2020年からスーパーGTの車両規則が変更され、GT500クラスはドイツツーリングカー選手権(DTM)との共通技術規則「クラス1」が導入されることになった。これにより、トヨタ(昨年までレクサス)、日産、ホンダの3メーカーは新規定に沿っ…

 2020年からスーパーGTの車両規則が変更され、GT500クラスはドイツツーリングカー選手権(DTM)との共通技術規則「クラス1」が導入されることになった。これにより、トヨタ(昨年までレクサス)、日産、ホンダの3メーカーは新規定に沿った新しいマシンを用意した。



新規定によってFRバージョンとなったNSX-GT

 そのなかでも注目を集めているのが、ホンダ勢だ。参戦車両はこれまでと変わらず、ホンダが誇る高級スポーツカー「NSX」をベースとした「NSX-GT」。だが、エンジンの搭載位置がコックピットの前方に変更されたのだ。

 1990年に初代NSXが発売され、2016年にはハイブリッド機能を搭載した2代目が登場。NSXはF1などフォーミュラカーの基本構造にもなっている、コックピットの真後ろにエンジンが搭載する「ミッドシップレイアウト」を採用している。GT500クラスの車両でも、これを採用し続けてきた。

 しかし、DTMとの統一が決定した「クラス1」規定では、エンジン搭載位置はコクピットの前方でなければならない。つまり、これまでどおりミッドシップレイアウトのNSX-GTを製作しても、GTシリーズへ参戦できないのだ。

「NSX=ミッドシップ」という伝統にこだわるべき、という声もあったという。だが、最終的にホンダは新規定に完全準拠したNSX車両でスーパーGT(GT500クラス)を戦うことを決定した。これにより、FRバージョンのNSX-GTが今年、お目見えすることになった。

 新規定で3メーカーが横一線の状態で迎える2020シーズンに向けて、ホンダのスーパーGTプロジェクトの指揮を執る佐伯昌浩ラージプロジェクトリーダーは、年明けの東京オートサロンで集まったファンに向けて今季の意気込みを披露。新規定で王座を奪還する、という気合いが伝わってきた。

「今年はスーパーGT(GT500)がクラス1規則に変わります。ホンダはこの規則に完全準拠したNSX-GTで参戦することに決定いたしました。”やるからには絶対に勝たなければいけない”。そういう強い心を持ってがんばっていきたいと思います。応援よろしくお願いします」

「NSXがFRになる」のは、周囲からすればビッグニュースに聞こえる。だが現場サイドは、新規定で他メーカーと同じ条件でレースができると、かなり前向きに捉えているのが印象的だった。

 ARTA NSX-GT(ナンバー8)を率いる鈴木亜久里監督は、今年1月の東京オートサロンで体制を発表した際、FR化されたNSX-GTについてこのような見解を述べた。

「(NSXがFRに変わることについて)正直、エンジンがどこに載っているとかは重要じゃないです。やっぱりこのカテゴリーで、同じ規則のなかで対決することが重要です。

 昨年までは正直、すごくストレスの溜まったシーズンでした。ミッドシップハンデでいろいろと制限がついて、他の車両と差がついてしまう状況でしたので。でも、同じルールでみんなが横一線になって戦うのは大事だし、僕は面白いと思っています」

 エンジン搭載位置によってパフォーマンスに差が出るため、レクサス(トヨタ)や日産とは異なるミッドシップレイアウトを採用していたホンダ勢は、最低重量が他車よりプラスされるなどの”ハンデ”を背負いながら参戦していた。

 ちなみに2019年は、他社の2台と比べて29kg重かった(レクサスLC500と日産GT-Rが最低重量1020kgに対し、ホンダNSX-GTは1049kg)。また、その追加バラスト(重り)はGTアソシエイションが指定した位置に搭載しなければいけないルールが設けられていた。

 このハンデの設定についても、具体的にどの数値が適切なのか、その判断は難しく、関係者間でもかなり議論が行なわれたという噂だ。しかし、NSX-GTも2020年からFR化することで条件は全社同じとなり、イコールコンディションでの勝負が実現する。

 実際、マシンの開発陣にとっても”腕の見せどころ”と言わんばかりに、気合いが入っている様子だ。昨年から新型マシンの開発テストを担当する山本尚貴(RAYBRIG NSX-GT)は、シーズンオフの開発状況をこのように語った。

「今までは、ミッドシップだったがゆえに言い訳したり、逃げてきた部分が少なからずあったと思います。クルマのキャラクターに関しても、『エンジンの搭載位置が影響していたのかな?』と思っていた部分もありました。でも、実際にはそうじゃなかったんです。FRになった今でも、ミッドシップの頃と変わらない部分がありました。

 昨年までのNSX-GTの動きと比べて悪い部分は変わらないけど、ライバル勢に対して劣っている部分があるとすれば……それはホンダがもともと持っているデータの部分。(エンジン搭載位置にかかわらず)どこかボタンの掛け違いみたいなことが生じていたのかもしれません。

 ただ、それをシーズンオフのテストで、あらためて気づくことができました。今は『逆にこれは面白いぞ!』と、開発陣のみんなもすごくやり甲斐を感じています」

 3月14日・15日に行なわれた岡山公式テストでは、FR化したNSX-GTが5台揃って走行。1日目にはワンツーを独占する速さを見せたが、ドライバーたちのコメントを聞くと、まだ改善点はあるものの、同時に手応えも感じているようだ。

「FRのGT500車両は初めてですけど、そんなに(ミッドシップと)変わらない印象です。動き方も『NSXに乗っているな』という感じです。ただ、改善したいところはあります。大なり小なり、これまでのNSXが持っていたよくない部分も見え隠れしています。それをどうやったら改善できるか、考えていかないといけない。

 ここ数年のNSXは、寒い時は調子がいい感じがあって、逆に夏の数レースではあまりポイントが取れなかった。そのあたりが今年のクルマはどうなるのか、気になるポイントではありますね」(野尻智紀/ARTA NSX-GT)

「岡山テストの1日目にトップタイムを記録することができたのはうれしいけど、まだ満足はしていない。改善したい部分はまだたくさんある。とくに、ハイスピードなコーナーでのスピードを改善したいと思っている。

 とはいえ、NSXをミッドシップからFRにするのは、ホンダにとってもかなりハードな作業だったと思う。そんななか、すばらしい仕事をしてくれたので、テストで速さを見せられたのはよかった」(ベルトラン・バケット/KEIHIN NSX-GT)

 新型コロナウイルスの影響により、今季のスーパーGTは開幕3戦の延期が決定している。さらに3月28日・29日に予定されていた富士公式テストも中止となった。

 しかし、いざシーズンが始まった時、新しく生まれ変わったNSX-GTがどんなパフォーマンスを見せるのか。2020年はホンダの走りに注目が集まるシーズンとなるに間違いない。