新型コロナウイルスの感染拡大を懸念したスペイン政府が、3月14日に非常事態宣言を発令したことにより、各クラブが活動停止を余儀なくされた。クラブや選手、もちろんファンも、当初は真っ暗なトンネルの中にいるような、先の見えない状況がつづいた。コ…

 新型コロナウイルスの感染拡大を懸念したスペイン政府が、3月14日に非常事態宣言を発令したことにより、各クラブが活動停止を余儀なくされた。クラブや選手、もちろんファンも、当初は真っ暗なトンネルの中にいるような、先の見えない状況がつづいた。



コロナ禍で苦しい経営のバルセロナは、メッシの高額年俸が財政を圧迫

 シーズン中止という最悪のシナリオも視野に入れた各クラブは、大幅な収入減を想定した措置を講じ始めた。

 ほぼすべてのクラブが、「選手の給与をカットする」「国の補償制度ERTE(エルテ:一時雇用調整)に頼る」かどうかの決断に迫られた。

 各クラブの対応は大きく3つに分かれた。1つ目は「選手の給与カット」も「ERTE利用」も実行、2つ目は「選手の給与カット」のみ実施、3つ目は「何も行なわない」。

「ERTE」とは、今回のような非常時に経営が厳しくなった企業などに対し、スペイン政府が雇用契約の一時停止、もしくは労働日の削減を認め、失業手当として給与の70%を支払う補償制度である。

 プリメーラ(1部)のクラブで、1つ目の措置を選択したのは、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、セビージャ、バレンシア、エスパニョール、アラベス、オサスナ、グラナダの8クラブ。

 なかでも、バルセロナの動きは際立った。昨季の総収入が8億3600万ユーロ(約1003億2000万円)であるのに対し、人件費総額が5億4100万ユーロ(約649億2000万円)と、その割合は65%。これはECA(欧州クラブ協会)が、クラブの健全経営のために超えてはいけない目安として示している70%に近い数値であり、人件費がクラブの財源を大いに苦しめている。

 また、トップチームの給与総額4億2700万ユーロ(約512億4000万円)のうち、リオネル・メッシがその4分の1に近い、チームトップの年俸1億ユーロ(約120億円)を受け取っている。

 高額な人件費の支払いが困難となったバルサは、選手たちと話し合い、「非常事態宣言がつづく期間に限り給与70%カット」で合意。また、クラブ職員540名に対してERTEを申請した。バルサは選手の給与カットと国の援助を利用することで、クラブ職員に給与全額払いを保証したのである。

 2つ目の「選手の給与カットだけを実施し、ERTEは申請しない」措置をとったのは、レアル・マドリード、久保建英所属のマジョルカ、乾貴士所属のエイバル、アスレティック・ビルバオ、ベティス、セルタ、レガネス、レバンテ、レアル・ソシエダ、バジャドリード、ビジャレアルの11クラブ。

 レアルの昨季の総収入は7億5700万ユーロ(約908億4000万円)。これに対し人件費総額は3億9400万ユーロ(約472億8000万円)、その割合は52%とバルサよりも低い。

 そしてトップチーム選手の給与総額は2億8300万ユーロ(約339億6000万円)で、給与トップはセルヒオ・ラモスとガレス・ベイルで、年俸2900万ユーロ(約34億8000万円)だ。これはメッシの3分の1にも満たず、バルサに比べ人件費を抑えている。実際、レアルが18年にクリスティアーノ・ロナウドを放出した理由の一つは、高額な年俸を要求されたことだった。

 ただ、バルサより安いとはいえ、高額であることに変わりない。そのためクラブは、選手たちと給与カットについて合意。シーズンが再開した場合は年俸10%カット、中止になった場合は年俸20%カットとなった。バルサが緊急事態宣言期間中だけの減額なのに対し、レアルは年俸から減額している。

 こうしたなか、レアルのトニ・クロースは、「給与カットは価値のない寄付、もしくはクラブに寄付するようなものだ」との見解を示した。クラブに強制的に給与カットされるのではなく、各自が自分の意思で行動すべきで、給与削減はクラブの財源強化になる一方、「弱い人々の助けにはならない」と主張した。

 日本人選手所属クラブでは、久保のマジョルカは、リーグ戦が再開されない場合は年俸15%カット、再開された場合は給与カットなしで選手たちと合意。乾のエイバルはリーグ戦が再開されない場合は年俸15%カット、再開された場合は2%カットという条件で選手と合意している。

 ビッグクラブがとった2つの措置に対し、3つ目の「選手の給与カットもERTEも実施しない」措置をとったのは、プリメーラで唯一、ヘタフェだけだった。

 年間予算がそこまで高くないヘタフェは、近年、健全経営で成功を収めているクラブだ。柴崎岳が所属した昨季は、リーガをチャンピオンズリーグ出場一歩手前の5位で終え、今季もここまで5位。ヨーロッパリーグではラウンド16に駒を進めている。

 ヘタフェのアンヘル・トーレス会長は、「私はERTEを行なったクラブが選手を獲得できないことを願う。ERTEを申請したクラブが、2000万ユーロ(約24億円)を払ってヘタフェから選手を奪うのはナンセンスだ」と苦言を呈している。平時には高額な給料や移籍金を払いながら、このような事態に陥ったら真っ先に国に援助申請をするクラブが、移籍市場で有利になるのは認められないと強調した。

 さらに会長は、今季残りのリーガが無観客開催となるため、シーズンチケット会員13,500名に対し、自分のポケットマネーで来季の料金を無料にすると宣言し、大きな話題を呼んだ。

 バルサとレアルは今季、新型コロナウイルスの影響による損失額が世界で最も大きいクラブと言われている。ドイツ銀行のデータによると、バルサは1億2000万ユーロ〜2億6000万ユーロ(約144億円〜312億円)、レアルは1億ユーロ〜2億3000万ユーロ(約120億円〜276億円)の損失が見積もられている。そのため、両クラブとも今夏は高額選手の放出が必須と見られる。

 また今夏の移籍市場は、全クラブが財政難に陥っているため高額移籍はほとんどなく、その多くはトレードになると推測される。

 ラ・リーガは来季開幕を9月と考えているが、最初はスタジアム収容人数の30%入場を許可し、11月に50%、2021年1月に100%と段階的に戻すことを計画している。これは、全クラブが来季前半も入場料収入の多くを失い、財政難がつづくことを意味する。そのため、選手たちと再び給与カットについての話し合いが必要になるだろう。