文 岡田真理構成 SPOZIUM編集部出典:SPOZIUM 2015年6月5日(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)前編では松本泰介弁護士に弁護士としてのスポーツへの関わり方や、日本のスポンサーシップビジネスにつ…
文 岡田真理
構成 SPOZIUM編集部
出典:SPOZIUM 2015年6月5日
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
前編では松本泰介弁護士に弁護士としてのスポーツへの関わり方や、日本のスポンサーシップビジネスについて語っていただいた。後編となる今回はスポンサーシップビジネスの変移や解決すべき課題、そしてオリンピックに向けての可能性についてさらに話を伺っていく。
Q4.日本のスポンサーシップ契約は、今と昔でどのような違いがありますか。
かつては企業名の看板やロゴを露出するだけが主流でしたが、アクティベーション中心である世界の流れを追うようにして、日本も少しずつそちらに移行しつつあります。単にロゴを出すだけではチームや選手の成績頼みになりますが、それよりも選手の人間性や総合的なキャリア、チームのブランディングなどに着目することで、CSRの一環として企業のブランドイメージを長期スパンで上げる、そういうニーズが増えているのです。
例えば、「スポンサードしていることを表立って発信する必要はないが、社内や関係者に向けて複数回講演を行って士気を上げてほしい」といったリクエストがあります。これは、アクティベーション中心のスポンサーシップに移行した事例の一つと言えるでしょう。
法務的なことで言うと、昔は内容が画一的だったので契約書もひな形を使えばよかったものが、スポンサー企業からのニーズが多様化しているために、個々に対応した文言を盛り込む必要が出てきます。その場合、スポンサー企業の法務部の方々も今まで対応したことのないケースに直面することになるため、弁護士に相談することが増えてきています。
Q5.スポンサーシップ契約のトラブルの事例としては、どんなものがありますか。
まずは、想定していたメリットが提供されないことです。過去には、契約書の記載が曖昧で選手のアピアランス活動(企業の販促キャンペーンへの出演など)が行われなかったこと、追加の費用を請求されたことなどもありました。中には訴訟になるケースもあります。
二つ目は、相手の一方的な事情で契約が更新されないこと。例えば、担当者が代わったのを機に契約が終了してしまったり、露骨な代理店外しがあったり。あとは、もっと多くの対価を払うライバル企業が出てきたことを理由に(コンテンツ側が)契約を終了し、そちらに乗り換えてしまうケースもあります。そうならないためには優先交渉権を契約書に盛り込むなど、契約満了後に関しても担保しておく必要があるでしょう。
三つ目は、最近非常に注目度が高くなっていますが、スポーツ団体や選手による不祥事です。SNSの炎上からスキャンダル、犯罪まで様々なケースがありますが、こういった場合、チーム関係者や選手本人、まわりのスタッフも初めて経験することがほとんどで、どのように対応したらいいのか、現場には十分な経験値がありません。一方で、スポーツの社会的影響力は極めて大きいため、どのレベルの不祥事でスポンサーシップ契約を解除するのか、選手として復帰できる道をどのように模索するのかなど、弁護士の的確な判断のもとで対応を進める必要があります。
Q6.日本と海外のケースを比べると、どんな違いがありますか?
まず圧倒的に違うのは、法的素養を持った担当者が多いことです。法的知識、ビジネスの知識の量が海外はとても多い。先日、全米スポーツ弁護士協会(Sports Lawyers Association)の年次総会に出席してきましたが、弁護士はもちろんのこと、スポーツビジネスに関わる企業内で働く弁護士資格を持った担当者も非常に多く出席していました。日本にはそのような担当者はほとんどいません。スポーツビジネスに関わる企業自体の意識も高いのだと思いますし、彼らの経験値も日本よりはるかに高いです。
契約締結交渉の進め方にも違いがあります。日本は「こういうものはこうですよね」という一つの相場に合わせようとする傾向がありますが、海外ではあえて相場観というものを持たず、新しいスポンサーシップの形を「自分はこれをいくらで進めたい」といったようにディスカッションベースで進めて、デッドラインまでに折り合ったものがディールになるという進め方をすることが多いです。
Q7.オリンピックに向けて、どのような機運の高まりが見受けられますか?
スポーツにおける広告価値というのは、ほかのエンターテイメント産業にはない唯一のものだと私は思っています。なぜなら、結果を誰も知らないものだから。そして、ライブ性も強い。そこから発生する価値は非常に強いものであり、ドーピングや八百長などがない限り、絶対に失われないものです。
テレビCMのような人間が創作したコンテンツに何億かけても感動や共感を得にくいことはありますが、生モノであるスポーツからは爆発的な効果が生まれます。デジタル中心の殺伐とした時代だからこそ、素の人間がもたらす極めてアナログな感動や共感に関連したスポンサーシップの価値が、今まさに見直されていると感じています。
「今まではなんとなくやってきたけど、東京オリンピックを機にもう一度見直してみよう」という動きは確実にあり、実際に問い合わせも増えています。これまではアメリカと日本では雲泥の差でしたが、これを機に日本のスポーツビジネス界がレベルアップする、つまり市場がさらに大きくなる、そんな確信がありますね。
岡田真理
立教大学卒業後、カリフォルニア大学バークレー校エクステンションにてマーケティングのディプロマを取得。帰国後はプロアスリート専門のマネジメント会社に勤務し、K-1選手やプロ野球選手などのマネジメントに携わる。退職後スポーツライターに転身し、アスリートのインタビュー記事やスポーツ関連のコラムを執筆。
2014年にNPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーションを設立し、代表を務めている。