マン・オブ・ザマッチは、SO山沢拓也だった。 筑波大4年にして国内トップのステージに立つ司令塔は、4戦ぶりに先発復帰するや、多彩なキックを織り交ぜゲームを動かす。 前半10分には、持ち前の走りでも魅せる。敵陣の深い位置で球をもらうや、瞬時…

 マン・オブ・ザマッチは、SO山沢拓也だった。

 筑波大4年にして国内トップのステージに立つ司令塔は、4戦ぶりに先発復帰するや、多彩なキックを織り交ぜゲームを動かす。

 前半10分には、持ち前の走りでも魅せる。敵陣の深い位置で球をもらうや、瞬時に守備網を蹴破った。

 そのままトップリーグ初トライなどで、7-5と勝ち越す。

「いい経験をさせてもらっている。その経験を上乗せして、いい選手になりたいです」

 かく語る本人を、日本代表のSH田中史朗はこう認める。

「能力が高いのは間違いない」

 現在3連覇中のパナソニックは、組織的な反応速度で勝った。

 10-5として迎えた前半27分、自陣深い位置でNECのラインアウトから自軍ボールを得るや、右端に立つFL布巻峻介が相手の背後へロングキック。その弾道を織ったのが、足の速いWTB北川智規ゲーム主将だった。慌てて背走した相手は、たまらずタッチラインの外へボールを蹴り出すほかない。

 パナソニックは自軍ボールのラインアウトから、LO谷田部洸太郎らの追加点をもたらす。17-5。

 NECとしては、瞬く間に好機が失点に変わった瞬間だったか。

 前年度は降格争い、いまはピーター・ラッセル ヘッドコーチのもと意思統一がなされてきたチームにあって、SH茂野海人はこう悔やんだ。

「ディフェンスへの切り替え、1人ひとりの意識は改善点です」

 以後も加点して4勝目を挙げたパナソニックだったが、終ってみれば反省が口をつく。WTB北川ゲーム主将が悔やむのは、サインプレーによるWTB藤田慶和のトライなどで44-19とした直後のことだ。 

 NECがキックオフで短い弾道をを放ち、そのまま確保。パナソニックは防戦一方となり、最後はCTBジョーダン・ペインにタックルを外された。後半39分、44-26。

 終盤から出てきた若手へもっと注意を促すべきだった…。WTB北川ゲーム主将は、そう振り返った。

「キックオフ。ここからだ。そうは言ったんですけど…。こういうことは、わかっている選手がもっと声を張らないと」

 チームにとっての凡事徹底ができたため、パナソニックは試合を支配できた。しかし、最後の最後にその凡事徹底を乱したため、3トライ差以上をつけてもらえるボーナスポイントを獲得できなかった。

 ロビー・ディーンズ監督も、穏やかな口調にきちんと棘をまぶす。

「ボーナスポイントという概念が邪魔をした。トライの後に、まずボールを再獲得しないといけなかった」

 そんななか、山沢と並ぶ殊勲者はCTBリチャード・バックマンか。

 試合序盤にグラウンド中盤左で守備ラインを大きく破られた折、相手のランナーを仕留める。球を手離さない「ノット・リリース・ザ・ボール」の反則を誘った。攻めてもグラウンド外側から中央へ、価値ある杭を打ち続けた。

 こちらは最後まで凡事徹底。(文:向 風見也)