徳島ヴォルティスとの開幕戦、井出遥也に出番が訪れたのは71分。奈良輪雄太と交代し、最終ラインの左に入った。むろん、井出は攻撃に特長を持つ選手であり、点を取るための狙いを持たせた起用である。3点ビハインドの状況でなければ、このバクチは打たなかっただろう。

 しかし、結果的に永井秀樹監督の放った奇手は空振りに終わり、井出は目立った働きを見せられないまま終了のホイッスルを聞くことになる。東京ヴェルディでのデビュー戦は苦いものとなった。

 そもそも、プレシーズンの沖縄キャンプは故障のためリハビリに専念。一度も全体練習に参加できなかった井出が、徳島戦でメンバー入りしたこと自体が小さくない驚きだった。急仕上げのコンディションに加え、まだ戦術理解もおぼつかなかったはずだ。

「開幕の2週前に復帰してギリギリ間に合った感じでしたから、コンディション的にはいい状態ではなかったですね。チーム戦術や要求される立ち位置も理解し切れていなかった」(井出)

 その点、新型コロナウイルスの影響によるリーグ中断は、井出にとって願ってもない助走期間になったと言える。

「政府から自粛要請が出ている間は、この機会にどこかパワーアップしようと器具を購入し、ひたすら家で筋トレに励みました。同時に、定期的にあった戦術ミーティングを通じて、頭のほうもある程度は整理できたと思います」

 永井サッカーにおけるポジションの概念は類型に当てはめるのが難しく、流動性が非常に高い。その時々、打ち出す狙いによって選手を配置し、相手の攻略に取り掛かる。開幕戦で見られたように、今後も井出が得意とする攻撃的なポジションで起用されるとは限らない。

「トレーニングが再開されてからも、複数のポジションで練習していますね。普段自分がやらないポジションの立ち位置や、求められる仕事を知るのはとても大事なこと。各ポジションの役割を理解し、どこで出ても平気でやれるようにならなければ永井さんのサッカーは実現できない。そういう意味では、スタートの場所はあまり関係ないんです。状況によって、各々が取るべき立ち位置、そこでの仕事を飲み込んでおくことのほうがずっと重要になる」


 J2の再開が予定される6月27日まで、あと約2週間。これから調整のピッチを上げ、できる限り良好なコンディションに近づけていくことになる。

「通常のオフと違い、2か月以上も空いているので、ボールタッチの感覚や身体の動きは満足できるレベルまで戻っていませんが、それ以上にプレーできる喜び、感謝を噛みしめながらグラウンドに立っています。改めて、やっぱサッカーは楽しい! 試合ができるようになった時、自分たちが多くの人たちに元気や希望を与えられる存在でありたいです」

 井出の持つ高度なスキルや発想力の豊かさは、昨季13位に低迷した東京Vに欠けていた最重要ピースだ。再開後、いきなりフルスロットルの活躍を期待したい。

取材・文●海江田哲朗(フリーライター)