新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、スポーツ界に大きな影響が及んでいる。 日本サッカー界では、現時点でJリーグ再開の目処は立っていない。大学生以下のカテゴリーもほとんどのチームが活動できておらず、今季の大会スケジュールも予定どおり消…
新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、スポーツ界に大きな影響が及んでいる。 日本サッカー界では、現時点でJリーグ再開の目処は立っていない。大学生以下のカテゴリーもほとんどのチームが活動できておらず、今季の大会スケジュールも予定どおり消化できるか不透明な状況が続いている。
早く練習ができる日常を、ユースサッカー界も待っている
どのカテゴリーも難しい対応を迫られており、高校生が主となる2種年代のカテゴリーも同様に厳しい現実に直面している。2月中旬はJリーグ同様に全体練習を行なっているチームがほとんどだったが、日を追うごとにその数は減少。とくに潮目が変わったのは、政府から一斉休校の要請が出た2月27日以降で、学校の方針に合わせるチームが一気に増えた。
Jリーグクラブの育成組織は、トップチームの方向性も加味して活動停止を決断するところが多く、全国高等学校体育連盟(高体連)のチームも任意の自主練習に切り替える動きが目立つようになった。
3月に入ると、自粛ムードはさらに加速。春休み期間中に予定していた各地域のフェスティバルは中止となった。練習試合も感染拡大が見られない一部の地域を除いて自粛する傾向が強まり、2種年代最高峰の戦いとなる高円宮杯JFAU-18プレミアリーグも4月3日に開幕日を再延期すると発表。現時点では新たな日程を確定させるまでに至っていない。
関係者によると、高円宮杯プレミアリーグや各地域のプリンスリーグは2回総当たりの大会方式を1回総当たりに変更。6月下旬の再開を目指して動いているとのこと。ただ、高体連主催のインターハイは予選延期や中止を余儀なくされる地域が増加。その先には、Jリーグの育成組織や街クラブが参加する夏のクラブユース選手権や、秋のJユースカップ、さらに冬の全国高校サッカー選手権も控えている。
さらに今秋にはU-16代表とU-19代表が、来年のU-17とU-20ワールドカップの出場権を懸けて、それぞれ各年代のアジア選手権を戦う予定になっている。全体のスケジュールを考慮したうえで、今後の動きを決める形になりそうだ。
各チームも対応に頭を悩ませており、4月7日に緊急事態宣言が発令されたことも重なって、トレーニングができない状況が続いている。
昨季の高校サッカー選手権で初の8強入りを果たした埼玉県の昌平高は、3月2日から練習を中止。一旦は4月8日を目処に再開を考えていたが、休校が5月6日まで延長された影響でさらに約1カ月の自粛を決めた。
練習休止中は個別に練習メニューも課しておらず、安全を第一に行動を取ることを指示。藤島崇之監督は「政府からの要請が出ている事態なので、こちらからは選手に自宅で練習することを求められない」とし、異例の事態に頭を抱えている。
プレミアリーグEASTの流通経済大柏高校(千葉県)も3月中に一度は自主練習を再開したものの、緊急事態宣言を受けて再び活動を停止。同WESTの東福岡高校(福岡県)は4月8日に全体練習再開を決めていたが、5月6日まで全活動を停止する処置を取った。
多くのチームが、状況を見ながら活動を再開できるタイミングを待っている。栃木県の矢板中央高校に話を聞くと、再開の際は、選手の健康状態把握にも最大限に気を配り、毎日の体温測定を義務付けたうえで、今後の活動を行なっていく方針とのこと。
トレーニングができないなかで、新たな取り組みを始めたチームもある。ゴールデンウイーク明けまで活動を自粛している千葉県の市立船橋高校では、健康管理アプリを今季から導入。選手のコンディション管理を目的に新型コロナウイルスが蔓延する前の2月から取り入れていたが、思わぬ形で効果を発揮する結果となった。
このアプリの特徴は、全選手がスマートフォンからデータを入力し、全スタッフがPCなどからチェック可能な仕組みにある。記載項目は多岐にわたり、コンディション管理では体温、起床時間、心拍数、ケガの詳細など10項目。食事管理では朝・昼・夜の食事、補食の記録や競技に合った栄養素の目安を把握できる。いずれも記録したデータのグラフ化に対応しており、摂取したエネルギーや栄養素までアプリだけで管理が可能だ。
新型コロナウイルスの感染拡大が進んでからは、より細かく選手に情報を入力することを徹底。チームを率いる波多秀吾監督は「新型コロナウイルスが流行してからは体温や鼻水、咳などの有無も細かく入れるようにし、スタッフが毎日アプリで見られるようにしました。選手たちの体調管理に役立っていますね」と、体調の可視化にメリットを感じている。
離れ離れになっているチームの体調管理に、スマートフォンとアプリが活躍している
photo by ICHIRITSU FUNABASHI
そのほかにもチーム全体でコミュニケーションが円滑に取れるように、個別のメッセージ機能や全員が共有できる連絡ボードが設けられている。波多監督によれば、そうした機能が活動自粛中に役立っているという。
3月中旬に初めて活動停止した際には、連絡ボードを有効活用。試合中のプレー動画を5つほど切り取り、全部員に意見を求めた。すると、トレーニングだけでは見えてこない選手たちの考え方が見えてきたと指揮官は話す。
「連絡ボードに動画を送り、『これについてどう思うか、誰がどうしないといけないとか、改善するためには?』というのを選手に問いかけたんです。すると、個々のサッカーに対する理解度がかなり見えてきました。やり取りをしていくと、知識を持っているのがわかったんです。ただ、それをピッチで表現できない選手もいる。頭とプレーでギャップがあることに気づかされましたね」
選手たちにも好評で、こうした取り組みがサッカーと向き合う時間になっているとメリットを実感している。
このアプリをすでに取り入れているプロクラブもあり、高体連やJリーグの育成組織を入れて約100チームほどが導入済。他競技でもプロ野球やバスケットボールのBリーグでも利用しているチームがあり、こうした取り組みがトレンドになりつつある。
いつ収束するかわからないコロナ禍。各チームは工夫を凝らしながら、さまざまな試みを続けている。このピンチをチャンスに変えられるか。安心してスポーツができる日が訪れると信じ、歩みを進めていく。