eスポーツの日本代表として挑んだ岡崎慎司 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界中でスポーツが中断や中止に追い込まれているなか、注目を集めているのが、オンラインでも開催できるeスポーツだ。サッカーのeスポーツでは、『FIFA』や『ウイニン…
eスポーツの日本代表として挑んだ岡崎慎司
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界中でスポーツが中断や中止に追い込まれているなか、注目を集めているのが、オンラインでも開催できるeスポーツだ。サッカーのeスポーツでは、『FIFA』や『ウイニングイレブン』といったシリーズが有名で、どちらもオンラインでの大会やイベントが多く開催されるようになった。
そして4月中旬、日本サッカー協会よりeスポーツ大会「StayAndPlay eFriendlies」の開催が発表された。これは4月21日~24日の4日間、『FIFA』シリーズを使ったアジア4カ国・地域による総当たり戦の大会で、日本からは2名が選出された。
規定によりeスポーツプレーヤーと現役のサッカー選手という組み合わせとなり、一人は鹿島アントラーズ所属で『FIFA』シリーズの世界大会出場経験もあるナスリ。もう一人がスペイン2部ウエスカ所属の岡崎慎司だ。なぜ岡崎なのか--。誰しも思う、その素朴な疑問を本人に聞いてみた。
「今回の大会に向けた予選があったわけではないです。サッカー協会が『FIFA』シリーズをやっている選手を探していて、大会のことも聞いていたので、参加可能の意志は伝えていました。もともとゲームは好きですし、『FIFA 20』もやっていましたから。ただ誰かほかの選手が出場するだろうと思っていて、まさか自分が指名されるとは思っていませんでした」
岡崎が『FIFA 20』の上級者だからという理由ではなく、初めて開催される大会のため、参加者を募るところから始め、結果的に岡崎に白羽の矢が立ったというのが出場の経緯のようだ。それでも岡崎はまったくのど素人というわけではない。家族が日本に一時帰国している期間は、1日5~6時間、『FIFA 20』に没頭する日もあるほどの愛好家だ。オンラインでのトーナメントにも幾度も出場している。
岡崎は現在、スペインリーグ中断中のため、長期に渡って自宅待機を余儀なくされている。日本もそんな状況下のため、盛り上げ役を買って出られればと、軽い気持ちで出場を決めた。当初は「ただオンラインでほかの選手と対戦するだけのシンプルなものだと思っていた」というが、大会に臨む準備の多さ、大会の規模は、本人の想像を超えていた。
「思っていた以上に大掛かりな大会でした。そもそも僕のネット環境が悪くて安定して大会を行なえるものではありませんでした。日本とオンラインでミーティングを行ない、ネット環境を改善して、大会での細かい段取りを確認しました」
大会には、岡崎はスペインから、ナスリは日本から参戦し、対戦相手はそれぞれの国・地域から試合に出場した。相手はマレーシア、台湾、シンガポールの3カ国で、ナスリ、岡崎の順に1試合ずつを行ない、合計スコアで勝敗を決するというものだ。
結果は1勝2敗。岡崎はマレーシア戦こそ4-3という乱打戦で派手な逆転勝利を収めたものの、続く台湾戦、シンガポール戦では1点も取れずに敗戦を喫した。台湾に敗れたときには「心臓が痛い。変な緊張感があった。リアルのスポーツと違う部分が疲れた」とeスポーツ独特の試合に完全に気圧されていた。それでも大会終了後には、いい経験だったと振り返る。
「趣味でやるゲームとはまた違った感覚でした。ただ、ゴールを決めたときや1試合目に勝ったときの達成感は、リアルのサッカーに似ているなと思いましたね。負けたときには動けなくなるくらいだったし、やり残したことがあるなとがっかりしていました。eスポーツとはいえ日本代表としての出場だったので、プレッシャーがありながらも、すごく刺激的な4日間でした。毎日ゲームのことを考えていて、本当にどっぷりつかっていました。すごくいい経験でした」
