「正直、まだまだ物足りないですね。(自らのゴルフに)納得していない」 そう語るのは、ツアー通算14勝を誇る有村智恵(32歳)だ――。自らのため、ゴルフ界の発展のために奮闘を誓う有村智恵 新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、国内女…

「正直、まだまだ物足りないですね。(自らのゴルフに)納得していない」

 そう語るのは、ツアー通算14勝を誇る有村智恵(32歳)だ――。



自らのため、ゴルフ界の発展のために奮闘を誓う有村智恵

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、国内女子ツアーは開幕からトーナメントの中止が続いている。そうした状況にありながら、多くの選手がツアー再開に向けて、今では自宅などの限られた条件のなかで、日々練習やトレーニングに励んでいる。

 それは、有村も同様だ。先行きが見えないなかでも、黙々とトレーニングを重ねていることだろう。3月の初めに、そんな彼女に話を聞く機会があった。改めて今季の目標について訊ねると、こう答えた。

「やっぱり『もっと優勝したい』という気持ちもありますし、(もう一度)いいプレッシャーのなかで戦いたいな、というか……。昨季はずっと、予選を通過するか、しないか、といったプレッシャーのなかで戦っていたので。かつて自分が経験してきた優勝争いや賞金女王争いといった、そういう重圧のなかで戦える選手になりたいな、という気持ちはあります」

 昨シーズンは優勝こそなかったものの、大東建託・いい部屋ネットレディスでは2位タイに入るなど、何度か上位争いを演じている。賞金ランキングも37位となってシード権を獲得したが、1シーズンに複数の優勝を重ね、賞金女王争いにも加わっていた頃の自分と重ね合わせると、不甲斐なさを感じてしまうのだろう。

 2006年にプロテストでトップ合格を決めた有村。翌2007年にツアー本格参戦を果たすと、いきなり賞金ランキング13位となってシード権を獲得した。さらに、2008年シーズンにはツアー初優勝を遂げて、翌2009年シーズンには年間5勝を挙げ、年間獲得賞金は1億円を突破、賞金ランキングも3位まで上り詰めた。

 以降、コンスタントに勝利を重ねて、2013年シーズンから米女子ツアーに挑戦した。だが、慣れない環境のなか、ツアーで結果を残すことは簡単ではなかった。そうして、これといった成績は残せぬまま、2016年に故郷の熊本県が地震に見舞われたこともあって、志半ばで国内復帰を決心する。

 日本ツアーでは誰もが認めるトッププロだが、復帰当初の有村は、米ツアーでの苦悩そのままに、苦しい戦いが続いた。出場数が限られていた2016年シーズンだけでなく、フル参戦を果たした2017年シーズンも、優勝争いに加わるようなことはなく、賞金シードを獲得することができなかった。

 それでも2018年シーズン、サマンサタバサ ガールズコレクション・レディースで6年ぶりのツアー優勝。見事な復活Vを飾ると、再び賞金シードも手に入れた。有村自身、アメリカでの経験を糧に、知り尽くした環境の日本でなら、まだまだ戦えることを再認識したに違いない。

 ただし、女子アスリートは一般的に、20代前半をピークにして、その後は歳を重ねるにつれて、身体能力や筋力が低下。高いパフォーマンスを保持し続けるのは、年々難しくなると言われている。今や、他のスポーツと同様、ゴルフも低年齢化傾向にある。

 つまり、有村がもう一度、自らが最も輝いていた20代前半の頃のようなプレーをしたいと思っても、そのハードルはかなり高いと言わざるを得ない。昨季、未勝利に終わってしまったことも、それを物語っている。

 とはいえ有村は、ギリギリの緊張感の中で戦っていた”スリル”をもう一度、味わいたいのだ。

「今思うと、やっぱりプレッシャーのある試合が一番楽しかったです。本当にキツいんですけれども、最近の戦いの中で感じているプレッシャーよりもずっといい。現在は、予選通過を争う場所で集中力を切らさずに戦わなければいけないプレッシャーばかりですから、ずっとモヤモヤしているんです。

 今年は、以前のような(プレッシャーを感じる)場所に行きたい、という気持ちを持って、すべての試合に臨みたい。そういう気持ちで挑むことで、やっぱり楽しさも出てきますから」

 ところで、有村は「日本の女子ゴルフ界をもっとよくしたい。盛り上げたい」という思いも強い選手だ。自分の目で見て、感じてきた米ツアーのいい部分を、日本の事情に沿った形で還元できないか、選手の立場で常に考えてきた。

 2019年には、日本女子プロゴルフ協会の選手会にあたる『プレーヤーズ委員会』の委員長を務め、協会のスタッフ、選手、関係者たちと、さまざまな意見交換も行なっている。有村が語る。

「この10年で(日本の)ゴルフ界を取り巻く環境がどんどん変わってきていることを実感しています。外から見ると、確かに女子ゴルフ界はすごく盛り上がっているように見えますが、ゴルフ業界全体でみると、ゴルフ愛好者の減少も含めて、経済的にもどんどん厳しくなっていると感じることがあります。

 そうした状況のなか、たとえば、ファンの方にサインをしたいけれど、大会の運営側から『危ないから』と言われて、満足なファンサービスができないこともあります。人が押し寄せて『危険だ』というのはわかりますけど、そういった部分をあまりにも厳しくしてしまうと、ファンが少しずつ離れていってしまうんじゃないか、と心配になったりします」

 こうしたファンサービスにおいては、大会に関わるボランティアやスタッフなどの人手不足の問題もあるだろう。ともあれ、このようなことを含めて、今の女子ツアーやゴルフ界が抱える問題を、有村はひとつずつ解決して、ツアーはもちろんのこと、ゴルフ界全体をよりよくしていきたいと考えている。

 それには、有村のこんな思いがあるからだろう。

「新しくゴルフを始める人たちが少なくなってきているんですが、いつか憧れの職業に『女子プロゴルファー』が入ってきてほしい。そうなってくれることが、私の夢なんですよ。野球選手やサッカー選手になりたい、という子どもは多いじゃないですか。それと同じように、子どもたちから『ゴルフ』というワードが出てきてほしいな、という思いがあります」

 そして、有村は昨年末、ゴルフをもっと身近に感じてもらうためのひとつの試みとして、プロゴルファーの有志たちでインスタグラム『ladygo.golf』のアカウントを立ち上げた。渋野日向子をはじめ、人気の女子プロの多くが登場することもあって、ファンの間でも好評を博し、すでに多くのフォローワーがついている。

「いくら自分たちが試合でがんばっても、ゴルフ界が不況になっていくと、厳しい時代を迎えてしまうと思うので、できるだけゴルフ界が盛り上がっていくように、これからもいろいろなアクションを起こしていけたらいいな、と思っています」

 自身のゴルフの技術向上も大事だが、ツアーを引っ張っていくベテラン選手として、自らの使命かのように、ゴルフ界の盛り上げ役を買って出る有村。それだけに、彼女が再び優勝争いに加わって、奮闘する姿が見られることを期待したい。

 そういう姿を見せられれば、憧れの職業に「女子プロゴルファー」という文字が出てくる日も、近づいてくるのではないだろうか。