米大学へ進学予定の沖吉大夢が、コロナ禍の後輩へ伝えたいメッセージとは 世界中に暗い影を落としている新型コロナウイルスの影響は、夢を追って海を渡る若者にも及んでいる。1月の第98回全国高校サッカー選手権で神戸弘陵の主将として3得点したMF沖吉…

米大学へ進学予定の沖吉大夢が、コロナ禍の後輩へ伝えたいメッセージとは

 世界中に暗い影を落としている新型コロナウイルスの影響は、夢を追って海を渡る若者にも及んでいる。1月の第98回全国高校サッカー選手権で神戸弘陵の主将として3得点したMF沖吉大夢(たいむ)。米国の大学への進学が決まっているが、渡米時期は不透明に。語学留学先のフィリピンからも緊急帰国を余儀なくされたが、本人はブレずに目標を見据えた日々を送っている。優れたメンタリティを持つ18歳は、不安な時期を過ごしている後輩たちへエールを送った。

 主将として神戸弘陵を4年ぶりの選手権16強に導いた沖吉。英語の習得に加え、米MLS(メジャーリーグサッカー)で活躍する夢の実現のため、今秋9月から米ユタ州のソルトレイクコミュニティカレッジに入学することになった。海外への挑戦を支援する株式会社「WithYou」を介してプレー動画を各大学に送ったところ、複数の入学オファーがあったという。

「費用全額免除の大学もあったみたいですが、そこに行ったからと言ってプロに近いか、など考えていくとそうではなかったりしました。ある程度レベルは上の方がいいし、僕の考えなども伝えさせてもらって、ベストな条件として会社(WithYou)が勧めてくれた大学に決めました」

 レベルの高さや環境、費用面などの条件を考慮して最善の選択をした。7月渡米、9月入学のため、高校卒業後にフィリピンで3か月の語学留学をして備えるつもりだったが、新型コロナウイルスに予定を狂わされることになる。

 語学留学直前、地元の神戸にも留学先のセブ島にも感染者は出ていなかったが、ウイルスがニュースで話題になりつつある頃だった。セブ島の学校側に状況を問い合わせたところ、授業を提供するには問題がなく、予定通り行う通達があったため現地へ飛んだが、待ち受けていたのは予想外の連続だった。

 到着翌日、学校側から突然の休校が伝えられた。数日後には政府から17時以降の外出禁止が発令され、生活必需品を買いにスーパーに行ったり、気分転換に学校のプールで泳いだりする以外は、自室でひたすら英語教材と向き合う日々に。セブ島の感染者は「1人いたかいなかったか」という状況だったが、まもなく島のロックダウンを政府が決めたため日本へ緊急帰国することになった。滞在できたのはわずか1週間。授業は結局1度も受けることができなかった。

留学中止、渡米が不透明な状況にも「不安はない」と断言

 現地ではスーパーでレジに並ぶと間を空けられる、すれ違う人から顔を隠されるなど“差別”も受けたが、現地の人々が病魔に敏感なのは理解できたという。

「日本ほど医療が発達していない。感染者が1人とかでもロックダウンしたのは、『コロナにかかったら死ぬ』くらいの感覚だからだと思うんです。免疫力も強くない、医療も整ってない、かかったらヤバイという感覚だから、僕らも避けられる。だから政府も早く対応したのだと思います」

 不測の出来事とは言え、わずか1週間で留学が中止に。新型コロナウイルスの影響で米国へのビザは下りない状況となり、入学が9月になるかどうかも不透明だ。それでも、沖吉は「不安はない」と断言する。

「留学が1週間で終わって、正直『うわー……』ともなったし、お金もかかっているので親に申し訳ないなと思いました。でも、マンツーマンのレッスンはなくなるけど、そのほかは自分が日本に帰ってやるかやらないかだったので。

 正直、コロナがどうなるかはわからないけれど、その状況で合わせていくしかないかなと思ってます。(渡米が)伸びれば伸びるって決まったからそれに対応するしかないし、誰が悪いとかではないし。その時その時の状況に合わせるしかないよなと。合わせられる人が強い人だと思いますから」

コロナ禍の後輩たちへ伝えたいこと「つらいと思うけど、前に進み続けてほしい」

 現在は兵庫で語学の勉強、自宅ガレージでのトレーニングなどに励む毎日だが、コロナ禍に苦しむ後輩のためにやっていることがある。「1人だと限界があるけど、2人なら選択肢が増えますから」。公共交通機関は使用しない、人ごみには近づかない、ランニングやボールを扱った練習など全てで2メートル以上の距離を設けるなどの感染症対策を徹底したうえで、神戸弘陵の後輩の自主練習に付き合っている。

 夏の全国高校総体は、史上初の中止が決定。後輩たち、特に3年生の無念は計り知れない。沖吉は「つらい気持ちは十分にわかります」としながら、後輩に向け「前に進み続けてほしい」とエールを送っている。

「自分の時にはなかったことなので、簡単に言えることではないですが、ずっと引きずることがもったいないのは確かだと思います。今できることを見つけて、前に進み続けてほしい。大学でサッカーを続ける子もいますし、高校サッカーで報われなかったとしても、そこまでのプロセスが絶対に参考になるし、大学で開花して『あの苦しい時期に努力した賜物だな』と思えたら素晴らしいことだと思います。

 僕もいつアメリカに行けるかわからないし、今後どうなるかわからない状況ですが、不安や恐れはありません。苦しい時にどうすれば良い成果が返ってくるか、サッカーを通じて学んだからです。何をやっても苦しい時期や思い通りにいかない時期はある。何か言い訳を付けてやらないのか、ひたすら自分の希望を見つめてやるかなら、後者の方がいい。だから、後輩たちには『誰よりもこの時期を実りあるものにしてやる!』って思えるようになってほしいとお勧めしたいです」

 気持ちを切り替える難しさは理解しつつも、強いメッセージを送った。夢の1つに「人の笑顔を作る」ことを掲げ、中学時代から様々なジャンルの書籍を読み漁ってきた努力家は、今を懸命に生きることの重要さが身に染みてわかっている。「自分がやりたいことは見失わず、毎日を過ごしていきたい。できることを追い求めていいと思うし、そこだけはブレたくないと思います」。渡米がいつになろうとも、その時に備えて己を磨くだけ。後輩たちがサッカーに打ち込める日常が戻ることを望みつつ、ポジティブに夢を見据えて邁進していく。(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)