ヨーロッパでプレーする日本人選手のなかで、いま最も勢いがある存在かもしれない。鎌田大地(フランクフルト)のことだ。 6月17日に行なわれたブンデスリーガ第32節フランクフルト対シャルケ。それは鮮やかな先制点だった。 前半29分。フラン…

 ヨーロッパでプレーする日本人選手のなかで、いま最も勢いがある存在かもしれない。鎌田大地(フランクフルト)のことだ。

 6月17日に行なわれたブンデスリーガ第32節フランクフルト対シャルケ。それは鮮やかな先制点だった。

 前半29分。フランクフルトは左のタッチライン際でフィリップ・コスティッチが相手ボールを奪うと、前線のタイミングを測り、縦に速いボールを送る。フルスピードで抜け出した鎌田大地が、左足ワンタッチでラストパスを入れると、走り込んだアンドレ・シウバがディフェンダーをかわして右足のシュートをゴール左隅に決めた。



シャルケ戦にフル出場。先制点をアシストして勝利に貢献した鎌田大地(フランクフルト)

 試合は後半に互いが1点ずつを加え、2-1でフランクフルトがシャルケを下した。鎌田、長谷部誠ともにフル出場している。

 今季、中断前までのフランクフルトはホームでの試合を得意としており、6勝3分3敗だった。ところが再開後はどういうわけかホームで勝てず、これが再開後の初勝利となった。フランクフルトは前節、アウェーのヘルタ・ベルリン戦に勝利したことで、1部残留を決めており、プレッシャーから解放されたこととも関係あるかもしれない。

 試合後、アディ・ヒュッター監督は、この先制点にご満悦だった。

「フィリップが自陣でいい仕事をした。ツヴァイカンプフ(1対1)で勝ち、大地にすばらしい縦パスを送った。これは、試合前に私たちが意図していた形だ。そして大地のクロスをアンドレが直接決めた。すばらしいゴールだった」

 狙いどおりの形だったというわけだ。
 再開後のリーグ戦8試合に鎌田はすべて先発。この日のアシストを含めて2得点3アシストと好調だ。前節ヘルタ戦では3人抜きのアシストを見せた。この時の鎌田を、ヒュッター監督は

「まるでスラロームのようだ」と、滑らかに相手をかわす様子をスキーの動きにたとえて褒めちぎった。

 また、66分から途中出場したドイツ杯バイエルン戦でも、投入から3分後、ゴール前で相手に囲まれながら巧みにキープし、シュート。このシュートは相手にあたり決まらなかったが、そのこぼれ球をダニー・ダ・コスタが決め、スコアを一時は1-1としている(結果は2-1でバイエルンが勝利)。

 存在感は日に日に大きくなっており、『ビルト』紙などでは、現状結んでいる2021年以降の契約について取りざたされるようになった。契約の話が早くから出てくるようになったら、それはクラブから必要とされていることの証だ。

 得点に絡む回数が格段に増えた理由のひとつは、チームメイトとの呼吸が合うようになっていることが大きい。

 以前の鎌田は、「コスティッチしか使わない」「コスティッチしか見ていない」などと堂々と言っていた。トップ下でプレーする際は、左で献身的に動くコスティッチに全幅の信頼を寄せるあまり、コンビネーションは限られていた。

 それが今ではダ・コスタやシウバといった前線の味方とも息の合ったプレーを見せている。コミュニケーションも問題なさそうで、それは中断前と大きく違う点だ。

 また、本来持っている視野の広さ、技術力の高さが存分に生かされるシーンが増えた。指揮官がスラロームにたとえたヘルタ戦のプレーは、さながらメッシ並みの技術力を見せつけた。バイエルン戦でのシュートやシャルケ戦でのアシストも、抜群の状況把握があってこそのものだった。

 もしかしたら観客がいないことで、相手との駆け引きの間合いが変わり、1対1の激しさが減っていることで、鎌田がより落ち着いてプレーできているという可能性もある。だが仮にそうだとしても、鎌田が視野の広さや技術で相手よりも一枚上手だからこそ、結果に結びついているのは確かだろう。

 無観客試合への違和感、寂しさを早くから口にしていたのは鎌田だった。

 フランクフルトは、コロナ禍による中断よりひと足早く、2月のウニオン・ベルリン戦で、ゴール裏のサポーターたちから応援をボイコットされている。サポーターは月曜日の試合開催に反対し、応援拒否の挙に出たのだ。

 フランクフルトのゴール裏以外の客席は埋まっているという不思議な状況での試合だったが、鎌田は「フワフワしていて(選手の)様子が違った」「ホームで勝てるのはファンの声援あってこそだとあらためて思った」と、実感を込めて話していた。

 中断明けのリーグ戦で”覚醒中”の鎌田は、満員になったスタジアムでのプレーを誰よりも渇望しているに違いない。