専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第252回「由緒正しい名門コースを守れ」と言われても、何をどう守るのか、ピンとこないと思いますが、この言葉を放ったのは、タイガー・ウッズですからね。ちょっと耳を傾けてみましょう…
専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第252回
「由緒正しい名門コースを守れ」と言われても、何をどう守るのか、ピンとこないと思いますが、この言葉を放ったのは、タイガー・ウッズですからね。ちょっと耳を傾けてみましょう。
タイガー・ウッズが危惧しているのは、由緒ある昔の名門コースが今や”ポンコツ扱い”になりつつあること。言い換えれば、昔の人が一生懸命造った名門コースは、現在のPGAツアーのトーナメントで使用するには、いささか距離が足りない。「じゃあ、改造するか」となると、昔のよさが失われ、文化的な価値が失われてしまうのではないか、そう危惧しているのです。
こうしたことは、アメリカに限らず、日本のコースにも言えることです。プロのトーナメント開催のため、コースの全長を7300ヤードぐらいに延ばすのはいいけど、「じゃあ、そのフルバックティーは、大会が終わったら、誰が使うのよ?」となったりしますからね。
コースの至る所を改造し、距離を長くして難しくしても、1年52週のうち、トーナメントで使うのは、大会期間の1週間のみ。残り51週は、さほど飛ばないアマチュアがラウンドするんですよ。宝の持ち腐れにならないか、といった懸念があります。
これが、マスターズの専用コース、ジョージア州にあるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブなら、問題ないと思うでしょ?
まあ、ポンコツ扱いを受けたり、改造して宝の持ち腐れになったりはしませんが、ここは、毎年と言っていいほど、改造がなされています。
マスターズは、決してヘビーラフにはしません。見た目の美しさも重要視され、意図的にきれいなフェアウェーが多めのセッティングになっています。そうなると、距離を延ばして、飛ばし屋のプロに対抗していくしかないわけです。
要するに、マスターズの専用コースでさえ、飛ばし屋プロの対処に苦慮している、ということです。
というわけで、プロの飛距離アップが進むなか、ゴルフのレギュレーションや、文化遺産的に見るコースの在り方など、いろいろと考えてみたいと思います。
(1)プロとアマのレギュレーションを分ける案
そもそも、いまだに我々アマチュアが使うドライバーと、タイガー・ウッズら一流のプロが使うドライバーが、同じ規定のもと、作られているのが不思議です。それを改めるため、そろそろプロはプロの規定を作って、飛距離問題に終止符を打つ、といった案が浮上しています。
つまり、プロは飛ばないクラブ、飛ばないボールなどを使用して、これ以上、飛距離アップをさせない――さすれば、コースの距離を延ばす必要がなくなる、というものです。
過去にも、水面下ではこの考えが議論されたようですが、答えは出ませんでした。というのも、プロとアマが違うクラブを使うと、クラブ販売に支障をきたしたりするからでしょう。
でも、もともとプロのスペックはまったく違いますからね。その辺、賢明なアマチュアはわかっています。
だから、プロがトーナメントで優勝し、そこで使用したクラブと同じものを市場に売り出していこうとする商売は、もはや曲がり角にきているかもしれません。
とくに日本じゃあ、男子プロの使用クラブよりも、渋野日向子選手の使用クラブのほうが人気ですからね。だいたい男子用のギアで人気なのは、PGAツアーのトッププロが使用するクラブです。
今では、日本人男子プロが何を使おうが、さほどマーケットには影響しません。これが、悲しい現実です。日本人男子プロは、もっとイメージアップにがんばってほしいところです。
(2)往年の名コースを「改造する」ということ
東京五輪の延期で、ゴルフ会場となる霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県)も困っていることでしょう。実は約半年間クローズして、オリンピックに備えていたのですから。
1年間の延期となると、また「半年、クローズかよ」って、マジで笑えない状況になる可能性があります。個人的には、大会会場になることをいっそ返上して、若洲ゴルフリンクス(東京都)か、軽井沢72ゴルフ(長野県)あたりに譲ったらいいのに、と思っています。
オリンピックコースの会場は、霞ヶ関CCの東コースです。このコースは、日本のコース設計家の草分けとなる藤田欽哉や赤星四郎ら、数人が手分けして設計し、完成して間もない頃、世界的な名設計家であるチャールズ・ヒュー・アリソンが立ち寄って、改造を加えた由緒あるコースです。しかも、日本のコースレートの基準コースになっていたのです。
そのコースが2016年、トム・ファジオとその息子ローガン・ファジオの設計によって、大改造が施されました。オリンピックだからって、そんなことしちゃって、本当にいいんだろうか? はたして、日本の名匠が設計し、C.H.アリソンの改造した歴史的なコースはどこにいったのかしら?
改造後のコースは、実際には見ていません。ホームページには、「C.H.アリソン氏が改造したクラシカルな印象を残した」との説明はあるものの、昔の面影がどれぐらい残っているのか……。またそこには、「新たな時代に適合する」という文言があり、そこも気になります。
オリンピックのために、「PGAツアーに負けないコースを造る」とがんばられても、ここは日本ですからね。しかも、コースの改修を外国人に頼んだこともねぇ……。
せっかく日本で開催するのだから、日本人設計家のすばらしさを見せてあげたかったと思うのですが。国立競技場だって、いろいろあったけど、最終的には日本人が設計しましたからね。
日本開催のオリンピックだから、日本風の佇まいのコースでやるべきだと思うんですけど。日本人設計家、誰かいなかったのでしょうか?
(3)歴史的遺産として
以前にも触れましたが、スコットランドのセントアンドリュースGCが旧市街と一緒に、世界遺産への登録をしているそうです。結果は、数年後に発表されると思いますが、もし決まれば、世界初の世界遺産のゴルフ場となります。
そう考えたら、50年後には日本にだって、世界遺産となるゴルフ場が出てくるかもしれません。その時、一番の候補となるのは、廣野ゴルフ倶楽部(兵庫県)でしょうね。
ここは、名匠ハリー・コルトの弟子、C.H.アリソンが設計。C.H.アリソンがコルトのために、「世界の有名コースのエッセンスを取り入れた」傑作と言われています。
そういう文化的遺産を継承していくのは、やはりアマチュアの倶楽部のみなさんだと思うのです。元の設計を生かして改造するのは構わないけど、関係ない人を呼んで、別なイメージのコースにはしないでほしいですよね。
そのほか、赤星四郎、井上誠一、上田治などが設計したコースも、日本的なエッセンスが入っていて、後世まで残してほしいものです。
当時は、井上誠一の設計と言えども、ドライバーの飛距離は260ヤードぐらいを想定して造られており、今のプロが打てば、ガードバンカーを軽く超えていきます。
だからといって、そうした歴史あるコースに対して、プロが「短くて試合に使えない」などと言い放っていいのか。大いに問題です。
由緒ある名門コースなどは、みんなでその姿を守っていけるといいんですけどね...
そんなわけで、古い名門コースは、女子ツアーやシニアツアーに利用してもらって、男子のレギュラーツアーには貸さないほうがいいです。代わりに、男子ツアーでは、平成時代に作られた外国人設計家のコースを使えばいいんです。日本オープンも同様です。
男子ツアーにおいては、コースの面白さと難易度を試合に求めながら、同時に倶楽部の伝統や権威まで求めたりするから、面倒なことになるのです。
一度潰れたり、売り出されたりしたコースでも、なかなかいいコースはたくさんあります。飛距離の出る男子ツアーは、そういうところを改造して、試合をやればいいんじゃないでしょうか。