いい本を読んでいると、結末を知りたくない、何なら、いつまでも続いてほしいという矛盾した思いにとらわれることがある。最後のページまで来ると、結びの文がチラッとでも目に入らないように、慎重に慎重に読み進めていく。無駄な抵抗とは知りながら、少しでも時間を延ばすためだ。

 瀬戸大也と萩野公介という2人の好敵手の物語も、終章にさしかかっていた。今年五輪があったなら、瀬戸を主人公としたハッピーエンドになっていたであろう。萩野の完全復活というどんでん返しが厳しい状況にあるのは、誰もが認めざるを得なかったと思う。2人は今年で26歳。幼少期からの大河ドラマが終わろうとしている、一抹の寂しさを感じていた。まだ物語に続きがあるとは知らずに。

 瀬戸大也といえばポジティブ、ポジティブといえば瀬戸大也。そんな彼が五輪延期で「喪失感で抜け殻になった」と言った。3月24日に延期が正式に決定した後、コメントをしばらく出さなかった。いや、出せなかった。SNSで本音を吐露したのは、延期決定から2週間以上たってから。沈黙の長さは、そのままショックの大きさを映し出していた。

 瀬戸が一直線に表彰台のど真ん中へ突き進んでいたとすれば、萩野は迷路でさまよっていた。2月のコナミオープンで不本意な結果に終わり「泳ぐ前に怖くなった」と告白した。どんなに成績が出なくとも「悪くはない」と言い張ってきた男が、である。レース後、サブプールでひとり、窓の外を眺めていた。かつてのキング・オブ・スイマーは、途方にくれていた。

 2人の関係性はあたかもメビウスの輪のように表裏一体である。萩野が不振のときは瀬戸が踏ん張り、萩野が底力を示して瀬戸の潜在能力を引っ張り上げてきた。恩師から離れるという険しい道を選んだ瀬戸。いまだ迷路の出口を探している萩野。突如付け加えられた1年分のページに、どんなストーリーを紡いでくれるだろう。

 ◆太田 倫(おおた・りん)1977年、青森県生まれ。42歳。横浜市立大から2000年入社。紙面レイアウト担当などを経て、08年からプロ野球担当。18年から五輪担当となり、主に水泳競技、スケートボード、空手などを担当。