連載「Voice――今、伝えたいこと」第21回、22歳女子プロゴルファーのメッセージ 新型コロナウイルス感染拡大により、スポーツ界はいまだかつてない困難に直面している。試合、大会などのイベントが軒並み延期、中止に。ファンは“ライブスポーツ”…

連載「Voice――今、伝えたいこと」第21回、22歳女子プロゴルファーのメッセージ

 新型コロナウイルス感染拡大により、スポーツ界はいまだかつてない困難に直面している。試合、大会などのイベントが軒並み延期、中止に。ファンは“ライブスポーツ”を楽しむことができず、アスリートは自らを最も表現できる場所を失った。

 日本全体が苦境に立たされる今、スポーツ界に生きる者は何を思い、現実とどう向き合っているのか。「THE ANSWER」は新連載「Voice――今、伝えたいこと」を始動。各競技の現役選手、OB、指導者らが競技を代表し、それぞれの立場から今、世の中に伝えたい“声”を届ける。

 第21回は、女子ゴルフの宮田成華(なるは、スリーボンド)が登場する。レギュラーツアーは開幕戦から7月2週目のニッポンハムレディスクラシックまでの1試合を除き、計18試合が中止に。少しでも早い開幕が待たれる中、昨年11月のプロテストを4度目の挑戦で合格した22歳の宮田は、コロナ禍の女子ゴルファーの現状を明かし、ギャラリーに届けたいプロの姿を語った。

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 胸の鼓動は今も覚えている。友だちと4人で乗った新幹線。東京から四国を目指し、和気あいあいと時間を過ごした。到着したのは、大王製紙エリエールレディスオープンの試合会場。中学生の少女は、初めて見る華やかなツアーの景色に胸を躍らせた。

「今も覚えています。メモを持ちながら、ずっとグリーン周りに座って見ていました。目の前で選手たちが次々とプレーしていって、それを見ているのが面白かったです」

 宮田は中学時代の記憶を呼び起こした。人が米粒のように見えるほど遥か先の場所からショットでピンを攻める。絶体絶命に思える位置から寄せる魔法のようなアプローチ。放たれたパットは、次々とカップに吸い込まれていった。プロの技に魅せられた瞬間だった。

 憧れを抱いた少女は努力を重ね、上を目指した。10歳から始まったゴルフ人生で「一番大変だった」と振り返るのがプロテスト。年に一度のチャンスで3度の不合格を受けた末、昨年11月にやっとの思いで合格を掴み取ったが、それまでは苦汁をなめた3年間だった。

「初年度も受かると思って臨んだのでショックでしたが、3年目はラストチャンスという気持ちでいました。周りの選手が受かっていたから、なんとしても通らないといけない。『落ちちゃいけない』『絶対に落ちられない』という気持ちで余裕がなかった。今考えたら、受かるわけがないなと思う精神状態でしたね」

 昨シーズンまではプロテストに合格していなくても、単年登録(1年間限定のプロ登録)をした上で予選会を通過すれば国内トップのレギュラーツアー出場権を得られた。だが、日本女子プロゴルフ協会に正会員の「プロゴルファー」として登録してもらうにはテスト合格が必須。単年登録者だった宮田は劣等感を持つこともあったという。

「ライセンスを持っていないことに対して凄く悔しい思いが強かったです」。コースに行くと、正会員なら福利厚生として優待料金で施設を利用できることもある。些細なことでも「ああ、自分はプロじゃないんだな」と痛感。「テストはいつ通ったの?」「まだ通ってないんです」。アマチュアとプレーすると、聞かれることが多い。「通ってないと言うたびに凄く悔しかったですね」。今では苦笑いで振り返る経験は、成長へのバネになった。

コロナ禍の現状とは「ゴルフ場に行くのも罪悪感。でも、職業だから…」

 単年登録者として3年目の2018年は29試合、19年は18試合のレギュラーツアーに出場。下部に相当するステップアップツアーでは2位になり、優勝まであと一歩まで迫った。勢いのまま、昨年11月にプロテスト合格。「3年目からレギュラーツアーに出場する機会が増えて、いっぱい経験を積んだことで自分の中に気持ちの余裕ができました」と成長を実感できた。

 中学時代に目の前で見たプロの世界。正会員として認められ、前途洋々とさらに上を目指そうとした矢先だった。新型コロナウイルスの影響で相次ぐ大会中止。主戦場となるステップアップツアーも7月2週目まで中止や延期となっている。「開幕してから早い段階でまず1勝したいなと思っていました」。プランは崩れた。

 緊急事態宣言が出され、同世代のプロには1か月以上もコースで練習できない選手もいた。風やコースマネジメントなど、実際にプレーしないと掴めない感覚もある。宮田は練習時間が3分の1ほどに減った。ギャラリーのいない場所は緊張感を得られず、試合勘にも影響する。当然、賞金もゼロ。「ありがたいことにスポンサーさんがサポートしてくださるので、それを生活費に充てているという感じです」と明かした。