今大会が終わった後も引き続き『FIFA 20』をプレーしているという岡崎。ナスリからのアドバイスにより守備面の強化を図れたことで、プレーの幅が広がりより面白くなったという。この『FIFA 20』に限らず、岡崎はこれまでも数々のゲームに親しんできていて、その遍歴は長い。
「マリオカート、スーパーマリオブラザーズから始まり、ファイナルファンタジー、ドラゴンクエストとか、世間の流行には乗ってきた感じですね。ロマサガ(ロマンシング サ・ガ)や聖剣伝説は、リメイク版が出たのでまた買いました」
あくまでゲームは趣味としての位置づけだが、海外でプレーするうえで、ゲームがチームメートとの触媒になることもあるようだ。
「(2019年8月在籍の)マラガではキャンプのときに、選手と『FIFA』をやっていましたし、レスターのときもキャンプでたまにゲームをしていましたね。外国語でコミュニケーションを図れないときには、一緒にゲームをやりました。ゴールしたときにガッツポーズをやったりすると、突っ込まれたり、笑ったりして、言葉が通じなくてもゲームであれば仲良くなれます。海外の選手は、日本のゲームやアニメを高く評価してくれているので、みんな日本人をリスペクトしてくれますね」
このようにゲームによって人との輪が広がっていく例は、海外サッカーの場だけにとどまらない。今では日本のeスポーツ組織「eスポーツジャパン」との取り組みにも広がっている。eスポーツジャパンは、元名古屋の岡山哲也氏が代表取締役を務める会社で、役員には秋田豊氏、国際戦略顧問にはストイコビッチ氏が就いている。岡崎はこの組織のアドバイザーを務めている。2019年6月にはウイニングイレブンで中村憲剛と対戦する企画を行なうなど、eスポーツの普及にも一役買っているのだ。
ただし、岡崎はあくまでプロサッカープレーヤー。eスポーツとリアルのサッカーは、明確に住み分けている。eスポーツをリアルのスポーツと同じカテゴリーに属するものと認める一方で、リアルとゲームを混同しないようにしている。
「ゲームよりもリアルのサッカーのほうが、トラップミスやパスミスなど、より多くのミスが出ます。頭がゲーム脳になった状態でリアルのサッカーをやると、ミスしないと思ったところでミスが出るので、一瞬切り替えが遅くなったりしますね。グアルディオラがたびたびチェスを引き合いに出してサッカーや選手を語っていますが、僕とゲームの関係性はそんな感じ。ゲームはあくまでヒントを得るもので、頭の体操くらいに考えています。今回大会に出場したことで、改めてゲームは趣味のほうがいいなと感じました」
かつては、現役のサッカー選手がゲームにはまっていることを公言するのは、本業をおろそかにしているように見えて、自重する雰囲気があった。しかし、近年は徐々にその傾向も変化してきている。今回、岡崎のような日本を代表するストライカーがこうして大会に出場して、真剣に戦い、喜び、悔しがる姿を見せることで、多くの人たちがeスポーツにポジティブな印象を持ったはずだ。今後もこうして現役選手がeスポーツの大会に参加していけば、選手との距離も近くなるだろうし、ゲームのイメージも少しずつ変わっていくだろう。
【eスポーツ国際親善大会「StayAndPlay eFriendlies」】
●第1戦 日本6-3マレーシア
・ナスリ2-0ハキム
・岡崎4-3サファウィ ラシド
●第2戦 日本2-4台湾
・ナスリ2-1チンユー リャン
・岡崎0-3ベンソン リン
●第3戦 日本0-4シンガポール
・ナスリ0-0アムラン ガニ
・岡崎0-4ジョエル チュウ
1位 シンガポール 勝点9(3勝0敗)
2位 台湾 勝点4(1勝1敗1分け)
3位 日本 勝点3(1勝2敗)
4位 マレーシア 勝点1(1分け2敗)