専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第260回 緊急事態宣言が出されている最中、黒川弘務元検事長が賭け麻雀に興じていたことが週刊誌で報道され、国政を揺るがす大問題に発展した『賭け麻雀問題』。挙句、黒川さんは「懲戒…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第260回

 緊急事態宣言が出されている最中、黒川弘務元検事長が賭け麻雀に興じていたことが週刊誌で報道され、国政を揺るがす大問題に発展した『賭け麻雀問題』。挙句、黒川さんは「懲戒」ではなく、「訓告」で済んだことから、ひょっとして賭け麻雀は合法になったのか? とネット上では大騒ぎとなりました。

 今回は、そんな賭け事について考察し、ゴルフはどうなんだ? というところまでの話をしたいと思います。

 新聞記者の方々と黒川さんが興じていた賭け麻雀は、1000点が100円という「テンピンレート」で行なわれ、月1、2回の頻度で1万円から2万円程度のやり取りがあったとのこと。その金額が決して高額とは言えないということで、賭博罪で罰せられるようなこともなく、処分も「訓告」にとどまったと言われています。

 実際、賭博法の例外条項には、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる場合は、この限りではない」という文言が付加されていて、賭けた物が「一時の娯楽に供する物」程度であれば、賭博罪で処罰されないとなっています。

「一時の娯楽に供する物」とは、お菓子やジュース、食事(あるいは、その代金)などとされています。場を盛り上げるスパイスとして、その程度の賭け事、庶民のささやかな楽しみに対しては、賭博罪は適用しない、ということですね。

 ただし、お金はそれに相当しないとされています。金額の大小に関わらず、今回の黒川さんの場合でも、もし立件されるようなことになれば、賭博罪として成立される可能性が高いそうです。

 まあでも、そもそも賭博罪は、現行犯逮捕が基本。ガサ入れをされない限り、おおよそ捕まらないことになっています。

 あと、賭博罪に関しては、取り締まる側の裁量によるところが大きいと言われています。金額が小さかったり、社会的な影響が少なかったりしたら、事件として立件しなかったり、起訴しなかったり、ということは多々あるそうです。

 ゆえに、こうした裁量が伴う案件は、時代の流れで、いかようにも解釈されます。過去には、「リャンピンレート(テンピンの倍。1000点が200円)」で賭け麻雀をしていた漫画家の蛭子能収さんが逮捕されていますからね。

 その時は警察に完全に狙い打ちされて、雀荘にガサ入れが入ったとか。レートが高く、しかも現行犯だったため、逮捕されてしまいました。

 略式裁判で罰金を払って、釈放されたようですが、雀荘に警察が踏み込むのは、なんか大人気ないような気がします。麻薬取引とか、そういう現場にもっと踏み込んだほうが、日本の治安維持のためになると思うのですが……。

 もともと蛭子さんの場合、「今日は5000ポイント勝った」など、雑誌で麻雀交遊録を書いていて、それを見た検察が「けしからん! これは、見せしめに逮捕する」となったとも言われています。

 話を戻しますが、今回の黒川さんの処分を受けて、「テンピンレート」までの麻雀なら、賭博法の例外条項に当てはまる――そう解釈していい、と思った人が多いようです。

 それで早速、検察庁前では「テンピンレート」で『黒川杯』なる麻雀大会を開催する方々がおられました。当初は路上でやろうとしていましたが、それはさすがにダメで、日比谷公園に移動してやっておりました。

 途中、公園の管理者から注意され、辞めざるを得ませんでしたが、大勢の警察官が注視するなか、麻雀の参加者からはひとりも逮捕者は出ず、うやむやのまま幕切りになったようです。

 同麻雀大会の主催者は、黒川さんが立件されないことへの抗議というか、何もしない検察を皮肉っての大会開催だったみたいですが、あらためて「テンピンレート」での麻雀であれば、「処罰されない」と思った人は多いのではないでしょうか。

 というわけで、麻雀では賭博罪で処分されないレートが勝手に決まった感があります。それを受けて、ゴルフの場合はどうなのか。堂々と1万円程度のニギリをやってもいいのでは? なんて思っておりました。

