サッカーダイジェストは、現在「DAZN」で配信中の1995年のJ1セカンドステージ第1節、名古屋グランパス対ジュビロ磐田で解説を務めた中西哲生氏に、インタビューを実施した。

 現役時代はMFとして名古屋と川崎フロンターレでプレーし、現在はスポーツジャーナリストとして活躍する傍ら、マジョルカで活躍中の久保建英やレアル・マドリーの下部組織で研鑽を積む“ピピ”こと中井卓大のパーソナルコーチを務める中西氏に、久保との出会いや現状について話を伺った。

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――久保選手との出会いは?

「彼が小学5年生の時です。僕が長友佑都選手(現ガラタサライ)と永里優季選手(現シカゴ・レッドスターズ)のパーソナルコーチをやらせて頂いていて、それを耳にした建英のお父さんが『一度参加させてもらえませんか』とお話を頂きました。当時はバルセロナでプレーしていたので、日本に帰ってきたタイミングで『トレーニングをやってみたい』と。結果、その時からずっと今もパーソナルトレーニングをやらせて頂いています」

――初めてプレーを見た時の印象は?

「非常に技術が高く、とくに左足に関しては素晴らしいと感じました」

――ラ・リーガ1年目のここまでをどう見ていますか?

「なかなか難しい状況ですが、色々な問題を一つずつ丁寧にクリアしてきた印象です。本当にクレバーな選手で、自分がいま何をしなきゃいけないかを常に考えながら練習しているし、試合でもそこを意識してプレーしてるという印象です」

――難しい状況というのは、具体的にどういう点ですか?

「例えば、自分が欲しいタイミングでボールが出てこないケースが多い。そうなると難しい状況の中でのプレーを強いられることになります。そういった状況でボールを受けたとしても、ネガティブなプレーにならない判断の選択をできていると感じます。」

――ここまでは、3ゴール・3アシスト(1PK奪取を含む)です。

「これも『難しい状況』に含まれるんですが、もう少し周りが決めてくれていたら、もっとアシストも増えていたし、『このタイミングで出してくれれば、ゴールできたかもしれない』というシーンも少なくなかったと感じます。3得点・3アシストという数字は、もっと増えていたかもしれないという印象です」


――パーソナルコーチとして、スペインにいる時もアドバイスを送っている?

「毎試合終わる度に、試合後すぐに彼のプレーシーンの動画を送っています。その日の試合で起こったことに対しての振り返りや、その日のプレーを自分で客観視するためのヒント、彼が試合後に思考する上での助けになればと思っています。シーズン序盤に比べると、個人的な印象としては、今は自分がやるべきことにフォーカスできている。そういう流れの中で、(中断前に)ベティスとエイバルから取った2ゴールは非常に大きかった」


――その2ゴールの印象は?

「両方とも右足で、しかも股抜きだったので、多分スペインの人たちはびっくりしたんじゃないですか。今までの試合でそれをあまり見せる場面がなかっただけで、右足の練習は子供の頃からひたすらやってきていたので、今回それをしっかりと見せてくれて嬉しかったですね。」

――偶然ではなく必然のゴールだったわけですね。

「はい。これは(名古屋時代に師事したアーセン・)ヴェンゲルに感謝しなきゃいけないんですけども、アーセナルのトレーニングを見させてもらった時に、当時のエースだった(ティエリ・)アンリが故障明けで、別メニューだったので、居残りのシュート練習を一緒にやらせてもらったんです。

 アンリといえば、右足でインに巻くシュートですよね。ただ右足の怪我もあって、ウォーミングアップで左足だけでリフティングをしていて、自分の頭より上に蹴り上げても全く落とさないし、さらにインサイドやアウトサイドを使ったりしていて、度肝を抜かれました。股関節の動きが良くなると言って、(名古屋時代のチームメイトだったドラガン・)ストイコビッチもよくやってたんですけど。いざ、シュート練習が始まると、アンリは左足でも右と全く同じようにインカーブで蹴って、ほぼミスなく決めるんですよ」

――“逆足”の重要性を感じたわけですね。

「はい。結局、アンリは右足だけ練習していた訳ではなかったんです。左足でも蹴れるから、右足であれほどのプレーができる、ということを自分の目で確認できた。だから建英にも右足の精度が上がらないと、左足も上がらない、とにかく右足が重要だとずっと言い続けてきた。左に行くだけじゃなく、右にも行けなきゃダメだと。

 だから、あの2ゴールの時は、シュートを打つ直前に『これは決まる』と第六感が働きました。彼のプレーをもう7年見ているので、『あ、これ入るパターンだ』ってシュートを打つ直前に分かるんです。ただ実際に決まった瞬間は、鳥肌が立ちましたけどね」


――パーソナルコーチとしては感慨深いですね。

「昔やっていた練習がフラッシュバックしたりもします。ああやって練習していたことが
ラ・リーガでこうなるんだ、みたいな。右足のキックは、左足をいつか助けてくれると思ってずっと練習してきたんですが、早くもそれが活きた。それを気づかせてくれたのはアンリ。トップ・オブ・トップがどうトレーニングしてるかなんて、普通に生きてきたら分からないじゃないですか。あの時のアーセナルは、(ロベール・)ピレスや(デニス・)ベルカンプもいて、いちばん強い時だった。ヴェンゲルのおかげで、トップレーヤーの練習を間近で見たり、彼らが話していることを聞いたりできたことが、建英への指導にも生きているんです。

 僕は中村俊輔選手(現・横浜FC)にも映像を提供していたので、ヴェンゲルに指導を受けたことやストイコビッチとプレーしたことが、俊輔に繋がり、それがまた建英やピピに受け継がれている。自分がこれまで培ってきたことを通して、トップレーヤーがここは絶対に重要だと考えていることを、建英やピピに僕なりの方法で伝えていきたい、という思いが強いですね」

――目標であるマドリーのトップチーム昇格については?

「(トップに上がることが)目標ではないです。目標はマドリーに戻って活躍すること。いつもそういう捉え方をしていて、バルサやマドリーに行くのが目的じゃなくて、そこで活躍して、バロンドールを獲るという所まで意識を持って建英はやっているだろうし、持っていなきゃいけない。(マドリーに)戻ることよりも、戻って結果出すことが大事ですし、いつもそういう考え方でここまでずっとやってきてました。まだまだ先は長いし、やるべきことはたくさんある。とはいえ、1年目としては素晴らしい滑り出しをしているし、最高の経験を積んでいると僕は感じます」

取材・文●江國 森(サッカーダイジェストWeb編集部)
協力●DAZN