「4月上旬は周りの練習場やお店が閉まってしまい、ゴルフ場に行くのも少なからず罪悪感のようなものがありました。でも、職業だからやらないわけにもいかない。その中で自分の感情(のコントロール)が難しかったです」

 都内の実家で暮らす中、感染しないことが第一のため、ジムや整骨院も控える。マスクと消毒液持参で練習場に通い、入り口で検温。コースに行けてもレストラン、ロッカーは利用できず、ラウンドはハーフで休憩を取らないスループレー。「終わって即解散。なるべく長居せずに帰ってくるようにしています」。グリーンでは旗も触らないなど徹底している。

 特定のコーチに師事していないため、一人で黙々と練習する日々。これまで経験したことのない様々な制約があるものの、「プロ」はここで倒れない。素振りや簡単な自重トレーニング、体のセルフケアにも着手。先輩プロなどに調整方法のアドバイスを積極的に聞いた。読書も始め、他競技の有名選手から考え方を吸収している。男女問わず、ネットのゴルフ記事から知識を集めることもあるという。

「メンタル面の話が多いです。ずっと一人でやっていると難しく考えがちなので、もっとシンプルにした方がいいということが一番ですね。自分は考え始めたらどんどん考え込んでしまうタイプ。やることをやったら大丈夫というか、自分で自分を責めないようになったと思います。

 自粛が始まった時は気持ちが落ちる時も少しありましたが、今は徐々に先が見えてきています。目標として優勝したい気持ちも強いので、自然とスイッチが入る感じはしますね。大変なことも多いですが、やはりできることをやっていくしかない。いかに試合に向けて自分がやらないといけないことに取り組めているか、不安要素をどれだけ減らせるかが大事だと思います」

プロとして魅せる立場に…なりたい、伝えたい姿とは

 なりたい選手像がある。「アグレッシブに行きたい。攻めのゴルフがしたいです」。レギュラーツアーに出場し始めた頃、一緒に回って凄さを肌で感じたプロがいる。成田美寿々(オンワードホールディングス)だ。スコアを落とす危険性の高い林越えのショットなど、ツアー通算13勝の実力者が攻め続ける背中は、そばで見ていて痛快だった。

「プロでもあんなにアグレッシブに攻めていくんだなって初めて思いました。『これがファンが多い理由なのかな』『これは楽しいな』と思いながら見ていたことを覚えています」

 クラブを持てば、何百人ものギャラリーの視線が集まる。期待に応え、心を動かすプロの姿勢を思い知った。昨年、自身はレギュラー18試合に対し、ステップ7試合と両ツアーを行ったり来たりした立場。高いレベルで戦うプロゴルファーの意識の違いを感じた。

「レギュラーツアーは比較的、華もありますし、選手一人ひとりが探求心を持っていて、練習内容を見るのも楽しいです。日本の最高峰の選手たちがいるので、一緒に練習ラウンドができれば勉強になるし、全てにおいてトップクラス。間近に接することが凄く幸せです。レギュラーツアーの方々のほうが“自分”を持っている感じがします」

 小学6年生だった2009年のシーズン終盤。テレビ画面の向こうでは、横峯さくらが諸見里しのぶとの熾烈な賞金女王争いを制した。「毎週、ハラハラドキドキしながら見ていました」。今は自分が魅せる立場となった。テスト合格で引け目を感じることもない。正真正銘のプロの肩書を手にした22歳は、伝えたい姿がある。

「私はずっとドライバーショットが好きと言い続けているので注目してほしい。それと、やはりショットで人を沸かせられるような選手になりたいです。見ていて楽しいと思えるようなプレーをしたいとずっと思っています。ショットでバーディーを獲るというくらい、『今、ピンを狙ってきたね』とわかるようなプレーができたら楽しいですよね。

 強い選手になりたいとずっと言っています。常に上にいる、落ちそうで落ちない、絶対にボギーにしない、というような粘り強い選手になりたいです。最終的には賞金女王になりたいと言い続けています」

 まだ今は及ばないと理解している。でも上を見て、向上心を持ち続けるのは「プロ」の絶対条件か。

 11月で23歳。世間一般で言えば、新社会人の年である。アスリートに限らず、サラリーマンでも、自営業でも、職業である以上全てがプロフェッショナル。コロナが終息に向かっている今、早期の社会復興に向けて一人ひとりが持つべきものは、自覚や責任を含んだ“プロ意識”なのかもしれない。

■宮田 成華(みやた・なるは)

 1997年11月7日生まれ、東京都町田市出身。10歳からゴルフを始める。東京・共立女子第二高を経て、4度目の挑戦となった昨年のプロテスト合格。2019年はレギュラーツアー18試合に出場。7試合に出場したステップアップツアーは、日台交流うどん県レディースゴルフトーナメントで2位。最終予選会は185位。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)