 ところが、現実はまったく逆の方向に向かっていました。というのも、最近の若い世代は、ゴルフでの賭け事をほとんどやらないのです。

 さらにオヤジ世代も、リーマンショック、東日本大震災、コロナショックと、つらいことが続いて、賭け事どころではなくなっています。



実際、コロナ禍にあっては、ラウンドできるだけで十分に楽しいと思いますけどね。illustration by Hattori Motonobu

 15年前ぐらいは「ハーフナッソー」という、ハーフ9ホール、ハーフ9ホール、トータル18ホールの、それぞれのスコアで勝負をして、勝ったほうが上限3000円ぐらいもらえる賭け事が流行っていました。

 実際は、勝った、負けたで”行って来い”といった感じですから、だいたい1000円ぐらいのお金しか動きません。「一時の娯楽に供する物」としてはちょうどいい案配で、多くの人がやっていました。

 個人的には、自分からニギりを提案することはありません。同伴プレーヤーに誘われて、付き合いでやることが、たまにあったくらいです。それも、トータルで動くお金は1000円程度。すべて、昼飯や、プレー終了後にコンビニで買うおやつに変わるわけですから、まさに「一時の娯楽に供する物」に適していたと思います。

 今となっては、ゴルフをできることが幸せであり、賭け事をする余裕なんてないです。

 ともあれ、ゴルフが賭け事になるのか、個人的には甚だ疑問に思っています。ゴルフの場合、自分の技量でスコアを競い、そのスコアの差でお金をやり取りするわけですからね。

 賭けというのは「偶然性」があるから、賭けなのです。賭ける側が、何らかの作為を加えてはいけないのです。

 だから、ゴルフの同伴プレーヤー同士のスコア競争が、「賭け」と言われるのは、ちょっと納得がいきません。

 そのスコア競争を「賭け」と言うなら、優勝者が一番お金をもらえるプロのトーナメントは、壮大な博打になるわけじゃないですか。それこそ、スキンズマッチ(※)なんか、現行犯逮捕モノですよ。
※トッププロたちがスポンサー提供の賞金や賞品などを取り合うエキシビションマッチ。

 結局のところ、賭け事に関しては、国家の都合のいいように振り回されているのが現状です。俗に言う公営ギャンブルは、賭博法の対象外ですから。競馬やボートレース、競輪、オートレースなどは、立派な賭博とも言えるはずなのに”セーフ”です。

 あれって、胴元は”国家(地方自治体や公益法人)”ですからね。そのうえ、胴元(国家)、いわゆる運営する側が自分たちの分け前をまず取って、余ったお金を勝った人に分配しているだけ。胴元は、すごく儲かるんですな。ゆえに、カジノも特別立法で国にお金が入るようにして、ボロ儲けしたいのです。

 じゃあ、麻雀やゴルフでお金を賭けると、なぜ賭博罪となるのか?

 それは、儲ける相手が胴元じゃないので、ビジネスモデルとして成り立たないからです。その腹いせで、賭博罪適用案件になっているのかもしれません……って、あくまで憶測ですがね。

 じゃあ、公営の賭け雀荘や賭けゴルフ場を作れば、丸く収まる……って、そういうことはあり得ないでしょう。

 ギャンブルというビジネスは、賭けたお金に対する還元率の商売です。そこに胴元がいれば、そこから税金なり何なりで国家も潤いますが、胴元が存在せずに当事者同士でやられては、国家が介入する隙がない。どうやって、お金を徴収していいのか、途方に暮れるのです。だから、罰を与えるんでしょうね。

 ともあれ、ゴルフは賭けなくても、楽しいですよ。新緑のコースに出て、森林浴をするだけで、すごく気持ちがいいですから。スコアなんか気にせず、18ホール回れば、それだけで気分爽快です。

 今後、ゴルフはスキーのようになっていくんじゃないですか。スキーはタイムなどを気にせず、コースを滑って降りてくるだけ。それだけで楽しいんですから。

 ゴルフも、いつしかスコアも気にしなくなって、ラウンドするだけで「楽しい!」って、なるのかも。そっちの方向にいけば、女性客も増えて、よりレジャー化すると思います。

 ゴルフには、そもそもスコアを競うコンペというものがありますからね。ですから、日頃は仲間内で昼食や売店のお茶ぐらい賭けて遊べば十分です。それはそれで楽しいし、負ければ、結構悔しいです。ゴルフとはそういうものです。