サッカースターの技術・戦術解剖第4回 アーリング・ブラウト・ハーランド<16歳の確変> 筆者の息子がまだ小学生のころ、たまに「ウイニングイレブン」で遊んだ。私は玉田圭司の身長を2mにした改造タマダをFWに起用にしていた。改造タマダの威力は凄…
サッカースターの技術・戦術解剖
第4回 アーリング・ブラウト・ハーランド
<16歳の確変>
筆者の息子がまだ小学生のころ、たまに「ウイニングイレブン」で遊んだ。私は玉田圭司の身長を2mにした改造タマダをFWに起用にしていた。改造タマダの威力は凄まじく、スピードとパワーで名だたる世界的DFを打ち砕き、その躍動ぶりは笑ってしまうほどで、玉田にあのサイズ感があれば日本はワールドカップで優勝できただろうと思えた。
今冬に移籍したドルトムントでも、順調にゴールを挙げているハーランド
アーリング・ブラウト・ハーランドがノルウェーのモルデでプレーしていた時、負傷でしばらくチーム練習から離れていたという。戻ってきた16歳のハーランドは見違えるように大きくなっていて、急に点をとりはじめた。
チームメートの当初の印象は「そんなに大きくなかった」というが、現在のハーランドは194cm、87kgだ。大柄なノルウェー人の中でも大きくないわけがなく、全体練習から離れているうちに急成長し、サイズ感の違う改造人間のようになっていたわけだ。
モルデでは39試合に出場して14ゴール、2019年1月に移籍したザルツブルクでは16試合17ゴール。そして、昨年 の12月にはドルトムントへ移籍して8試合9ゴール。新型コロナウイルスの影響でヨーロッパ主要リーグは止まっているが、すでにレアル・マドリードへの移籍の噂も出ている。
10代で一気にスターにのし上がる選手は何人かいる。その中には数年後に世界的なスーパースターに飛躍する人もいるし、いつのまにか忘れられてしまう選手もいる。ただ、19歳のハーランドが怪物的なのは確かだ。
2m近い巨体にもかかわらずスプリントが速い。ステップワークもよく、足下もかなり器用だ。左足の一撃は速く重く、GKとの1対1から冷静に決めることができる。
2019年のU-20ワールドカップのホンジュラス戦では、9ゴールを挙げた。
ノルウェー史上最多の12-0というスコアもすごいが、ハーランドのひとりで1試合9得点は異常といっていい。ドルトムントでのデビュー戦でもハットトリックを記録していて、チャンスがあればいくらでも点をとりそうな凄みがある。ただ、なぜそんなにとれるのかは、正直まだよくわからない。
<ゴールを量産できる体格>
得点能力にはもともと確たる理由がわからないことが多い。スピードがある、キックが正確など、特徴はそれぞれある。しかし、速いからといって点がとれるとは限らず、うまくてもそんなにとれないタイプもいる。FWに得点能力が必要なのは明白だが、プロのスカウトに聞いても、得点能力については「点をとれている」という結果から判断しているとの話だった。
なんだかわからないが点がとれる。そういう選手は確かにいるが、ハーランドがゴールを固めどりできるのは、おそらくプレースタイルに関係がある。
ハーランドはペナルティーエリア内で勝負するタイプだ。スピードスターにはそれなりのスペースが必要だが、ハーランドにスペースはあまり関係がない。いわゆる「戦車型」「ハンマー型」と言われるFWで、クロスボールなどのラストパスを得点に結びつける。
得点の多くはペナルティーエリア内のゴールエリアの幅の中から記録される。これはアマチュアからプロまで同じで、「ゴールデンエリア」とも呼ばれる場所だ。ゴール正面の至近距離からの得点が多いのは当たり前といえばそうなのだが、その場所でシュートできること自体が才能と言える。
ハーランドには体格がある。長身は単純に空中戦に有利だし、長いリーチや体の大きさや重さは、潰しにくるDFの妨害を制することもできる。得点量産エリアでプレーするのに適したタイプなのだ。決められるかどうかはまた別の能力だが、量産型ではある。
もちろん体格がすべてではない。同じくこのエリアで勝負できて、それゆえ得点を量産していたゲルト・ミュラー(1960~70年代のバイエルン、西ドイツ代表で活躍)やロマーリオ(1980~90年代にPSVやバルセロナ、ブラジル代表で活躍)は身長が低かった。そのかわり、彼らには短い距離での飛び抜けた敏捷性があり、DFに体を当てられる前にシュートを決めてしまう才能があった。
<戦車型の系譜>
サッカーの母国イングランドは戦車型の名センターフォワード(CF)を輩出してきた。エバートンの伝説的FWディキシー・ディーンは1927-28シーズンに60ゴールを決めている。この記録はいまだに破られていない。驚異の得点記録をつくった時は20~21歳の間だった。
イングランド代表として16試合にプレーして18ゴール。10日間に行なわれた2試合で、どちらもハットトリックという固めどりだ。全盛期にプレーしたエバートンでは399試合で349得点のハイアベレージだった。身長は178cmとされているが、当時としては長身の部類だろう。筋骨隆々、得意はヘディングで、60点とった時も半分以上はヘディングだったようだ。
大型で頑健、ボックス(ペナルティーエリア)内で勝負するCFはイングランドだけでなく、この系譜は現代まで尽きることはない。クリスチャン・ビエリはいかにも頑健なストライカーだった。オーストラリアで育ち、イタリアに渡ってセリエCからスタートして名門ユベントスまで上り詰めた時は23歳。
だが、むしろビエリの全盛期はここからで、アトレティコ・マドリードでは24試合24ゴールで得点王を獲得、さらにラツィオを経て1999年にインテルへ。ほぼ1年ごとに移籍してきたビエリがはじめて6シーズンすごしたインテルでは143試合で103ゴールを決めた。
ビエリは185cm、84kgとまさに人間戦車。ただ、全盛期を過ぎると一気に得点できなくなった。インテルから禁断の移籍をしたミランでは8試合と出場数も少ないが1点しかとれていない。ディーンもこれは同じで、エバートンから移籍したノッツ・カウンティでは9試合3得点だった。どちらも負傷の影響はあったかもしれないが、フィジカルの強さが得点の大きな要因だったことも影響していただろう。
ハーランドが尊敬しているというズラタン・イブラヒモビッチもボックス内のモンスター系ストライカーだが、長く第一線でプレーした。再起不能と言われた重傷からも回復して、医師を驚かせている。そのプレースタイルゆえに、このタイプは負傷リスクがあるが、イブラヒモビッチのようなケースもあるわけだ。
豪快に得点を量産するハーランドのキャリアは、まだ始まったばかりである。