそう?』『どんな練習したい?』などと聞いてあげる機会を持ってほしいと思います」

 対話の重要性を説いた荒木氏は、他にもコロナによる影響に限らず、「生徒が試合になると、能力の6割くらいしか出せない」「自己表現が苦手な子供が多く、チャレンジに対して消極的」「大会で緊張してしまう選手にはどんな声かけをすべきか」などの一般的な指導にまつわる質問、悩みにまで一つ一つに向き合いながらアドバイス。濃密な1時間の授業はあっという間に過ぎた。

 授業を終えた荒木氏は、コロナによる影響を受けている全国の指導者へ向け、「今、練習や試合ができなくなった中で、部活を通じてどんなことが養えるのか、どんなことが先生と部員でできるのかを明確にしてあげることは大切です」と説いた。「試合を目標にするのは難しくない。試合がなくても『何月までにこれを目標に部活をやっていきましょう』『部活をやっているからこそできる経験があるよ』と伝えてあげること。好きなはずのスポーツを楽しめる環境を作ってあげてほしい」とエールを送った。

■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。今後はハンドボール・宮崎大輔、元テニス・杉山愛さん、元バレーボール・山本隆弘さん、元体操・塚原直也さんらも登場する。授業は「インハイ.tv」で全国生配信され、誰でも視聴できる。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)