日本がゴールデンウィークで大型連休になるこの時期、MotoGPの世界では毎年、イベリア半島最南端のヘレス・サーキットでスペインGPが開催される。公式ゲーム『MotoGP20』の画面はかなりリアルだ アンダルシア地方の小さな街ヘレス・デ…

 日本がゴールデンウィークで大型連休になるこの時期、MotoGPの世界では毎年、イベリア半島最南端のヘレス・サーキットでスペインGPが開催される。



公式ゲーム『MotoGP20』の画面はかなりリアルだ

 アンダルシア地方の小さな街ヘレス・デ・ラ・フロンテラ郊外にあるこのサーキットは、金曜の走行初日から日曜の決勝レースに至る3日間で延べ20万人もの大観衆を動員する。そして、このレースを皮切りに、2週間おきのペースで欧州大陸の各国各地域を転戦するヨーロピアンラウンドが本格的に幕を開ける。

 しかし、今年に限ってはCOVID-19(新型コロナウイルス)の全世界的流行により、あらゆるスポーツイベントが開催を見合わせている。

 もちろん、MotoGPも例外ではない。レースを運営するDORNAスポーツ社は、可能ならば夏頃にも無観客でレースを開催したい、としているが、それはあくまでも希望的観測で、彼らとてけっして楽観的に状況を見通しているわけではない。

 全関係者や選手、チームスタッフ、そして世界中のファンが我慢を強いられる状態が続くなか、当初のカレンダーでスペインGPが開催される予定だった5月3日に、〈バーチャルスペインGP〉がネット上で開催された。

 これは、市販ゲームを使ってMotoGPライダーたちがネット上で競い合う仮想レースで、第一弾は3月29日に行なわれた。10名の選手が公式ゲーム『MotoGP19』のムジェロ・サーキット(イタリア)で争い、今シーズンから最高峰に昇格してきたアレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が優勝した。

 4月12日に開催した第二弾は、レッドブル・リンク(オーストリア)を舞台にバレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハ MotoGP)や日本人選手の中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)も参戦。レースは、フランチェスコ・バニャイア(プラマック・レーシング/Ducati)が優勝を飾った。

 そして第三弾のバーチャルレースは、本来ならば本物のスペインGPが行なわれていたはずの5月3日に、仮想上のヘレス・サーキットで行なわれた、というわけだ。

 第一弾と第二弾はMotoGPクラスの選手たちが争うイベントだったが、今回はMoto3、Moto2、MotoGP、と全3クラスを実施。ゲームも最新版の『MotoGP20』で開催することになった。各クラスともレースに参戦する10名の選手たちの各家庭とDORNAの放送席をつなぎ、ゲームの画面は実況つきでMotoGP公式サイトやYouTube、あるいは各種SNSを経由して世界中に中継された。

 また、今回のバーチャルレース第3戦では、アフリカの遠隔地へオートバイを使って医療を届けようという非営利組織”Two Wheels for Life”が協賛し、COVID-19対策への支援を募った。

 eスポーツのエンタテインメント性はもちろんのこと、選手たちが自宅から参戦するという手法を通じて外部との接触を避ける感染症対策の重要さを啓蒙し、さらには医療過疎地域を援助する資金調達も図るという、一石三鳥のイベントになった。

 Moto3クラスのレースはガブリエル・ロドリゴ(The Kommerling Gresini Moto3)、Moto2はロレンツォ・バルダッサーリ(FlexBox HP40)がそれぞれ勝利した。そして最高峰クラスのMotoGPでは、マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が逆転優勝。レース後には、実況スタッフを相手にインスタグラム上で記者会見も行なった。

 3回にわたって行なわれたバーチャルGPは、いずれも世界中のレースファンの間で話題になり、成功理のうちに無事終了したといえそうだ。また、とくに今回はチャリティという側面を持たせた実利的な効果と意義も大きい。

 一方で、今回のバーチャルスペインGPに先だつ4月末には、6月の第9戦ドイツGPから7月中旬の第11戦フィンランドGPまでのキャンセルが正式に発表され、実際のレースは少なくともあと2カ月ほどは開催される見込みがないこともまた、明らかになった。

 このバーチャルグランプリが今後も続くのかどうかについては、5月4日現在ではまだ公式に発表されてはいないが、レースが開催されないこの期間中に何らかの形でファンの興味を惹く次のイベントが企画されることは、おそらく間違いないだろう。

 ただ、それらのイベントがそれなりに愉快であったり面白いものであればあるほど、ホンモノのレースを観ることのできる環境を早く取り戻したい、という郷愁のような抑えがたい感情が湧くのもまた、一面の事実ではある。

 それをすこしでも早く実現するための最善の方法は、これらの企画を愉しんだ世界中のひとりひとりが、感染をこれ以上蔓延させない環境作りを、広く世の中の人々と同様に心がけ続けること以外にはきっとありえないのだろう。