ラファエル・ナダル(スペイン)のボレーの技術は、テニス界で過少評価されているのではないか。この疑問に、何人かの評論家やコメンテイターが同意してきた。テニス関連ウェブメディアtennis.com…

ラファエル・ナダル(スペイン)のボレーの技術は、テニス界で過少評価されているのではないか。この疑問に、何人かの評論家やコメンテイターが同意してきた。テニス関連ウェブメディアtennis.comが伝えている。ナダルのボレー技術についてあまり触れられることがない理由の1つは、彼が難しいボレーを打つシーンを見る機会が少ないことだ。ナダルのスポーツはテニスだが、ネットプレーでは「難しいショットを打つような状況に自分を追い込まない」という、トップビリヤードプレーヤーのルールに従っているようだ。

彼にとって、重要なのはセットアップ。ビリヤードのプロが言う「後玉」だ。セットアップのためにあらゆる技術と労力が使われる。だから彼がネットに出た時には、弱い球が浮いて飛んで来ていて、軽く返せばいいか、開いているコートのアングルに返せばいいかだけなのである。

多くの選手のネットプレーと比較してみると、ナダルのネットプレーの効率の良さは、ベースラインでのプレーの効率の良さの産物なのだ。彼はベースラインからのプレーで相手を追い込み、疲れさせることに定評がある。安定性と粘り強さが彼の強みだ。そして、特にフォアハンドは、芝コートでもハードコートでもただ返球するだけではない。

ナダルの目的は常に、フォアハンドで相手のコーナーに打ち込めるようにもっていくことだ。そして、そのショットを決定打とする。時々、彼がかけた強いスピンで相手は大きく体勢を崩されたり、やっと届く状態に追い込んだ結果として弱いボールが返ってくることもある。

しかし、いったんラリーの主導権を握ったら、ナダルがポイントを落とすことはほとんどない。相手はコートをサイドからサイドへ必死に走り回り、ナダルはネットに詰めてフィニッシュのボレーを決める。

これは、ナダルにネットプレーの技術がないということにはならない。彼は高いネットプレーの技術を持っているが、過小評価されているのだ。テニス史上で見ても彼のオーバーヘッドの技術は秀でており、ボレーのタッチも、いつタッチボレーを打てばいいか、どこを狙ったらいいかが分かっている。ナダルがドロップショットをネットにかけることはほとんどない。

パンチボレーを打つ時、相手がどうやっても届かないアングルへ打つことに関して、ナダルはエキスパートだ。ハイボレーを打つ時、他のプレーヤーがよくやるようなドライブをかけた深いボレーは打たない。彼は相手の届かないような角度をつけた浅いボレーをサイドラインぎりぎりに打つ。そして彼はサーブ&ボレーを滅多にしないが、ワイドにスライスサーブを打ち、浮いたリターンが来たら即座に前へ詰めてオープンコートへボレーを決めることもできる。

彼はそのプレーを、歴史に残るロジャー・フェデラー(スイス)との2008年「ウィンブルドン」決勝で成功させている。そして2017年「全米オープン」決勝、ケビン・アンダーソン(南アフリカ)戦でのマッチポイントでもそれを成功させ、優勝した。

ナダルはネットから非情な決定打を打つ。彼は粘りの選手という印象があるが、実は並外れたセンスを持っている。彼がネットに詰めてドロップショットを返す時、頭の向きでフェイクを使うのを好む。まるでダウンザラインに返すかのように見せて、最後の瞬間にクロスコートに打ったりする。そのプレーは、一般的により芸術的なプレーヤーだと思われている彼のライバルのフェデラーと同じぐらい華麗だ。

ナダルが最初にプロツアーに登場した時、彼は単に、クレーコートを走り回る、連綿と続く粘り強いスペイン人選手たちの一人だと思われていた。だがキャリア・グランドスラムをやってのけるには、全ての面で優秀でなくてはならない。ナダルは、じっくりと何年もかけて力をつけ、技術を磨いていった。

彼がベースラインに立つ時はその体力を見せつけ、さらにネット際での細やかな技術、そしてそれらを超えた技術以上のものが彼をチャンピオンたらしめた。そのタッチ、コートセンス、決断力、知的な攻撃性、それらの全てのカテゴリーで、ナダルは過小評価されている。

(テニスデイリー編集部)

※写真は2020年ボレーを練習するナダル

(Photo by Chaz Niell/Getty Images)