東京・有明で開催された「楽天ジャパンオープン」(ATP500/本戦10月3~9日/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/賞金総額136万8605ドル/ハードコート)は最終日、シングルスとダブルスそれぞれの決勝が行われ、世界…

 東京・有明で開催された「楽天ジャパンオープン」(ATP500/本戦10月3~9日/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/賞金総額136万8605ドル/ハードコート)は最終日、シングルスとダブルスそれぞれの決勝が行われ、世界ランキング15位で第6シードのニック・キリオス(オーストラリア)が同14位で第5シードのダビド・ゴファン(ベルギー)を4-6 6-3 7-5の逆転で破り、ツアーカテゴリー『ATP500』で初めてのタイトルを手に入れた。

 ダブルスは今大会初めてペアを組んだ、マルセル・グラノイェルス(スペイン)とマルチン・マトコウスキ(ポーランド)が第2シードのレイブン・クラーセン(南アフリカ)/ラジーブ・ラム(アメリカ)を6-2 7-6(4)で破った。

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 楽天オープンに、また新しいチャンピオンが誕生した。21歳5ヵ月------兄貴分でもある元王者のレイトン・ヒューイット(オーストラリア)が2001年に20歳7ヵ月で優勝して以来、この15年間でもっとも若いチャンピオンである。

 東京はこの日も雨で、コロシアムの屋根は閉められた。風などの影響を受けないインドアでの試合はビッグサーバーに有利に働くと言われる。頻繁に時速220kmを超えるサービスはキリオス最大の武器。

 しかし、ゴファンはリターンの名手だ。相手のファーストサービスでのポイント獲得率は過去1年のツアーで4位を誇る。ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、ラファエル・ナダル(スペイン)、アンディ・マレー(イギリス)に次ぐ高確率の32.4%。反射神経にすぐれ、持ち味のカウンターでうまく面を合わせるゴファンがキリオスの高速サービスをどれだけ返せるかが、勝負のカギの一つだった。

 第1セットは第7ゲームでゴファンがブレークに成功。前日のガエル・モンフィス(フランス/第2シード)との試合の疲れが少し残っていたというキリオスのほうは、このセットで5回あったブレークポイントを一つも生かせなかった。

 「ダビドとプレーするときは、(相手の)コートが狭く感じる」とキリオス。ゴファンのディフェンス力の高さを表現したのだ。

 しかし第2セットになると、キリオスが武器のサービスでピンチをしのぎ、リズムをつくっていった。特にセカンドサービスでのポイント獲得率が73%と極めて高い。セカンドサービスでも時々、時速200kmを超えるスピードで勝負をかけるのはキリオス得意の戦法だ。

 「余計なことは考えず、ただ思いきり打っているだけ。それがうまくいった」と振り返った。第3ゲームで0-40のピンチをしのぎ、次のゲームで初のブレークに成功。これを守って最終セットに持ち込んだ。

 ベースラインからでもウィナーを取れるパワーがありながら、そのパワーを使って決めにいくことは滅多にない。むしろパワーを抑え、コースや回転を駆使しながら多彩にラリーを楽しむタイプだ。奇をてらいすぎたショットセレクションはときにミスを招いたが、そうしたプレーは観客を喜ばせると同時に、ゴファンをやや疲れさせたかもしれない。第3セットだけでおかした6本のダブルフォールトに、それが顕著に表れていた。

 ゴファンの5-4で迎えた第10ゲームもそうだ。キリオスのサービスゲームは0-30だったが、試合を通じてとにかくアンフォーストエラーの少なかったゴファンが、ここでバックハンドのチャンスボールをネットにかけるミス。無事にキープしたキリオスが続く第11ゲームでブレークし、最後は時速213kmのエースを叩き込んだ。   シーズン終盤を迎え、ツアーは若手の躍進で盛り上がっている。先々週から22歳のルカ・プイユ(フランス)、19歳のアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)、20歳のカレン・カチャノフ(ロシア)らがツアー初優勝を飾っており、キリオスの『ATP500』初優勝はニュージェネレーションにさらなる勢いをもたらすだろう。

 「自分たちの時代がくるにはもう少し時間がかかる。トップ5のグループはやっぱりまだまだ強いからね」

 今週はそんな話もしていたが、コート上の素行の悪さで度々話題に上がるキリオスが、今大会を通じて一度もジャッジにキレたり、観客に悪態をついたりすることがなかったのも印象的だった。日本の観客が「テニスをよくわかっていて、敬意を感じる」こと、そして「ちょっとは大人になったと思う」ことがその理由だろう。見た目とはちょっと違うナイスガイのままトロフィーを抱いたニューチャンピオン。これからが大いに楽しみだ。 (テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)