複数の国でロックダウン状態が緩和され、様々な活動の再開が許可される中で、ロジャー・フェデラー(スイス)やその他の選手たちも再びトレーニングを始めている。ただし、プロテニスツアーは7月31日まで…

複数の国でロックダウン状態が緩和され、様々な活動の再開が許可される中で、ロジャー・フェデラー(スイス)やその他の選手たちも再びトレーニングを始めている。ただし、プロテニスツアーは7月31日まで中断が決定しているため、大会関連の活動は棚上げ状態が続く。

そのためテニスに従事する人々の中にも、ラケットにストリングを張るストリンガーなど、ツアー中断の影響を大いに受けている人たちがいる。特にトッププレーヤーのための仕事をしている人々への影響は甚大だ。その一人、フェデラーのラケットストリンガーが受けているコロナの影響について、Tennis World USAが報じている。【実際の動画】フェデラーのストリング交換しているロン・ユー氏

強豪選手たちは個々に違うニーズがあり、大会が用意したストリンガーを使うのを好まないことが多い。そのため、資金のある選手は決まったストリンガーに依頼する。一部の選手に限られた贅沢だ。

ロン・ユーさんは韓国で生まれ、小さい頃に米国に移り住んだアメリカ人だ。米国工科系大学の超名門校、ジョージア工科大学を卒業したが、彼にはテニスの方が大事だった。

在学中、勉強そっちのけでテニスばかりしていたというユーさん。だがマイケル・チャン(アメリカ)のようにはなれなかったので、ある専門家としてテニスに関わり続けることを選んだ。卓越したラケットの技術者、職人、黄金の手となったのだ。

彼の仕事はただラケットにストリングを張るだけではない。それぞれの選手のニーズに沿ってカスタマイズするのだ。息子が勉学に励むことを期待していたユーさんの両親は、彼の職業選択に賛成しなかったが、今は和解したようだ。「母は韓国の友達に“息子はロジャー・フェデラーの友達で、彼のために働いているのよ”と言えるからね」とユーさんは言う。

ユーさんは、アンドレ・アガシ(アメリカ)、レイトン・ヒューイット(オーストラリア)、スタン・ワウリンカ(スイス)、そしてフェデラーが獲得した合計23個のグランドスラムタイトルの影の功労者だ。2021年には、Priority Oneというプロ選手のために用具のケアサービスを行う会社との提携20周年を迎える。

Priority Oneは、ピート・サンプラス(アメリカ)のストリンガーとして、そして業界のレジェンドとして有名なネイト・ファーガソンさんが設立した会社で、ほんの一部のプロ選手にその技術を提供している。その中にはノバク・ジョコビッチ(セルビア)や、2004年以来の顧客であるフェデラーが含まれる。通常、Priority Oneのサービスは最も重要な大会でのみ提供される。

彼らは3種類のサービスを提供している。年間利用のゴールド会員、期間制限なしで30ラケット分のサービスを受けられるシルバー会員、ニーズに沿った都度利用のブロンズ会員だ。しかし、世界的な新型コロナウイルス流行により問題が生じ始めた。Priority Oneは贅沢なサービスではあるが、やはりビジネスのルールには従わなければならない。

3人いた技術者のうちの1人、ジョコビッチやアンディ・マレー(イギリス)のために働いていたストリンガーは解雇された。52歳のユーさんも、給料のカットに苦しみつつ、新型コロナウイルス流行が経済に与えている問題に耐えている。

通常1日あたり25本から30本のラケットをさばいてきたユーさんだが、現在は1日1、2本のラケットを扱うに留まっている。「選手たちとの契約は、彼らが各国を飛び回っている時、そして私たちが大会会場にいる時に限られる」つまりその分は、今はゼロになっているということだ。

これにより、ユーさんはフロリダ州タンパの自宅近くでパートの仕事をするようになった。1年の半分を世界中を飛び回りながら過ごす生活とは全く異なる環境だ。

「一番好調な時で、1年のうち33週を海外で過ごしたね。今は26週くらいで落ち着いたよ。テニスは、小さな村が世界中を旅しているようなものなんだ。違う都市にいても、いつも同じ人たちと会う。パートの仕事に就いたことで、自分がどれだけテニスを愛しているか実感することになったよ。早く戻りたいね」

ユーさんは、テニス中断のストリンガーたちへの影響を説明した。「皆80%から90%くらいの収入を失っている。通常時でも、そんなに稼げる仕事ではないんだ。でも静かで満足な暮らしを送れていたけれど、今起こっていることは本当に悲惨だよ」

(テニスデイリー編集部)

※写真は2018年「全米オープン」でのフェデラー

(Photo by Cynthia Lum/Icon Sportswire via Getty Images)