東京五輪&パラリンピック注目アスリート「覚醒の時」第6回 バレー・柳田将洋 「ビッグサーバー」として台頭したW杯(2015年) アスリートの「覚醒の時」——。 それはアスリート本人でも明確には認識できないものかも…

東京五輪&パラリンピック
注目アスリート「覚醒の時」
第6回 バレー・柳田将洋 
「ビッグサーバー」として台頭したW杯(2015年)

 アスリートの「覚醒の時」——。

 それはアスリート本人でも明確には認識できないものかもしれない。

 ただ、その選手に注目し、取材してきた者だからこそ「この時、持っている才能が大きく花開いた」と言える試合や場面に遭遇することがある。

 東京五輪での活躍が期待されるアスリートたちにとって、そのタイミングは果たしていつだったのか……。筆者が思う「その時」を紹介していく——。

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2015年のW杯で活躍した、現日本代表の主将・柳田

 2015年に日本で開催されたワールドカップバレー(W杯)は、日本男子バレー界への注目度を大きく上げる転機になった。

 そのきっかっけを作った選手のひとり、現日本代表の主将である柳田将洋は、当時23歳。慶應義塾大学を卒業し、サントリーサンバーズに入団したVリーグ1年目の選手だった。バレーボールの3大大会はオリンピック、世界選手権、W杯を指すが、この年のW杯が柳田にとって初めての3大大会になった。

 柳田の最大の武器がまばゆい輝きを放ったのは、9月17日に大阪市中央体育館で行なわれたベネズエラ戦でのこと。この日、柳田は腰痛のためスタメンから外れていた。日本は先にセットポイントを握られてからの逆転で第1セットを先取(33-31)したが、続く第2セットも22-24と追い込まれる。そこでセッター・深津英臣がブロックを決め、23-24としたところで柳田がピンチサーバーで起用された。

 失敗が許されない状況で、柳田は豪快なサーブで相手のレシーブを崩す。それが石川祐希のスパイクにつながりデュースに持ち込むと、直後の得点も柳田のサーブからモノにし、最後は柳田のサービスエースでこのセットを奪取した。試合は、当時の主将・清水邦広の活躍もあり、終わってみれば日本がストレートで勝利した。

 この年の4月に行なわれた日本代表始動記者会見で、当時の南部正司監督は柳田、石川祐希、山内晶大、髙橋健太郎の4選手によるユニットを「NEXT4」と発表。当時、柳田を除く3選手は大学生で、唯一Vリーガーだった柳田は自分が含まれていることに驚きながらも、「せっかくいただいたチャンスだから、プラスに捉えて生かしたい」と語った。

 そうして迎えたW杯だったが、注目を集めていたのは2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得した女子チーム。一方でロンドン五輪に出場できず、2014年世界選手権の出場権も逃した男子バレーは人気が低迷していた。

 母国開催にもかかわらず、W杯初戦のエジプト戦は空席が目立っていた。だが、ゴールデンタイムに地上波で生中継されたその試合がフルセットの激闘となり、勝利したことから人気が高まっていく。とくにこの日のベネズエラ戦までスタメンで出場を続けていた柳田と石川は、春高バレーでの活躍を見ていたファンも多く、人気を二分した。

 柳田は身長186cmと、バレーボールのアタッカーとしては決して大きくない。それでも、安田学園中→東洋高→慶大と進んだバレーエリートとして10代の頃から注目され、サーブの破壊力、スパイクフォームの美しさなどに定評があった。高校時代の石川は、3つ年上の柳田に憧れ、そのフォームをお手本にしていたという。

 2015年W杯は、ベネズエラ戦をはじめ、大会を通してサーブでの活躍が目立った。ジャンプサーブが世界の主流になって以降、日本にも越川優(現ビーチバレー選手)などサーブを武器とする選手はいたが、柳田は日本にも世界に通用する「ビッグサーバー」がいることを強く印象づけた。時速110キロを超えるサーブで、大会を通して19本のサービスエースを奪い、海外のエースたちに混じってサーブ部門5位(日本人1位)に入った。

 W杯後のVリーグでも柳田の人気は衰えず、所属するサントリーサンバーズは練習見学に訪れるファンの数が約10倍に増えた。この年のサントリーは成績不振で下部リーグとの入れ替え戦に回ったが、それがCSで中継される異例の事態も。チームは入れ替え戦に勝って7位でプレミアリーグに残留し、柳田はこのシーズンの最優秀新人賞を受賞した。

 Vリーグ2年目のシーズンを終えた2017年、柳田はプロ転向を発表し、海外に挑戦する決意をする。前年にリオ五輪世界最終予選に敗退し、スキルのレベルアップやバレーボールの視野を広げることが大切だと考えたためだ。この年はドイツ、翌年にポーランド、そして、今季は再びドイツでプレーした。

 日本代表では2018年から主将に就任し、チームを引っ張る立場になった。「僕の主将としての役割は、いろいろなカラーの選手たちがひとつのベクトルに向かうようにまとめること」と語り、若手の西田有志やベテランの清水邦広など、幅広い年齢層のチームをバランスよくまとめている。2019年W杯ではケガの影響でスタメンから外れることもあったが、チュニジア戦で4連続サービスエースを決めるなど、ビッグサーバーの健在ぶりを示した。

 2021年7月には28歳。ベテランの領域に入った柳田が、東京五輪でもビッグサーブを連発してくれることを期待している。