酒井宏樹が所属するオランピック・ド・マルセイユ(マルセイユ)に、大きな不安が広がっている。

 スポーツ・ディレクター(SD)のアンドニ・スビサレッタ氏が現地時間14日夕に電撃辞任。クラブも同夜、慌てて声明を発表し、この事実を認めたからだ。

 不安の最大原因は、今回のSD辞任がアンドレ・ヴィラス・ボアス監督の去就に直結しかねない点だ。

 ヴィラス・ボアス監督は昨年秋から、「私がここに来たのは、第一にクラブを成長させるため、第二はアンドニのため。すでに言ったが、私の将来は彼の将来に親密に繋がっているのだ」と明言し、SDと一蓮托生であることを強調。スビサレッタ氏がクラブを去れば自分も去ると仄めかし、脅しともとれる発言を繰り返して、同氏解任の動きをけん制してきた経緯がある。

 だが、この問題は冬に英国人ポール・アルドリッジ氏が、ジャック=アンリ・エロー会長のアドバイザーに招聘されたことで悪化した。1月20日には、会長とヴィラス・ボアス監督の激しい怒鳴り合いが、会長室から聞こえたとさえ言われている。

 背景には、選手売却路線への懸念がある。アルドリッジ氏はイングランドに選手を売却するために雇われたとしか考えられない。そのため、チャンピオンズリーグ(CL)出場を目標に奮戦中だった監督は、冬の選手売却に絶対反対を貫き、選手からもサポーターからも支持を受けた。

 奮闘の甲斐もあり、マルセイユは冬の選手売却を断念。その後、ヴィラス・ボアス監督と選手は一致団結して着実に順位をキープ。新型コロナウィルスの影響で途中閉幕とはなったものの、リーグ2位となり、来季CLへのストレートインを決めた。マルセイユが2位を実現したのは、2012-13シーズン以来7年ぶり。酒井宏樹にとっても、キャリア初のCL出場になる予定だ。

 ところが、そんな矢先に今回の辞任騒ぎだ。エロー会長は声明で、「アンドニはプロジェクト・スタート時に私がリクルートした最初のマネージャー。したがってわれわれの道が分かれるのは大きな感慨を伴う。アンドニは誠実で一貫一徹の男だ。ビッグなプレーヤーだっただけでなく、巨大なクオリティーをもつプロで、今後も意見交換するのを大いに楽しみにするだろう」と賛辞を送っている。

 一方のスビサレッタ氏は、支持者に感謝を述べた。

「このプロジェクト、このクラブ、この町が、7日中7日、24時間中24時間、私の心と頭を占領していた。クラブの周囲にこれほどパッション(熱情)がある以上、個人的にも情熱と思いとエネルギーを注ぐことになるからだ。みんな信頼してくれてありがとう。バスク語で言うように、“終わりとは始まり”だ。スポーツ・ディレクターは終えるが、私はマルセイユサポーターを始める」

 しかし、15日午後現在、辞任劇の詳細な経緯や原因は明らかになっていない。

 さらには、フランスの外出禁止令が解除された5月11日、「こもり先」のポルトガルからヴィラス・ボアス監督がマルセイユ入り。13日にエロー会長と今後の方針について会議(以前から設定されていた)した。だが、満足ゆく結果は得られず、14日午後にはまたポルトガルに帰国してしまったのだ。


 これでサポーターは、「すわ、監督も辞任か!」と大騒ぎになった。せっかくCL出場を決めたのに監督が辞任してしまえば、混乱は避けられない。しかもスビサレッタ氏辞任で、選手を売り払う路線にシフトすることは免れないだろう。『L'EQUIPE』紙のリーグ年間イレブンを決める読者投票で、右SB部門3位に食い込んだ酒井宏樹も、対象外とは言い切れないのだ。

 確かにマルセイユは、過去のリクルーティング失敗のツケが積もり、このまま行けば大赤字になる。UEFAファイナンシャルフェアプレーにも睨まれており、最悪の場合はCL出場権を奪われる罰則さえチラついている。

 マルセイユの街中からはすでに、「監督が去るようなことになれば重大問題だ!」、「夕べは、サウジアラビアがOMを買収してグアルディオラを監督に招聘した夢を見たよ」などの怒りとジョークがテレビ映像が流れ始めている。エロー会長には選手たちも冷ややか。マルセイユのジレンマは続く。

 サポーターに微かな希望があるとすれば、ヴィラス・ボアス監督がはっきり辞任を表明していないことぐらいだ。ただ、その希望が続くかどうかは、まだ不明である。酒井宏樹にとって初のCLは、どうなってしまうのだろうか。

取材・文●結城麻里
text by Marie YUUKI